配当利回りで割安銘柄を選出するのは理論的ではない

「ダウの犬投資法」というものがあります。NYダウ30銘柄の中から年末時点の配当利回り上位10種を選ぶというものです。NYダウというエリート集団から割安な銘柄を選べばリターンは高くなるだろうという発想です。

確かに、ダウの犬投資法はこの20年NYダウより高いリターンを挙げており結果を出しています。投資の世界は結果がすべてです。しかし、配当利回りで割安度を測るのは理論的ではありません。配当をどれくらい支払うかは経営者の裁量次第です。100の利益のうち無理して95を配当に回しているかもしれません。その高配当は本当に「割安」を示唆するでしょうか?

株のバリュエーションはPERで測定するのが合理的です。EPS(一株当たり利益)と株価の関係を見るということです。より直感的に理解するためには株価に対するEPSの割合、つまり益回りを見るとよいです。

配当利回りと同じ発想です。配当利回り=DPS(一株当たり配当)/ 株価ですよね。DPSをEPSに置き換えれば益回りとなります。

益回りで抽出した裏ダウの犬10種

配当利回りで抽出した2020年のダウの犬10種は以下の通りでした。

ダウ(DOW)
エクソンモービル(XOM)
IBM(IBM)
ベライゾンコミュニケーションズ(VZ)
シェブロン(CVX)
ファイザー(PFE)
スリーエム(MMM)
ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス(WBA)
シスコシステムズ(CSCO)
コカ・コーラ(KO)

上記はNYダウ銘柄の配当利回り上位10銘柄です。では、益回り上位銘柄はどうでしょうか。NYダウ銘柄を益回りが高い順(=PERが低い順)に並べます。赤字にした上位10銘柄が裏ダウの犬10種です。

ティッカー 銘柄名称 予想PER 益回り
GS ゴールドマン・サックス 9.6 10.5%
WBA ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス 9.6 10.4%
IBM IBM 10.1 9.9%
VZ ベライゾン・コミュニケーションズ 12.4 8.0%
TRV トラベラーズ 12.7 7.9%
JPM JPモルガン・チェース 13.1 7.6%
DOW ダウ 13.2 7.6%
INTC インテル 13.5 7.4%
CAT キャタピラー 13.8 7.3%
AXP アメリカ・エキスプレス 13.8 7.2%
CSCO シスコシステムズ 14.1 7.1%
PFE ファイザー 14.3 7.0%
MRK メルク 16.0 6.2%
JNJ ジョンソン&ジョンソン 16.1 6.2%
CVX シェブロン 17.1 5.8%
UTX ユナイテッドテクノロジーズ 17.2 5.8%
BA ボーイング 17.8 5.6%
UNH ユナイテッド・ヘルス・グループ 17.9 5.6%
MMM スリー・エム 18.3 5.5%
XOM エクソン・モービル 19.5 5.1%
AAPL アップル 19.8 5.1%
HD ホームデポ 20.6 4.9%
WMT ウォルマート 22.7 4.4%
DIS ウォルトディズニー 23.0 4.3%
MCD マクドナルド 23.3 4.3%
PG プロクター&ギャンブル 23.8 4.2%
KO コカ・コーラ 24.6 4.1%
V ビザ 26.0 3.8%
MSFT マイクロソフト 26.1 3.8%
NKE ナイキ 29.0 3.4%

低PER=割安と一概に言えるわけではありませんが、少なくとも配当利回りで測定するよりもこうやって益回り(PER)で測定する方が合理的だと思います。

通常のダウの犬とは結構異なる結果ですよね。ゴールドマンサックス、トラベラーズ、JPモルガン、アメリカン・エキスプレスなどの金融銘柄が多く選出されています。低金利というのもあって金融セクターのPERは全体的に低めです。それが結果に表れています。

