内部統制という言葉があります。なんだか分かるようで分からない、フワッとしていて具体的なイメージが持ちづらい言葉だと思います。この内部統制とその監査についてちょっと話したいと思います。

 

内部統制とは適切な資産管理や正しい決算書を担保する仕組みのこと。たとえば、松屋の食券機。

内部統制という言葉が普及したきっかけがエンロン事件です。2001年10月に発覚した米国エンロン社の不正会計事件です。当時監査を担当していたアーサー・アンダーセンは解散に追い込まれました。私の上司に元アンダーセンの人がいるのですが、エンロン事件の時は急に路頭に迷って困惑したと言ってました。

この大規模な会計不正をきっかけにして、会計処理の適性性を担保するための仕組み作りをもっと大事にすべきだ!という議論が巻き起こりました。決算書の会計監査だけでは不十分で、決算書が作られるプロセスも監査対象にすべきだろうと。決算が正しく作成される仕組みのことを内部統制と言います。

そんな経緯で翌年2002年にサーベンス・オクスリー法(SOX法)なる法律ができました。ちなみに、この法律の名前は法案を提出した二人の議員の名前が所以です。このSOX法のせいで(おかげで?)、監査業界は多忙を極めるようになります。

決算書の監査だけじゃなくって、クライアント企業の決算書作成プロセスまでチェックしろって言うんですから大変です。。このプロセス監査のことを内部統制監査と言います。

内部統制監査のすごく簡単な例を言いますと、伝票を担当者が起票してそれを上司がチェックして印鑑を押しているかどうかチェックする手続きがあります。1年間の膨大な伝票の中からランダムで20件くらい抽出して、伝票をクライアント担当者に要求します。で、その伝票すべてに管理職の押印があるか確認するわけです。面倒だな~って思いますよね。何が面倒って、膨大な伝票の山から20件の伝票を取り出すのがです。監査人より企業側の担当者が大変です。

日本でも米国のSOX法に倣って、2006年に日本版SOX法ができました。俗にJ-SOX(ジェーソックス)と言われます。日本でも内部統制監査が始まって監査業界は喜びました。忙しくなるけどその分監査報酬も増えるので。そのタイミングで金融庁は会計士試験の合格率を緩めました。ですが、人員をたくさん採用し始めたところにリーマンショックが突然発生して、、不況になって大リストラとなりました。何のための大量採用だったのか・・w。監査業界はお祭り騒ぎから一転、どんよりした暗いムードに包まれました。

 

ちょっとだけお堅い話なんですが、教科書的な話を少しすると内部統制は以下の6つの要素から成り立っています。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング
  • IT(情報技術)への対応


これ、会計士試験の「監査論」では暗記必須でした。懐かし。あんま興味なかったけど無理矢理頭に詰め込んだことを覚えています。
(お堅い話ここで終わり。)

こんな6つの要素を見せられて内部統制が何なのか分かるわけないと思いませんか?

もーなんか、内部統制の勉強って話が抽象的過ぎて全然楽しくなかったです。「監査論」嫌いでした。実際に働き始めると実務的なことも分かってきますけど、学生だった受験生時代は何も実務は分かりません。なのにこんな6つの要素を覚えるとか苦痛以外の何物でもなかったです。

で、僕が内部統制の説明をする時いつも使っている実例がありまして、それが松屋の食券機です。

松屋と吉野家、両社の一番の違いはなんでしょうか?

メニューも味も当然違うわけですが、食券機の有無って結構大きな差だと思いませんか。吉野家は食べ終わってから店員さんに直接お金を渡しますよね。松屋は事前に券売機にお金を入れて食券を購入します。

この食券機が内部統制の一例です。

食券機を導入することで従業員がお金を数える業務が無くなり、売上高と入金額が不一致になるリスクが消えます。お金を紛失することも無くなって現金の適切な保全にも貢献します。あと、これは推測ですが、食券機と会計システムが連動しているかもしれません。あなたが松屋で「牛めし並盛」380円を食券機で購入すると、その瞬間(もしくは翌日とかに)松屋フーズの会計システムに「現金380円 / 売上高380円」と記帳されているかもしれません。

松屋の食券機が内部統制の具体例です。基本的にこうやって人に頼らずシステムを経由することで、ミスも無くなります。システムも完璧じゃありませんがね。

松屋はコストを掛けてでも食券機を導入することで、結果的に企業価値が上がると判断しています。アルバイト店員の業務負荷も減るし、現金カウントミスも無くなるし、現金の安全な保管にも繋がるし、会計システムへの連動もスムーズというわけです。一方で、吉野家の経営陣は食券機を導入するコストの元は取れないと判断しているのでしょう。

別にどっちの判断が正しいって言えるわけじゃありません。内部統制って何でもかんでもガチガチ作り込めばいいってわけじゃなく、やっぱり営利企業としてコスパ判断が求められます。

 

内部統制監査のコストを負担しているのはあなた(株主)です。

「売上高」という勘定残高が妥当かどうかをチェックするのが会計監査です。会計帳簿の結果さえ正しければOKという世界です。

内部統制監査は結果に行き着くまでのフローをチェックします。商品を受注して、お客さんに商品を発送して、最終的に代金を頂いて、その代金が会計システムにbookされるまでの一連のプロセスに間違いを引き起こすリスクが潜んでいないかを監査します。

会計監査は結果重視で男性的。
内部統制監査はプロセス重視で女性的。
って感じですかね、イメージとしては。

料理が美味しければそれでOKじゃなくって、きちんと効率的に仕込みをしてミスなく調理をする体制にあるか否かまでチェックしているのが現代の監査事情です。料理の途中できちんと手を消毒していなかったらアウトです。結果として食中毒が起きなければOKではありません。企業は食中毒が起きるリスクを未然に防ぐ仕組みを構築する義務があり、監査法人はその仕組みが有効に機能しているか監査する義務があります。

現代はこんな感じで、決算書の監査だけじゃなくって決算書作成フローまで監査してます。結構厳しいですよね。人間誰しもミスはあるもんですが、投資判断に影響するような重大な会計処理ミスは起こらないよう、経理現場も監査法人も最善を尽くしています。

米国企業も当然に内部統制監査を受けています。米国はエンロン事件の反省もあって、日本よりも監査レベルが厳しいと言われます。株主であるあなたはその監査コストを負担している側です。証券市場が公正で透明であることが、自国の発展の上で極めて重要だと米国は考えています。内部統制の構築&監査のコスト負担は仕方ないということです。

なので是非、信頼して決算書を活用して頂ければと思います。

あなたは株主として間接的に決算書作成コスト、監査コストを負担しています。であれば決算書を見ないと損ですよ。「住民税たくさん払ってるのに、俺は市から相応の恩恵を受けてないぞ!」って不満がある人も多いことかと思います。決算書を全く使わないってそれに等しいです。コストだけ負担してリターンはない(放棄している)。

内部統制監査のコストまで払っているのですから、ぜひぜひ投資家として決算書を使って下さい!