銀行の収益は企業努力だけではどうにもならないところがあります。銀行ビジネスは政府規制の変化に大きく影響を受けます。一方で、(商業)銀行は信用創造という特権を政府から与えられています。
信用創造というメリットがある一方で、厳しい政府規制というデメリットがあります。
銀行ビジネスと政府規制は切っても切れない関係です。
この点について、個人的な見解というか、思いを書いてみました。
結論としては、「う~ん、銀行株は魅力的だけど投資するかは迷うな~」ということです。
↑
曖昧な結論ですみません。
プラスの政府規制(メリット):信用創造という特権、魔法
商業銀行には政府から特権が与えられています。それが信用創造です。銀行は無からぼわ~んと資本を創り出すことができます。
「ピザ屋さんを始めるので500万円を貸してくれませんか?」と銀行に頼み込んだら、銀行は審査します。きちんとキャッシュを生み出せるビジネスかどうか審査します。「信用」に足るかどうかをチェックします。審査結果がOK(=信用できる)ならば信用を創造して与えます(与信)。
銀行は自身が保有している500万円を融通するのではなく、新たに500万円を生み出します。具体的にはデータ上に貸出金データと預金データを書き加えます。
会計的に言えば帳簿に一行、「貸出金 500万円 / 預金 500万円」とbookすることで一瞬にして、預金という資本(負債ですが)と見合いの貸出金という資産を生み出します。
もはや手品です。よくマジシャンがシルクハットから白い鳩や綺麗な花をポンっ!と出すシーンがあるじゃないですか。銀行の信用創造ってまさにあんなイメージです。
本当にすごい特権です。
どんなに複雑なビジネスでもその構造は共通です。資金を調達して、調達した資金を事業資産で運用して利益を得て、その利益を資本提供者に還元する、ということです。
この仕組みのファーストステップが「資金を調達する」です。ここは本来は大変なステップです。アーリーステージのベンチャー企業は、経営者が頭下げて頼み込んでVCなどに資金提供を依頼します。銀行から資金調達できるは、事業が軌道になってからなのが普通です。
信用が高い大企業であっても、多額のコストを掛けて資金を調達しています。社債発行や株を発行するにも投資銀行へのフィーや内部人件費が発生します。特に株式発行(増資)のコストは高いです。
商業銀行はこの「資金を調達する」というステップで魔法を使えます。信用創造という名の魔法です。この魔法を発動させることで、一瞬にして資本を生み出すことができます。
資本は調達した後にこそコストが掛かります。銀行借入なら利息を払う必要があります。エクイティなら配当金や株価上昇というリターンを提供しないと株主は満足してくれません。
これらを総称して資本コストと呼びます。株式会社は資本コストを超える事業リターンを生むことが求められます。
では、銀行の資本コストとは?
銀行は無からぼわっと資本を生むわけです。だからって、その資本提供者がオバケというわけではありません。商業銀行の資本の提供者とは、銀行口座を保有する私たち一般市民や企業です。
私たちにとって銀行預金は資産ですが、銀行にとっては負債です。銀行は預金で資金を調達しています。
銀行にとっての資本コストとは預金利息だと言えます。
私たちが貰っている預金利息が銀行にとっての資本コストです。
で、、この資本コスト(=預金利息)はどのくらいでしょうか?
言うまでもなく超低利率ですよね。日本は0.0001%とか意味不明な率ですし、米国でも1%以下の低い利率が続いています。バンク・オブ・アメリカの決算報告書によると、米国内預金金利の平均は0.09%です。
どう思います?
この商業銀行の優遇っぷりって半端ないと思いませんか?
信用創造によって簡単にぼわ~んと資本を調達できる上に、その資本コストは激安なわけです。
日本の金融機関が余剰資金を貸出に回さずに、国債で運用していることに批判が集まることがあります。この銀行批判はちょっと経済知らずだなって思います。銀行経営者は優秀な人ばかりです。意味もなく国債に投資しているわけじゃないです。銀行は資本コスト(=預金利率)がめちゃ安いから、そんなにリスクを取ってビジネスをする必要性がそもそもないのです。
日本の銀行(の株主)が国債程度のリターンで満足できるのは、それなりの理由があります。バランスシートの右側のコストが安ければ、左側で過大なリスクを取る必要はありません。
とまあこんな感じで、商業銀行というのは政府から認められている信用創造を駆使することで特権的ビジネスを営んでいます。
じゃあ、銀行株への投資は無条件に超有望なのでしょうか!?
