ウォルマートは小売り業界(実店舗)で全米最大のシェアを誇ります。ネット通販業界を席巻するアマゾンに食われるのではという思惑から、2015年頃に株価が大きく下がった時期もありました。しかし、ジェット・ドット・コムを買収するなどしてネット販売でも巻き返しを図り、株価も上昇基調に戻っています。

ウォルマートは米国を代表する優良小売り企業なのですが、実は利益率は低いです。ここで言ってる利益率とは売上高を分母にした営業利益率や純利益率などです。ウォルマートの営業利益率は6%台、純利益率は3~4%ほどしかありません。

Market Hackを運営されている広瀬氏は、営業キャッシュフローマージン(営業CF / 売上高)15%以上が優良企業の一つの目安と書籍でおっしゃっています。ではウォルマートの同指標はどれほどかと言えば、約6%です。目安の15%の半分以下としょぼいです。

このようにウォルマートの利益率は非常に低く、これだけを見ると儲かっていないダメ企業に見えるかもしれません。

しかし、繰り返しですがウォルマートは優良企業です。

そもそも、優良企業って何を以って「優良」と言うのか?

従業員にとって優良?
銀行にとって優良?
消費者にとって優良?
株主にとって優良?

私たちは株主、投資家です。なら、やっぱり株主(投資家)に利益をもたらしてくれる企業が優良企業と言えます。

株主にとってのリターンが高いとは、株主資本に対する利益が高いということ。つまりROE(株主資本利益率)が高いことを意味します。ウォルマートのROEは高いです。過去10年の平均ROEは20%ほどあります。これはジョンソン&ジョンソンやオラクル、エクソンモービルに匹敵する水準です。

やはりROEは重要です。ROEが高いということは、これまで株主資本に対して高い利益で報いてきたことの証です。

ROEが高いからウォルマート優良企業と言える。ここで話を終えることもできます。でもそれじゃあつまらないので、もう少し突っ込んでみます。

ウォルマートはあれほど売上高利益率が低いにもかかわらず、なぜROEが高いのでしょうか? 営業CFマージンは6%台と言いました。こんなに低いマージンでROE20%が達成できるのはなぜでしょうか?

結論から言えば、ウォルマートは利益率は低いけども、資本回転率を著しく高めることで高いROEを実現しています。

と、こんなこと急に言われても??ですよね。
数式で見るとわかりやすいので、ちょっと見てみましょう。

ROE=純利益 / 株主資本ですが、それは以下の2つに分解できます。

ROEは売上高純利益率と株主資本回転率に分解することができます。

ウォルマートは左の売上高純利益率は捨てて、右の株主資本回転率を高めることで高いROEを実現しています。平たく言えば薄利多売ってことです。製品の利幅が小さくても、売りまくればROEは高くなるということですね。

ウォルマートのFY17の売上高は約5,000億ドル(50兆円以上)で、株主資本の金額は778億ドルです。株主資本回転率は6.4(5,000 / 778)となります。株主の元手を1年間に6.4回転させているということです。これはかなり高い数字です。

ウォルマートの20%というROEはこう分解できます。

20%(ROE)
≒3~4%(純利益率)×6.4(株主資本回転率)

一般的には、純利益率を高くすることで高いROEを実現している企業が多いです。しかし、ウォルマートは株主資本回転率を高めてROEを向上させています。

ジョンソン&ジョンソンの過去10年平均ROEはウォルマートと同じ20%ほどですが、それを純利益率と株主資本回転率に分解するとこうなります。

20%(ROE)
≒18%(純利益率)×1.1(株主資本回転率)

  ①純利益率 ②回転率 ROE(≒①×②)
ウォルマート 3~4% 6.4 20%
ジョンソン&ジョンソン 18% 1.1 20%

同じ20%のROEでも、その構成要素は異なります。ジョンソン&ジョンソンは回転率で勝負しているのではなく、高付加価値な製品による高い純利益率で勝負しています。 ウォルマートは規模(回転率)で勝負しています。

純利益率で勝負するのか回転率で勝負するのか、どっちが良い悪いではありません。戦略の違いです。結果としてROEが高まれば、株主としては文句はありません。 ただし、ビジネスの特徴に違いがあります。

純利益率が高いということは高付加価値な製品を販売しているということであり、ニッチで小さな企業が同じ業界に複数存在し得ます。一方で、株主資本回転率の高さが強みになる業界では、取引量の大きさがもたらすサプライヤーへの交渉力、サプライチェーンの最適化が最大の武器になります。結果として業界トップが王者となりがちです。

小売り銘柄は地味ですが、投資妙味がある領域だと思います。実店舗が世の中から消えるとは思えない。アマゾンに伍していける小売り銘柄の最有力は、やはり業界トップのウォルマートでしょう。 小売り銘柄をポートフォリオに加えるなら、ウォルマート(WMT)が第一候補かな。