先日、とある読者様からこんなメッセージを頂きました。
Hiroさんに分析して頂きたい銘柄があり、
お願いに参りました。 分析して頂きたい銘柄とはTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co)になります。
ADRがあり、TICKERは「TSM」です。(中略)
株主還元では米国企業に敵わないと思いますが、
会計の専門家から見て、「投資対象としてTSMCはどうなのか」と分析頂ければ幸いです。
恥ずかしながら、台湾セミコンダクターとは名前を聞いたことがある程度でした。
てっきりマイナー企業だと思い込んでいました。
「ブログ記事にはしないと思うので、直接分析ファイルをお送りします」と当初読者様にお答えしました。
なんですが。
この台湾セミコンダクター(TSM)という企業、めちゃくちゃ高収益な企業で驚きました。
エクセルでいつもの財務分析グラフを作りながら唸ってしまいました。
そこで、ブログで台湾セミコンダクターについて紹介することにしました。
TSM財務情報等
業績(単位は台湾ドル)
キャッシュフロー(単位は台湾ドル)
株主還元(単位は台湾ドル)
※自社株買いの金額を把握できず、DPSと配当性向のみ記載
※FY15のDPSがモーニングスターにデータがなぜかなかったが、無配ではなく配当はあった模様
バリュエーション指標(2017/5/7時点)
PER:15.3倍 最新情報はこちら
配当利回り:2.2% 最新情報はこちら
配当性向:34% 最新情報はこちら
感想
台湾セミコンダクターはアップルやクアルコムを顧客とする半導体メーカーです。
半導体をデザインする会社ではなく、下請の製造メーカーです。
下請けの製造メーカーと聞くとあまり収益性は高いように聞こえないかもしれませんが、上で示した通りめちゃくちゃ高収益です。
先ずグロスマージンは約50%もあります。
これはインテルにはやや及ばない利益率ですが、メーカーとしてはかなり高収益です。
純利益率は30%も超えています。
そして、驚くべきは営業CFマージンで、これは60%ほどもあります。
インテルの35%前後を遥かに上回る水準です。
ちょっとなめてました。
収益力を測る指標で見れば、競合であるインテル(INTC)を超えているように見えます。
ここ5年間の売上成長もTSMの方が遥かに高いです。
実は、2017年5月時点での時価総額ではすでにTSMがINTCを上回っています。
TSM:約20.0兆円
INTC:約19.4兆円
大きけりゃいいってもんではないですが、時価総額はこのグローバル経済で企業のビジネスにどれだけの需要があるかを知るための有用な指標と考えています。
売上高ではまだインテルの方が大きいですが、売上規模でも台湾セミコンダクターがインテルを超える日はそう遠くないかもしれません。
TSM、あまり話題に上がらない(私が知らないだけ?)銘柄に思いますが、このように非常に高収益な優良企業です。
バリュエーション的にもPERは15倍で割高感はありません。
最後になりますが、当メッセージを下さった読者様はご自身が半導体メーカーにお勤めとのことで、半導体業界に関する有益で勉強になるコメントを下さいました。
ご本人様の承諾を得たうえで、頂いたメッセージを抜粋ご紹介させて頂きます。
TSMCは半導体製造メーカーで、生産受託を行っており、
生産受託のシェアは6割弱もあります。
主要顧客はAPPLE、QUALCOMM、NVIDIAなどファブレスメーカーになります。 TSMCの強みはINTELやQUALCOMMのように特定の製
品、分野に依存せず、
半導体市場全体の成長を取り込める事だと思っています。
半導体メーカーはインテル、サムスン、TSMCの三強です。インテルはCPU、サムスンはメモリに強みがありますが、TSMCは 受託生産なので、「何でもこざれ」で、色々作っています。 技術的にも、この三社が最先端です。 サムスンやTSMCはとにかく装置を止めない、稼働率を高く維持している印象があります。「メンテナンスをさせてくれ」 と頼んでも止めてくれません。 インテルは定期メンテナンスなど必要な時は止めてくれる印象です。 高い稼働率が利益の源泉かもしれません。
個人的に半導体業界ってあんまりイメージが湧かないです。
例えば、クアルコムとかって何やっている会社か正直あまり理解できていないです。
ググってなんとな~くはわかるのですが。
私は会計財務のことしかわからないので、こういった業界・ビジネスに関する話はとても勉強になります。
これまた優良な情報を有難うございます。
若干半導体関連製品にかかわっており、半導体市場はしばらくはゆっくりな右肩上がりが予想されています。配当もそこそこですし、購入を検討したいところでしたが、株価が急上昇してますね。。PER的には問題ない範囲化とはおもいますが、フォローしていきたい企業です。
こんばんは。
メール下さった読者様に感謝です。
>半導体市場はしばらくはゆっくりな右肩上がりが予想されています。
そうなんですね。
スマホ用の半導体需要は手堅くある感じでしょうか、素人意見ですが。
PCの半導体需要は減っていくのですかね。
あとクアルコムが買収した自動車用半導体のNXPとかも気になります。
自分がいる業界以外のことはなかなか知る機会がないので、今回はとてもいい勉強になりました。
>PER的には問題ない範囲化とはおもいますが
ですよね!