マイナスの政府規制(デメリット):FRB、ドットフランク法など色々大変orz・・
そう単純な話でもありません。
信用創造というプラスの政府規制もありますが、マイナスの政府規制もあります。
銀行が信用創造という特権を乱用する危険性があるし、何より銀行ビジネスは公共性が高いです。なので、政府がそのビジネスの安全性を厳しく監視しています。特にリーマンショック以降、その監視は厳しさを増しました。
銀行の業務を縛る規制として、先ず自己資本比率規制があります。
グローバルで銀行業務を行っている金融機関にはBIS規制が適用され、自己資本比率8%以上が求められます。ここで言う自己資本比率は、一般的な財務分析で計算する”純資産 / 総資産”ではありません。もっと複雑な計算が必要です。すみませんが、詳しい計算方法は知りません。
米国の主要金融機関は、このBIS規制は多分ですがあまり気にしていないと思います。なぜかと言えば、米国FRBの規制がさらに厳しいからです。大は小を兼ねるではありませんが、FRBの規制をクリアできればBIS規制も必然的にクリアできるという面があろうかと思います。
自己資本比率規制を守るために、銀行は過度なリスクテイクは控えます。
配当も無制限にはできません。配当を出すと純資産が減るので自己資本比率が減少しますから。
自己資本比率規制って、要するに常に余裕を持って経営しなさいという政府から銀行への指示です。7人乗りのワゴンに4人までしか乗ってはいけないというルールです。何かあった時の為に3人分のスペースを空けて置かなくてはなりません。効率的に利益を追求するために7人満員で走りたくても、それは許されません。それで万が一事故ったら世の中に大混乱を引き起こすからです。
また、リーマンショック後の2010年に成立したドット・フランク法という法律も銀行ビジネスの柔軟性を縛っています。ドット・フランク法は金融危機の再発を防止するために作られた法律ですが、内容が膨大で規制内容も厳しすぎると言われます。
ドット・フランク法は、投資不適格な企業への融資、自己勘定取引を取り締まっています。それは確かに過剰流動性を抑制して不良債権の発生を抑える効果があるでしょうが、供給サイドの資金需要を満たせないという問題ももたらします。特に相対的に信用力の低い中小企業が打撃を受けました。
大手銀行は毎年FRBのストレステストも受けています。金融危機時でも流動性が枯渇しないバランスシートになっているかチェックを受けます。これも大変コストの掛かるビッグイベントです。
このように銀行は信用創造による特権的ビジネスが認められていることの裏返しとして、数多くの厳しい法規制に縛られてもいます。
銀行株の投資リターンは政府規制に左右される面がある
株価とは将来配当の割引現在価値です。将来の配当の多寡が株主リターンを左右します。
企業のビジネスは常に不確実なので、将来の配当も不確実です。将来の配当は一定の利率で割り引かれています。「一定の利率」=「割引率」=「リスク」ということです。投資家がリスクを感じるから、将来利益(配当)が割り引かれて株価が値付けされます。
将来配当をリスクで割り引くから、株式投資はリターンを生みます。株式投資のリターンの源泉はリスクです。
そのリスクというのは、通常は事業リスクです。
コカ・コーラ株のリスクとは、今後50年もコカ・コーラを始めとする清涼飲料水が売れ続けるか否かという事業リスクです。
銀行はちょっと特殊です。もちろん事業リスクもあるのですが、外部要因である政府規制の変更リスクというのも大きいです。
銀行は還元できる配当水準が、政府規制や国際規制によって大きく変動するリスクがあります。
ドット・フランク法の規制が緩和されるかもしれませんが、まだ議論中で予断はできません。現FRB議長のイエレン氏は規制緩和反対派です。一方で、次期FRB議長の可能性が今一番高いと言われるケビン・ウォーシュ氏は規制緩和賛成派です。まあ、決めるのは議会ですが。
2010年制定のドッド・フランク法(米金融規制改革法)のおかげで金融業界に対するFRBの権限が強くなりすぎた。
FRBは現在、大手銀行の細部に至るまで管理するようになり、大手銀の利益を左右する力を持ちすぎている。
銀行はFRBの「合弁パートナー」となり、なかば公益事業体になっている。
ウォーシュ氏コメント ウォールストリートジャーナルより
ここが銀行株投資の難しさだと個人的に感じています。
(長期)株式リターンとは(理論的には)将来配当の合計なわけですが、その配当が事業の良し悪しだけでなく政府規制に大きく左右されます。政府規制という不確実性があるからこそ、リスク認識が高くリターンが高いという発想もできるかもしれません。
電力・ガス会社に対する政府規制は良くも悪くも公益企業の利益を安定化させてますし、その規制の枠組みは大きく変化しないと思われます。
ですが、銀行規制は公益企業規制とは全く違います。今も議論真っ最中ですが、将来規制内容が変化する可能性が十分考えられ、それが銀行株の将来配当に与える影響は小さくないです。
