製薬大手ファイザーは自社で研究開発するというよりは、有望なバイオベンチャーなどを積極的に買収することで規模を拡大しています。ファイザーはもはやヘルスケア特化型の投資ファンドの様相を呈しています。

そんなファイザーのバランスシートはとても興味深いものです。2017年9月末時点の総資産は1725億ドル(約19兆円)ですが、うち32%が「のれん」で29%が「買収に伴う無形資産」です。

後者についてですが、無形資産は通常はバランスシートに計上することができませんが、M&Aで企業を買収した時のみ例外的に技術資産や研究開発成果などの無形資産を金銭評価して、バランスシートに載せることが認められています。

まあ、ここでは「のれん」も「買収に伴う無形資産」も同じようなものだとご理解下さい。どちらも、M&Aをきっかけにバランスシート認識した無形価値であることは共通です。両者合わせて「のれん等」と表現することにしましょう。ファイザーのバランスシートの6割以上がこの「のれん等」なわけです。ファイザーは売上高世界トップの製薬メーカーですが、その巨大なバランスシートの半分以上が目に見えないフワッとした曖昧な資産で構成されているのです。

ファイザーのBSイメージです。

ファイザーの自己資本比率は約35%です。しかし、、バランスシートの左側を見て頂ければわかりますが、その純資産は「のれん等(のれん+買収無形資産)」という目に見えない曖昧な資産で支えられています。

もし仮にこの「のれん等」が全額減損になれば、ファイザーは一気に債務超過になります。
(もちろん実際にはそんなことあり得ませんよ。)

ファイザーはかなり特徴的な例ですが、現代の大企業のバランスシートは大なり小なりこんな感じです。日本企業で言えばソフトバンクは「のれん」が多い企業です。スプリントやARMの買収で「のれん」が大幅に増えました。

私たち投資家はこのような企業のバランスシートから何を読み取ればいいのでしょうか?

自己資本比率って意味ある数字ですかね?
自己資本比率を見れば企業の安全性が判定できるって言いますけど、本当にできますかね?

仮に「のれん等」がすべて減損になれば即債務超過になるというのに、表面的に自己資本比率が35%あるからって安心できるのでしょうか?
(そもそも、自己資本比率35%ってのも安心できる数字ではないですけどね。ファイザーは自社株買いなど株主還元に積極的なので純資産は薄めです。)

はっきり言って自己資本比率という表面的な数字から企業の安全性を測ることは不可能です。実際、米国の格付会社のムーディーズやスタンダード&プアーズが企業の格付判定をする際、自己資本比率はあまり参考にしていません。

彼らは何を以って格付け判定しているかと言えば、それはキャッシュフローです。格付機関がもっとも重視しているのはキャッシュフローです。現代の会計基準の元では、表面的にバランスシートを見ても企業の安全性は判定できないと彼らも理解しています。自己資本比率なんて参考程度にしかしません。

投資家も格付機関と同じ見方をした方がいいと思います。バランスシートを完全に無視していいとは思いませんが、先ず見るべきはキャッシュフローです。きちんと営業CFとフリーCFがプラスかどうか確認しましょう。

では、ファイザーのキャッシュフローはどうなっているでしょうか?

うん、どうやら大丈夫みたいですね!