私的にはPER低いな~というのが第一印象です。
以前は10倍台前半だったようです。
私もフォローしていきます。
半導体企業への投資判断はよくわからないです。
クアルコムとか魅力的なバリュエーションに見えるのですがね。
日々勉強です。
すばらしい企業の紹介をありがとうございました。
半導体は浮き沈みが激しく、インテルでさえモバイルの参入が遅れて、スマホの半導体は英のARMにリーディングカンパニーの地位を奪われています。当然に配当再投資の銘柄はあるはずがないと考えて、調べていませんでした。しかし、OEM専業になることで、その浮き沈みから離れ、その時々のもっとも勢いのある企業から製造の発注を受けることができます。
今後、シリコンバレーの半導体ベンチャーも業績が伸びれば製品の製造をOEM企業に依頼するでしょう。
ゴールドラッシュ時に、スコップを売った者がもっとも利益を得たことと同じ感覚を受けます。
投資対象として検討したいと思います。
こんばんは。
いえいえ、私は全く知らない企業でしたので本当に読者の方のお陰です。
インテルは確かにモバイル用半導体のイメージはありませんね。
専らPC用という印象。
ARM社、ソフトバンクが3兆円で買収した会社ですね。
確かARM社もファブレスと言うのでしょうか、半導体のデザインに特化した会社だったと記憶しています。
ということは、ARMとクアルコムってライバル関係なんでしょうか。
なんか業界の全体像があまり見えません。。
勉強不足です。。
OEMでの製造に特化しておきながら、あそこまで高い利益率を叩き出せるのが未だに謎です。
どこに高付加価値の秘密があるのかなって単純に思います。
読者様が少しその秘密を教えてくれましたが(ブログに載せたコメント)、それでもまだ完全には納得できないです。
営業CFマージン高すぎて驚きました。
私も投資対象として今後もウォッチ続けようと思います。
返信ありがとうございました。
まず、ARMはCPUの特許を持っています。その特許に対して使用料を支払って、クアルコムは具体的なCPUの設計を行い、OEM企業に製造を委託します。ARMとクアルコムは川上と川下の関係です。
TSMがOEMの生産で高い利益率なのは、すでに価格決定力は、委託するクアルコムではなく委託されるTSMに移っているためと思われます。世界の6割のシェアを抑えているからこそ、損益分岐点が低く、他社では利益が出ない価格設定で高い利益率を出せるのでしょう。
そもそも、クアルコムの発注量を製造できる企業なんて他になく、クアルコムに選択権はないと言っていいでしょう。もちろん、インテルが工場を休ませておくのはもったいないので、積極的にOEM生産を受注するようになれば別ですが。
なるほど~。
ARMはクアルコムよりも上流にいるのですね。
クアルコムはたくさんの特許収入源を持っていますが、そのクアルコムから特許収入を貰っているのがARMなんですね~。
さすが孫さんが3.3兆円も払って買う会社なだけはありますね。
スマホ半導体業界でクアルコムよりも上流があるとは知りませんでした。
勉強になります!
昨日WBSで孫さんの決算発表の様子が放送されてましたが、孫さんはARM買収をとても満足そうでしたよ。
金の卵を産む鶏だって。
単なる製造であってもポジショニングがうまくいけば高い価格競争力を持つということですね。
相手の足元を見れるということでしょうか。
にしても、TSMの利益率には驚きました。
>クアルコムの発注量を製造できる企業なんて他になく、
確かにスマホ用半導体は量が半端なく多いですよね。
そこが買収したNXPが扱う自動車用半導体と大きく異なる点があるように思います。
クアルコムとNXPとの統合にどれほどシナジーがあるものか、素人にはなかなかわかりかねます。
とてもわかりやすい説明をありがとうございます!
大変勉強になりました。