う~ん、、銀行は特権的ビジネスを営んでいて是非投資したいセクターなのですが、この政府規制の存在が投資判断を迷わせます。政府規制があるからって銀行株投資が不利というわけではないと思うのですよ。規制の変化というリスクは株価に織り込まれていますから。
株式投資って本来的に外部的なアプローチしかできないじゃないですか。そういうもんですよね。私たちはリスク資本を提供することしかできません。あとは経営者と従業員を信じて座して待つしかありません。個人投資家は株主として経営に関与できる余地はゼロです。
それは銀行株であれ、それ以外の株であれ一緒です。
株式投資はExternalに資金を投じる事しかできません。実際にその資金をInternalに投資して事業を回すのは現場の経営者と社員です。
株式投資は他力本願です。そういうもんです。だからこそ不労所得になるわけです。株式投資は完全なる不労所得になり得るものですが、その代償として所得のコントロールが難しいです。予見できる株式収入は一部の連続増配銘柄の配当くらいなものです。それ以外のリターンは神のみぞ知る世界です。
自分が投資している企業がビジネスに失敗して損失を出してしまえば、その経済的負担を食らうのは株主です。それは仕方ありません。それが株式会社制度のルールです。万が一、(考えたくもないですが)エクソン・モービル社で原油流出事故が起こったら、その損失を負担するのはエクソン株主です。
自分が投資している企業のビジネスが結果としてうまくいかなくて株主としてリターンを得られなかったら、それは諦めが付きます。そういうリスクがあることは覚悟の上で投資しているわけですから。自己責任で投資をやっているわけですから。
でも、、政府規制という外部要因によって収益が振り回されるのは感情的に嫌だな~と思うわけです。あくまでも私個人の感情の問題なんですがね~。
株式投資って元々Externalなものだと言いましたが、銀行株投資はさらに政府規制というExternalな要因が重なっています。External on Externalって感じです。
でも銀行ビジネスが魅力的だという思いは今も変わらないでの、今後も引き続き投資を検討していきたいと思います。
お世話になります。
毎日コメントして申し訳ないです。
どうしても理解できないことがありまして、金融セクターの財務内容の分析が
どうもわかりません。
一般的な企業分析と違いますよね?
どの項目に注目して見ていけば良いのが教えてもらえたら助かります。
商業銀行の財務内容をグラフにしてみたいのですが理解不能でお手上げです。
HIROさんがメガバンクの財務内容を公認会計士としてチェックする場合は
どこを見ますか?
モーニングスターとかでJPMを見ても「ん???」ってなってお手上げです。
営業キャッシュフロー 20,196
投資キャッシュフロー -114,949
財務キャッシュフロー 98,271
フリーCfが確認できません。
収益も営業CFが確認できません。
なんか、他のセクターと勝手が違うのでよくわからないんです。
よろしくお願いします。
こんばんは。
こちらこそ、お世話になります。
金融機関の財務諸表は特殊で分析が難しいですよね。
私も銀行財務諸表を見るのが苦手なので、ここまで金融銘柄の分析を保留してきました。
今は一旦、他の事業会社と同様の分析をやっておりますが、本当は金融機関独特の分析視点があった方がいいんだろうな~と思っています。
今後勉強して記事をリライトしていく中で、分析をブラッシュアップしていければと考えています。
金融機関はフリーCFが確認できませんよね。私も同じ疑問を持ちました。
なので、金融機関の分析記事ではキャッシュフロー分析は今のところ載せておりません。
フリーCFという概念はないのかなと勝手に思っております。
個人的な見解ですが、金融機関の財務諸表を見る視点を述べたいと思います。
先ず、業務経費率という概念がありますね。
業務経費 / 売上高です。
この比率は結構マーケットが注目している指標だと思います。
最近米銀行の決算が続々と発表されています。
JPモルガンやシティなど好調な決算を発表していますが、コスト削減による業務経費率の減少が大きく寄与しています。
市場が穏やかなのでトレーディング収入はどこも減少気味です。
資産収益率なんかも気になるところです。
利子収入 / 有利子資産(前期との平均残高)で算出できます。
最近米国では利上げ方向ですが、これが本当に銀行の収益性アップに繋がっているのか判断できます。
長期金利が上昇したとしても、銀行が長期性の有利子資産を持っていなかったら収益改善には短気的には貢献しません。
ただニュース等で純金利マージンの増減に言及していることも多いので、わざわざ自分でチェックしなくてもよいかもしれません。
バランスシートの貸出金残高と預金残高が順調に増えているかどうかも気になる点です。
あとはそうですね、貸倒引当金の増減額も注目に値すると思います。
