ROEは投資家にとって期待リターンを示しているわけではない。あくまでも”過去の”株主資本に対する利益率に過ぎない。

ROE、日本語では自己資本利益率と言います。

ROE=純利益 / 自己資本

ROEは高ければ高いほど良いです。

「伊藤レポート」によると、日本企業のROEは平均8.6%で米国の15.7%、欧州の13.8%を大幅に下回っています。日本企業も欧米並みのROEを目指すべきと提言されています。

投資家としても投資先企業のROEを見ることは有益です。私は一応確認しています。確認していますが、参考程度です。見てはいますが、そんなに重要視はしてません。

ROEって実は、投資家にとってそれほど意味のある数字とは考えていません。なぜなら、分母の自己資本は簿価だからです。簿価純資産と利益の割合を測ったところで、どれほど意味があるのかちょっと疑問です。

分子の利益は概念としては時価です。利益はその期の最新の数字を使うので時価と考えるべきです。

つまり、ROEという指標は分子は時価で分母は簿価となっています。

ROE=純利益(時価)/ 自己資本(簿価

なぜ、自己資本が簿価だと投資家にとって意味の薄い数字になってしまうのでしょうか?

それは、投資家は常に時価純資産額でしか投資できないからです。時価純資産とはつまり株価のことです。株価が私たちにとっての投資額です。当たり前ですよね。株価って純資産の時価評価額を発行済み株式数で割った金額です。

私たちは時価でしか投資できないわけで、その投資額に対する利益をたくさん稼いで投資利回りを上げたいと思うわけです。なのに、簿価ベースの自己資本に対する利益を測定したところで、それは投資家にとって大して意味のある数字ではありません。

たとえば、アップル(AAPL)株を見てみましょう。

現在のアップルのROEは45%。メチャクチャ高い数字です。さすが、時価総額1兆ドルにまで登り詰めた企業です。

凄いのは確かなんですが、この45%という数字に何か意味があるでしょうか?

あなたが今からアップル株に投資したところで、45%の投資利回りが望めるわけでは当然ありません。そんな暴利が得られるなら、私だってアップル株に投資したいですw!!

今からアップル株に投資しても45%の利回りは無理です。なぜなら、私たちは時価でアップル株に投資しなくてはならないからです(今なら224ドル)。ROEは簿価純資産に対する利益率であって、時価純資産に対する利益率ではありません。

投資家は常に時価ベースで考える必要があります。

アップルの純資産は簿価と時価で大きな乖離があります。一株当たり簿価純資産(BPS)は24ドルほどですが、一株当たり時価純資産(つまり株価)は224ドルです。純資産の簿価と時価の差が9倍以上もあります。

この純資産の簿価と時価の倍率のことをPBRと呼びます。
アップルのPBRは9.4倍もあります。

私たちはアップル株を1株買うのに224ドル必要なのであって、決して簿価の24ドルでは買えません。もし仮に24ドルでアップル株に投資できるのであれば、その時はホントに45%という破格の投資利回りが実現できます。

が、当然そんなの無理です。誰かが誤発注で売り注文を出してくれない限り、24ドルでアップル株を買うチャンスなんて訪れません。

繰り返しで何度もしつこくてすみませんが、ROEって簿価純資産に対する利益の比率を示した指標です。時価じゃなくって簿価です。そんな簿価で計算された利益率が高いからと言って、投資家のリターンも高くなるとは限りません。ROEが高い銘柄に投資したからって、簡単に儲かるなんてそんな甘い話はありません。

ただし、アップルのようにROEが40%を超える水準まで成長できることは素晴らしいことです。それだけ、過去の株主資本に対して利益を生んできた実績があるということです。高ROEの企業は長期投資対象として有望という見方はできると思っています。

ただ言いたいことは、ROE相当の投資利回りを得られることはないということです。

時価、時価時価

投資家は常に時価で考えないと判断を誤ります。

しかし、金融機関のROEは期待投資リターンを示唆してくれる。金融機関のROEは見る価値のある指標。

ROEは簿価純資産に対する利益額を示している。時価ではなく簿価。だから、ROEが高くても投資家は楽観的に捉えない方がいいと言いました。

しかし、こと金融機関に関して言えば、ROEは大変意義ある数字に変貌します。非金融機関(事業会社)のROEと金融機関のROEでは、意味しているところが全くもって違います。

やけに金融機関についてはROEに言及されることが多いと思いませんか?
ニュース等の報道で。

それは偶然じゃないです。
金融機関にとってROEは特別な数字なんです。

なぜ、金融機関のROEは特別なのか?