通常のダウの犬に入っていたコカ・コーラは裏ダウの犬からは漏れました。同社は配当利回りは高いものの、益回りは低い(PERが高い)からです。

2019年の裏ダウの犬10種の成績

昨年も同じように益回り基準で裏ダウの犬10種を選出しました。2019年の裏ダウの犬が以下の10匹です。

ゴールドマンサックス(GS)
IBM(IBM)
JPモルガン・チェース(JPM)
ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス(WBA)
キャタピラー(CAT)
インテル(INTC)
トラベラーズ(TRV)
アップル(AAPL)
アメリカンエキスプレス(AXP)
ベライゾンコミュニケーションズ(VZ)

※ダウデュポン(DWDP)が第9位で選出されていましたが、会社分割したのでベライゾン(VZ)を繰り上げ選出しました。

さて、これら10銘柄の2019年の投資リターンは如何ほどだったのでしょうか。以下はそれぞれの2019年トータルリターンです。

先ず目に付くのがアップル(AAPL)のぶっ飛びっぷりです。AAPLのリターンは88%にもなりました。NYダウのリターン+28%を大きく超えています。2018年末時点のアップルの益回りは9.3%(PER10.8倍)でした。配当利回りは1.9%と低かったのでダウの犬には選ばれませんでしたが、益回りは高かったので裏ダウの犬に選ばれていました。

一方で、マイナスリターンのWBAもあります。TRVやVZはプラスリターンなものの、NYダウのそれを大きく下回っています。

そんなこんなで裏ダウの犬10種の平均リターンは+29.9%でした。

・・・

お!

NYダウの+28.4%を超えてきましたね。2019年は本家ダウの犬のリターンは+19.4%でNYダウにボロ負けでしたが、裏ダウの犬は辛勝となりました。

やはりアップルの+88%という爆益がかなり貢献しましたね。+40%のゴールドマンサックスも頑張ってくれました。

配当利回りより益回り(PER)を見よう!

2019年は、裏ダウの犬 > NYダウ > ダウの犬という結果になりました。

だからって高益回り(=低PER)銘柄に投資すれば万事OKと言いたいわけではありません。PERであれ配当利回りであれ、それ単独で機械的にスクリーニングしただけで、毎年高いリターンを得られるほど投資は甘くありません。

ただ2019年の例は良い教訓にはなると思います。配当利回りではアップルは上位10種に入らなかったですが、益回りでは8位にランクインしていました。それが益回りで抽出する裏ダウの犬のリターンを押し上げました。

配当利回りが低いという理由でアップルを買っていなかったら2019年の爆益をゲットすることはできませんでした。配当利回りではなく益回りで見れば、2018年末のアップルは割安感漂う状況だったのです。

とは言え、これも結果論です。2018年後半はiPhoneの売れ行きが不調というニュースが流れていたし、エアポッズのバカ売れも予想できませんでした。現在の300ドル近いアップルの株価が期待先行し過ぎている面もあるかもしれません。

結局、配当利回りであろうと益回りであろうと、それ単独でその年に爆上げする銘柄を抽出することなんて不可能です。言うまでもないことですが。ただ、どちらかと言うと配当利回りより益回りを頼りにした方がいいと思います。そちらの方が理論的、合理的です。

ダウの犬(配当利回り上位)と裏ダウの犬(益回り上位)の比較は、今後も続けていきます。10年、20年後にどちらが優位なのか結果を下したいと思います。理論的には益回り(PER)と言いましたが、実際は配当利回りで選出した通常版ダウの犬が勝つかもしれません。

2020年 裏ダウの犬10種(低PER銘柄)

最後に改めて2020年の裏ダウの犬10種を載せます。

ゴールドマンサックス(GS)
ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス(WBA)
IBM(IBM)
ベライゾンコミュニケーションズ(VZ)
トラベラーズ(TRV)
JPモルガンチェース(JPM)
ダウ(DOW)
インテル(INTC)
キャタピラー(CAT)
アメリカン・エキスプレス(AXP)

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