クレジットカード債権の貸倒懸念の増加は、景気の腰折れを示唆する一つのアラートです。
今の私の知識レベルでぱっと思いつくのはこんなところですかね。
曖昧な回答しかできずに申し訳ないです。
よろしくお願いします。
ありがとうございます。
コピペして保存しました。
クレカのアメックスとビザ・マスターもなんか項目が違うので驚いてます。
金融セクターは難しいです。
hiroさんレベルでも明確な基準をお持ちでないなら
私のようなド素人が分析できるセクターではないですね。
それでも、アメリカ3大銀行+WFCあたりは保有したいと思ってます。
ご返信ありがとうございます。
アメリカンエキスプレスとビザ、マスターカードはビジネスモデルが違いますね。
同じ金融セクターと一括りにされますが、企業に応じてかなり性格は異なります。
銀行や保険会社は財務諸表の作成方法が通常とは違うので、分析も難しいです。
大手監査法人には金融を専門にする部隊がいます。
その専門部隊にいない人は、たとえ会計士でも金融機関の財務諸表を読めない人は多いです。
私もその一人です。
WFCは決算が期待外れで売られましたね。
バンカメは買われました。
金融機関の将来利益は予測が難しいなと感じています。
でもだからこそリスクが高くてリターンが高くなるかもしれません。
おはようございます。
銀行は魔法のようにお金をつくりだすことができるのに、銀行が倒産することがあるのは、どういう事態なのでしょうか?自己資本比率8%を保つことができなくなったときでしょうか?
みもんさん、こんにちは。
これはみもんさんには説明不要な基本的なことかもしれませんが、先ず倒産の意味からです。
「倒産」とは法律的には正確な用語ではなく、具体的には破産法を申請することです。
(民事再生法とかもありますが。)
倒産とは業績が悪化することではなく、資金繰りのデフォルトです。
資金がショートしてにっちもさっちもいかなくって破産法を申請することを、倒産と呼びます。
これは一般事業会社も金融機関も一緒です。
ちなみに、サブプライムローン問題でリーマンブラザーズが「倒産」したのは、短期金融市場が麻痺してリーマンブラザーズの資金繰りがショートしたからです。
ここでのみもんさんの疑問は、銀行は無から資金を生み出せるのだから資金繰りがショートすることはあり得ないのでは?ということかと思います。
民間銀行は無限に資金を生み出せして良いわけじゃありません。
そもそも、民間銀行が作り出せるのは紙幣ではなく貸出金という信用のみです。
民間銀行は企業や個人に対して流動性を供給することはできますが、自行の流動性を創り出すことはできません。
民間銀行に流動性を供給できるのは、中央銀行だけです。
だから、いくら信用創造できると言っても銀行が資金繰り難に陥って倒産するリスクは普通にあります。
あくまでも「信用」創造です。
信用できる貸出先を見つけた時に初めて信用創造を発動して、紙幣を刷ります。
信用できないのに紙幣を刷ると、結局デフォルトしてオシマイです。
まあ時間稼ぎにはなりますがね。
サブプライムローン問題は、銀行が信用がない個人に対して信用創造したことが問題の発端です。
信用を創造して貸出債権が生まれても、それを証券化して売却することですぐにオフバランスできました。
銀行は本当に信用できるか精査することなく、信用創造することに儲けの種を見つけました。
でもそんなことしても、いつか破綻するに決まっています。
要は民間銀行は資金繰りが悪化しているからという理由で、信用創造をしてキャッシュを生み出すことはできません。
そもそも、信用創造で生み出せるのは紙幣ではなくあくまで貸出金です。
銀行が信用創造したって、銀行の資金繰りが改善するわけじゃありません。
銀行の資金繰りを外部から改善させることができるのは、FRBなどの中央銀行のみです。
銀行が資金繰り危機に陥った時、中央銀行に見捨てられたら倒産するしかありません。
自己資本比率が規定を下回ると業務が制限されるだけで、倒産にはなりません。
hiroさん、お疲れ様です^^
中央銀行と民間銀行の関係性についてのコメント、大変興味深く拝見しました。
実は、政府金融規制に関連して、僕も最近疑問に感じている事がいくつかあり、google検索や書籍を読んでも良い情報源がなかなか見つからず、悩んでいるのですが、hiroさんのご意見を頂戴する事は出来ませんでしょうか?
【疑問1】2017年6月7日、ドッドフランク法の見直し法改正案が下院を通過したが、もし実際に金融規制緩和が行われた場合、ゴルディロックス(適温相場)と言われる現在の米国株の加熱リスクをさらに高め、再び金融危機の危険性を高める事にならないか?
【疑問2】米国では、投資判断の上で、予想PERよりも実績PERを重要視する、という記載が「日経ビジネスオンライン」の記事にあったが、それは事実なのか?日本では、実績PERよりも予想PERの方を重要する傾向があると言われるが、それは非合理的なのか?