それは、金融機関は資産の大半を時価評価しており、簿価純資産≒時価純資産となっているからです。

金融機関にとっては、

ROE=純利益(時価)/ 自己資本(簿価≒時価
ということです。

たとえば、ウェルズ・ファーゴ(WFC)で考えてみましょう。

ウェルズ・ファーゴの現在のROEは10.4%です。

この10.4%という数字には投資家としても意味がある数字です。10.4%というROEは今からウェルズ・ファーゴに投資するとしたら、得られるであろう期待リターンと近い数字になります。完全にイコールではないですよ。あくまで近しい数字です。

あなたがウェルズ・ファーゴに投資するとしたら、10.4%くらいのリターンは狙えるのかな~とざっくりイメージすることができます。

ウェルズ・ファーゴの簿価純資産と時価純資産には大きな乖離はありません。現在の一株当たり簿価純資産(BPS)は38ドルほどで、一株当たり時価純資産(つまり株価)は57ドルです。完全に一致しているわけではありませんが、アップルみたいに9倍も離れてはいません。ウェルズ・ファーゴのPBRは1.5倍です。

PBRが1倍に近いということは、簿価純資産≒時価純資産ということを意味しています。BPS(一株当たり純資産)≒株価ということを意味しています。

さらに言えば、
ROE≒株式益回り
になるということです。

実際にいくつかの金融機関のROEと現在の株式益回り(PERの逆数)を見てみます。

ティッカー 会社名 ROE 株式益回り
JPM JPモルガン・チェース 10.9% 8.8%
WFC ウェルズ・ファーゴ 10.4% 9.0%
BAC バンクオブアメリカ 8.0% 9.4%
USB USバンコープ 13.5% 8.1%


どうでしょうか、ROE≒益回りになっていますよね。USバンコープがやや乖離しているのは、同社のPBRは2.0倍と金融機関にしてはやや高いためです。

金融機関は、保有するほぼすべての資産(貸出金や運用証券など)を時価評価します。それが会計基準の要請です。負債は簿価が時価みたいなもんです。というわけで、資産と負債の差額たる純資産も必然的に時価になります。

金融機関のバランスシートの純資産は簿価なのですが、実質的にほぼ時価に等しい、つまり株式時価総額に等しいわけです。これは金融機関のバランスシートだけに見られる特徴で、一般事業会社では見られません。

普通の事業会社は保有する資産を全部時価で評価するわけじゃないし、そもそも簿外になっているブランド価値や顧客価値などの無形資産もたくさん保有しています。

事業会社はバランスシートの簿価純資産が時価純資産(株式時価総額)と全く一致しないので、簿価純資産を分母に置いたROEが高くても投資家として一概に喜べることではありません。少なくとも、それが期待投資リターンを示すことはありません。

でも、金融機関は違います。金融機関は簿価純資産≒時価純資産なので、簿価純資産を分母にして計算したROEが投資家にとってもそれなりに意味ある数字になります。金融機関のROEは期待投資リターンを示唆してくれます

ま、いちいちROEで期待リターンを考えずに、はじめっから株式益回り(つまりPER)を見れば早い話ですけどね。

ただ、日経やWSJなどでよく金融機関のROEが報道されるじゃないですか。ああいう数字を見てピンと来れるようになりますよね。金融機関のROEは一般的な事業会社と同じ風に捉えてはいけないと知っているだけでも、これからのニュースの読み方、見方が変わってくると思いませんか?

金融機関のROEは投資家として注目に値する数字です。