【疑問3】米国株四季報ではS&P格付けが採用されているが、S&Pの格付けは、そもそも信用出来るのか?映画「マネー・ショート」では、S&Pが過去、劣悪なMBSやCDOを無責任にAAA格付けした事がリーマンショックを引き起こした一因のような描写があるが、それは事実なのか?
【疑問4】2011年8月5日「S&Pによる米国債格下げ」が起きて以来、ムーディーズとフィッチは米国株のAAA格付けを保っているのにも関わらず、S&PだけはAA+格付けのままなのは、FRBの今後の財政健全化(バランスシート縮小計画)を信頼していないという事なのか?
最近、2017年の前半から後半にかけての、業種ごとの米国株の予想PERの変化と考察を弊ブログの記事にまとめたのですが、その過程で上記のような疑問が受かんだ次第です。
http://serendipity.chips.jp/archives/18672
諸々長文ですみませんが、お時間ある時にご返信頂けたら嬉しいです!^^
岩波さん、お久しぶりですね。
政府の金融規制は理解が難しいですよね。
BIS規制やドットフランク法などは表面的なことしからわからず、具体的な規制内容は正直いって知りません。
とても膨大な条文ですから、すべて理解しているのは一部の弁護士くらいではないかと思います。
会計士でも会計基準をすべて理解している人なんてほぼいないですし。
正確に回答できる自信はございませんが、あくまでも個人的な意見として申し上げますね。
【疑問1】
ボルカー・ルールなど金融規制の緩和が実施されても、それほどマーケットに悪影響はないと考えています。
中小銀行に対する監視を弱めることはあるでしょうが、大銀行の資本要件やストレステストは引き続き求められると思います。
今は規制が厳しすぎて低リスクの債券にも追加資本を要求されるくらいです。
次期FRB議長候補のウォーシュ氏は現在の米国銀行のことを「なかば公益事業体」だと言っていました。
銀行は公的な役割が大きいので規制を掛けることは大事ですが、民間企業としての経営の自由さもないと競争力がなくなります。
程度に依るでしょうが、今の厳しすぎる規制を緩和しても信用バブルにはならないと思います。
2008年のような信用を創造してそれを証券化してガンガンoff balanceするなんてことはさすがにできないはずです。
むしろ、それが心配なのは中国の政府系金融機関です。
話が逸れますが、信用バブルのリスクは明らかに米国より中国です。
【疑問2】
それは初耳ですね。
通常は予想PERを重視すると思います。
株価は将来の配当を反映して値付けされています。
やはり将来利益をもとにPERを算出したほうが合理的だと思います。
ただし、CAPEレシオという有名な数値があってこれは過去の利益を使います。
過去10年の利益を平均することで、年度による利益のボラティリティを排除できます。
米国では実績PERを利用するんですね~。
その背景を知りたいところです。
【疑問3】
上場企業に対する格付けは信用できると思います。
というのも、上場企業は監査済みの財務諸表を公に開示していて格付けを偽るのが困難です。
一方で、リーマンショックの時に問題となったCDOなどに対する格付けは怪しいかもしれませんね。
企業に比べれば透明性は低いですから、不当な格付けをしても外部からのチェックが働きにくいです。
クライアント企業から頼まれたら断れないことは、普通にあるでしょうね。
【疑問4】
2011年にS&Pが米国債の格下げを引き下げたのは、債務上限問題が発端でしたよね。
米国は基軸通貨であるドルを刷れるという大特権を持っているので、格下げはやり過ぎだと個人的に思っています。
米国は紙幣を刷ってそれで外国から物を輸入できる立場ですからね。
S&PがAA+に据え置いている理由まではわかりませんね。
一度引き下げた以上、財政赤字の縮小など客観的な成果がないと元には戻せないだけだと思います。
バランスシート縮小は特に関係ないと思います。
あれは単に米国内の資金量を減らす政策ですから、米国の財務安定性とは無関係です。
バランスシート縮小で債券利回りがもし急騰すれば、格付け引き下げリスクがあるのは米国ではなくドル建て債務を持つ新興国ですね。
以上です。
参考になれば幸いです。
よろしくお願いします。
早々にお返事頂いてありがとうございます!
そうなんですよね・・金融規制に関しては、情報当たってみても個人投資家のレベルだと情報ソースが限られてしまい、なかなか深部まで理解が行き届かないのがもどかしい所です。
>【疑問1】
なるほど、過度に心配する必要はないという事なのですね。ボルカー・ルール緩和に関しても、リーマンショックの反省から、あまりにも厳しすぎて実情に見合わなくなっている法規制を、打倒なレベルまで緩める方向性なのだ、という理解の方が適切なのかも知れませんね。米国株フルインベス派として、規制緩和リスクをsensitiveに捉えすぎていたのかも知れません。
>【疑問2】
そうですよね!株価も将来の配当を現在価値に割引く訳で、予想PERを重視するのは当然、と僕も思っていたので、寝耳に水だったのです。
実績PERを重視するという事は、ベクトルを未来ではなく過去に向ける行為で、ファイナンス理論と真逆ではないか、と感じました。
当該記事の情報の正確性の検討も含め、引き続き情報を追っています。
(当該URL: http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20081113/177120/)
そして、CAPEレシオという数値は初めて耳にしました!調べた所、去年から既にこの数値を元に、一部で暴落リスクが指摘されているのですね。
(当該URL: http://www.mag2.com/p/money/23668)
>【疑問3】
なるほど!企業への格付けであれば、信用に値するのですね。
一方で、CDO関連が現在でも、外部からのチェックが働きにくいとなると、株式と債券でリスクレベルの逆転現象が起こり得てしまいますね笑
そう考えると、格付け機関以外の外部機関を通した2重チェックというのは、信頼性の担保という面では非常に重要ですね。
あの映画を見た後だと、脚色はあるにせよS&Pに対してどうしても疑心暗鬼になりがちで・・笑
>【疑問4】
はい、僕も債務上限問題が発端だという理解でいます。
でも議会で上限引き上げ通しちゃえばOKなら、別に問題なくないか?と一瞬思ったのですが、
「過去に間一髪の状況が3回あった」という記載がロイターの記事で目に止まり、米国のデフォルトリスクも完全にゼロではないのかな、とも思い直した次第です。
(当該URL: https://jp.reuters.com/article/factbox-shutdown-trump-idJPKCN1B4010)
>バランスシート縮小は特に関係ないと思います。
あっ、そうなのですね!バランスシート縮小は、赤字(借金)も減らして財政を健全化する流れの1つというイメージでいたので、そこは誤解していました・・調べ直してみます、訂正ありがとうございます!
新興国のドル建て債務についても、以前ブルームバーグの関連記事でいまいちピンと来なかったので、まだまだ知識を深める必要性を感じています。
(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-05-09/OPOAH66KLVR501)
ここ数日でずっとモヤモヤと考えあぐねていた所に、大変参考になりました。
いつも丁寧な返信を頂き、ありがとうございます!
こんばんは。
ドットフランク法などの金融規制については、内容が複雑で理解している人も少ないのでどうしても情報ソースが限られますね。
こういうを簡単にわかりやすく説明してくれるサイトがあると嬉しいのですが。
WSJなどは抽象的で難しい表現が多いです。
金融規制緩和もマーケットに影響を与える政治トピックではありますが、減税案の行方の方が関心は高いでしょうね。
今のマーケットがどれくらい減税を織り込んでいるのか見当も付きません。
PERの件、記事のご紹介ありがとうございます。
確かにヤフーファイナンスのPERは実績PERです。
これが予想PERだったらもっと便利なのにな~と常日頃思っていたのですが、米国では実績PERを使うのがスタンダードなのですね。
株価が利益の何倍で取引されているかを見るためには予想PERの方が適切そうですが、過去と比較するなら実績PERを使い続けた方が確かに客観性は高いですね。
成熟企業であれば特に実績PERを使った方が好ましい感じがしますね。
PERを時系列で比較して参考になるのは生活安定株くらいですかね。
個人的にはあまりバリュエーション評価にPERは使っていません。
もちろんチェックはしておりますが。
ありがとうございます、この記事勉強になりました!
ところで、記事にあるシラー教授が使うPERがCAPEレシオのことです。
今のCAPEレシオは約31倍で、単純に数値だけ見るとかなり割高だと言われます。
最近バロンズでシラー教授のインタビューが掲載されていました。
シラー教授曰く、CAPEレシオは高いけど現在の市場は変動を乗り切るだけの力があると楽観視していましたよ。
格付けはね、、どうしても依頼企業の顔色を伺うことはあると思います。
こういうことは、実は経理実務でも結構あります。
減損をしたくないから、うまく現在価値がプラスになるように将来キャッシュフローの計算シートをコンサルに作ってもらう事とかありますね。
もちろん、あまりに不合理であればNOと言われるでしょうが。でも、大体こちらの言い分は通ります。
だから、現代の会計は客観性に欠ける面がどうしてもあります。
やはりキャッシュフロー計算書です。
ビジネスですから、格付け会社も顧客の希望を考慮することは当然あると思います。
債務上限は問題にならないと思います。
アメリカは基軸通貨である米ドルを刷れますからね。
世界中のありとあらゆる商品等がドルで取引されているので、ちょっとドルの量を増やしたところで減価しませんから。
アメリカ最大の特権かと思います。
バランスシート縮小は財政健全化とはちょっと違いますかね。
あくまで金融政策の一環です。
これでアメリカの財政赤字が減るわけではないです。
バランスシート縮小を通じて借入コストが上昇して、借金が抑制されれば間接的に財政改善に貢献する可能性はあります。
また何かあればいつでもどうぞ!
ご返信ありがとうございます^^!
>成熟企業であれば特に実績PERを使った方が好ましい感じがしますね。
言われてみれば、確かにそうかも知れません。成長企業と違い、実績PERも予想PERもそれほど乖離しないような成熟企業であれば、過去の実績を重視した方が合理的なのかも知れませんね。
>どうしても依頼企業の顔色を伺うことはあると思います。
なるほど、そうなのですか・・それは個人では知り得ない情報ですね。実務に基づいた一次情報はとても勉強になります。
>バランスシート縮小を通じて借入コストが上昇して、借金が抑制されれば間接的に財政改善に貢献する可能性はあります。
ごめんなさい、このセンテンスを理解しようと務めたのですが、僕の知識不足で頭がパンクしてしまいました。。
バランスシート縮小は、「FRBが国債を買い→国債が満期を迎え→償還金は再投資せずに抹消」という流れだと理解していますが、これはFRBの”国債保有額が今後、相対的に減っていく”という事ですよね。しかしこれは、FRBが国から(市場を通して)借金を返してもらう事で、”国の借金が減り、財政が健全化する”という直接的な帰結にはならない、という事でしょうか?
そして、これは改めて追加で得た情報なのですが(情報筋は伏せさせて下さい)、
>【疑問1に関連して】
金融規制に関しては、レバレッジとプロップトレーディングの規制が重要ファクターだという観点もあるようです。銀行によるプロップビジネスが再び盛り上がると、資金と人材の再流入が予想されるためです。また、低金利下で拡大する与信マーケットにも注意が必要なのだと。
>【疑問2に関連して】
米国のセカンダリマーケットでは「EV/EBITDA」を用いたバリュエーションが主流で、PERは使うが日本の投資家ほど重視しないようです。利益モメンタムで大きく左右される上に、企業価値を表す指標ではないためです。「CAPEレシオ」含め、僕もまだ理解が追いついていない部分もあるのですが、指標の適切な使い分けはASAPで身につけたいです・・!
諸々、引き続きで失礼しました。
金融の分野では、疑問が浮かび、調べて読み、再び考える行為を繰り返す度、こんがらがって途方に暮れるのですが笑、hiroさんとの会話がとても大きな助けになっています。
抽象的な表現ですが、無限に続く砂漠を歩いているようで、しかし以前と全く同じ解像度で臨む景色ではない、という部分に希望を見出しています。
福岡も肌寒くなって来ましたが、hiroさんも体調ご自愛下さい!
岩波さん、こんばんは。
PERは業績のブレが少ない安定株の場合は、時系列比較でバリュエーションを判断しやすいですね。
景気循環銘柄だとどうしてもPERが上にも下にも変動してしまって、単にPERの数字を見るだけでバリュエーションを判断するのは難しいです。
原油価格下落でエネルギー銘柄の株価が下がっていますが、エネルギー銘柄のPERは使えません。
XOMのPERは一時50倍を超えていた記憶があります。
それは一時的に収益が悪化しているからに過ぎません。
バランスシート縮小の件、説明不足ですみませんでした。
FRBが再投資を止めて国債保有額が減少しても、やはり財政改善にはなりませんね。
FRBが再投資を行わないことと、財務省の国債発行量は基本的に無関係ですので。
FRBはあくまでも国債市場での一投資家に過ぎません。
巨大な投資家ではありますが。
FRBを「私たち」に置き換えてもいいと思います。
私たちが国債保有額を減らしても、それが国の財政改善に繋がらないのは自明ですよね。
国債の買い手がFRBであっても同じです。
もし仮にFRBが国債を買わないならば追加で国債発行できないというなら、FRBの買い控えが財政改善に繋がるとも言えますが現実的はないです。
FRBが国債の再投資を止めると、国債の需要が減少するので国債価格が下落する可能性があります。
それは金利の上昇を意味します。
その金利の上昇が国債発行を抑制することになれば、財政改善に繋がることもあります。
というか、バランスシート縮小とは金融引締め政策ですのでそれがあるべき姿です。
国家にかかわらず、個人も企業も金利が上がると借金を控えますよね。
ただバランスシート縮小はそれほど国債利回りに影響を与えないという意見が大半です。
しかし、FRBにとっても初の試みですので様子を見守るしかありません。
金融規制の件、解説ありがとうございます。
プロットビジネスという言葉が初耳でわからないので、今度調べてみますね。
EBITDAは実務でもよく使います。
PERがバリュエーション判断に使いづらいという意見には同意です。
あくまでも参考指標ですね。
一つの指標に固執せずに、柔軟に判断することが大事なんでしょうね。
私は配当利回りばかり見ちゃいます。
女性のルックスしか見てない男みたいなもんですよ・・。
目先の誘惑に負けますね。
中身をしっかり見れるように日々勉強していきたいです。
配当利回りに過度にこだわることなく、利益とキャッシュをしっかり稼いでいる企業に長期投資することが原則だと思いますから。
色々と考えだすと疑問は溢れてきますよね笑。
わかります。
今日は東京めっちゃ寒いです!!
今ふかふかの羽毛布団にくるまった状態でノートPCカタカタしてます。
>その金利の上昇が国債発行を抑制することになれば、財政改善に繋がることもあります。
なるほど、「間接的に」というのはそういう事だったのですね!FRBも公的機関というイメージが先行して、なかなか正確な理解にたどり着かなかったのですが、「私たち」と置き換える例えが大変分かりやすく、腑に落ちました。(確かFRBもルーツは民間企業なのですよね)
>EBITDAは実務でもよく使います。
そうなのですか!PERよりも有用な指標なら、どうせなら個人投資家向けにも多くの株価サイトやアプリで分かりやすく掲載して欲しい所ですよね。
試しにコカ・コーラで検索してみましたが、この数値は相対的に高いほど割高、という事なのでしょうか。
(参考URL: https://www.stock-analysis-on.net/NYSE/Company/Coca-Cola-Co/Valuation/EV-to-EBITDA#Ratio-Historical)
数値もセクターや企業によってかなり違うのですね・・今の僕では到底理解が届きません。
(参考URL: http://ignitepartners.jp/column/macolumn/442-ebitda-8.html)
>私は配当利回りばかり見ちゃいます。
同じくです、、笑
ダウの犬戦略も、銘柄の回転を前提とした戦略で、シーゲル流の長期買い持ち&配当再投資戦略とは別の概念ですものね。
企業の中身を見るというのは、本当に難しく奥が深い事なのですね。
長々とすみません、諸々ありがとうございました!
引き続き貴ブログ拝読&応援しております。
ご理解頂けてよかったです。
私の理解違いがあれば申し訳ないのですが、FRBのBS縮小と米国財政改善は直接的には関係ありません。
EV/EBTDAは負債も含めた価値に対するバリュエーション指標なのが、株式時価に着目したPERとは異なる点ですね。
ただ株価のバリュエーション指標としては有効なのでしょうね。
M&Aの時には必ず使われる印象です。
おっしゃる通り、単純に数値だけ見るとコカ・コーラは割高ですね。
これはPERを見ても一緒です。
悩みますよね笑。
私コカ・コーラやペプシコに投資しています。
ですが、これだけの成熟企業でPERやEV/EBITDAが市場平均より高くて、本当にS&P500をアウトパフォームできるのか自信がありませんw。
少なくとも短期的には無理だと踏んでいます。
長期になればリセッション期なども経由することで、アウトパフォームする余地があるのかな~と考えています。
IBMのような明らかな低バリュエーションの銘柄は、うまく事業改善が進めばリターン改善の余地は大きいと思いますが。
長期投資って検証ができないから難しいです。
人生が二回ないと検証できません。
投資は難しいですね~。
まあ命掛かっているわけじゃないので、いい意味で気軽に好きなようにやっていきますよ。
Hiroさん
お疲れ様です^^
先日は僕のとりとめのない疑問に丁寧にご返信下さり、ありがとうございました!
せっかく、hiroさんからめちゃくちゃ勉強になる知見を頂きましたので、(あの後、知人の銀行筋、証券筋の方にも追加で私見を共有頂き)、対話形式で記事化させて頂きました。
【疑問1】
http://serendipity.chips.jp/archives/18867
【疑問2】
http://serendipity.chips.jp/archives/18992
【疑問3】
http://serendipity.chips.jp/archives/18994
【疑問4】
http://serendipity.chips.jp/archives/18996
諸々、ありがとうございました!!
岩波さん
記事とりまとめ、お疲れさまです!
拝見させて頂きました。
私なんかを「識者」として扱って頂き大変恐縮です。
銀行筋Nさん、証券筋Xさんのご意見参考になります。
予想PER、バランスシート縮小に関するNさんのご意見には共感しました。
金融絡みの問題は、何が問題の本質なのか理解するのが難しいなっていつも思います。
根気強く勉強して、投資経験も積んでいきたいです。