ベーシックインカムの本質

テクノロジーの発展によって徐々に人の労働、特に単純労働が消えていることを背景に、ベーシックインカム(BI)が話題に上ることがあります。BIとは最低限必要な所得を政府が保証する。つまり、政府が国民に無償でお金を配ることを意味します。

お金は労働で稼ぐのが当然という認識がまだ一般的だと思いますが、現実を見ると必ずしもそうとは言えないことがわかります。機械やシステムが価値(=お金)を生み出す割合が高まっています。私は上場企業の経理にいますが、決算プロセスの大半はシステムで自動化されています。売上高兆円単位の企業の連結決算でも、財務諸表作るだけなら3人もいれば十分という印象。

こういった仕組みで稼いだ富を仕組みの所有者(=資本家)が占有していると、格差が拡大し社会は不安定化します。日本はマシですが、米国の中流層は崩壊しつつあります。起業家、資本家の金儲けインセンティブを奪い過ぎるのはダメですが 、所得再配分の一環として、仕組みが生んだ富を中央が一度集めて広く配分するのは合理的だと私は思っています。

しかし、BIがすぐに現実化する可能性は低いです。消費増税まで行われている中、どうやってこれ以上の財源を集めるのでしょうか。日本国籍を取ってBIを貰おうとする外国籍の方の法的な取り扱いはどうすべきでしょうか。お金は汗水たらして稼ぐものという社会通念も高いハードルです。課題は多いです。なかなか理解されないでしょう。

ただ、私は一つ思うことがあります。

それは、僕たちはすでにベーシックインカムを受け取っているということです。

は、、お前何言っているの?
政府からお金もらったことなんてねーよ。
もしかして昔の地域振興券のことww?
って思いましたか?

いえ、違いますよ。

BIの本質って何でしょうか?

私は、BIの本質とはテクノロジーや知的財産など過去の遺産によって富を得ること、豊かな生活水準を享受することだと解釈しています。私たちは知らず知らずのうちに多額のBIを受け取っています。

表面的なお金の流れだけを見ていては物事の本質が掴めないことはよくあります。給料が3%増えても物価が5%上がれば実質減給です。コンビニで売られている小袋のお菓子の値段はあまり変わってないように見えますが、内容量が減っているので実質値上げされています。

BIも同じです。政府からお金を受け取るかどうかはBIの本質ではなく、より少ない労働量で質の高い生活が送れるようになることがBIの本質だと思います。

医療の発展というBI

今年のゴールデンウイーク前、突然前頭部がズキズキと痛み出したんです。数日経てば治るだろうと高を括っていたら、収まるどころか酷くなる一方でした。もしかしたら脳腫瘍かもと不安になり病院に行こうとしましたが、ゴールデンウィークでどこもお休み。仕方ないので連休中はあまり出歩かず安静にしていました。

ゴールデンウイーク明けの初日に午後休暇を取得して病院(脳神経外科)に行きました。人生初めてのCTを経験しました。結果が出るまでドキドキです。このまま大学病院送りになって、緊急手術もあり得ると本気で覚悟していました。冗談ではなく。

「Hiroさん1番診察室にお入りください。」というアナウンスを受けて、緊張した面持ちで「失礼します」と入室。数秒の間を置いて、医師から宣告された病名は副鼻腔炎(蓄膿症)。良かった、脳腫瘍じゃなかった。

副鼻腔炎とは副鼻腔という鼻の中の空洞部分の内面を覆っている組織の炎症です。炎症箇所によっては私のように頭痛が発生することもあるようです。特に風邪を引いていたわけでもなく副鼻腔炎になってしまった直接原因は不明でしたが、病名がわかって安心しました。抗生物質を処方され1週間くらい飲み続けていると、頭痛は嘘のようにスーッと引いていきました。

実はこの副鼻腔炎、昔は外科的な手術で治療するしかなかったそうです。さもなくば我慢するか。ネットで勉強しました。

抗生物質は保険適用で千円ちょっと。こんな安いコストでしんどい頭痛がすぐに治りました。誰がこの抗生物質を開発してくれたのでしょうか。昔の学者、研究者の方々、そして製造してくれた製薬会社のおかげです。

こういった医療の発展もベーシックインカム(BI)だと思うんです。一昔前なら治療困難だった病気も現代は低コストで治療ができ、健康を取り戻せる。楽しい人生を送る上で健康って一番大切ですよね。

僕は歯並び的に虫歯になりやすいのですが、歯医者にいけば1カ月程度で治療してもらえます。治療費は保険適用内であれば総額で1万円もしません。たまに思うんです。治療法がなかった昔、虫歯になったらどうしてたんだろうって。無理矢理抜歯したのか。神経が死ぬまで痛みに耐え続けたのか。短期間・低コストで虫歯治療ができる現代の技術、これもBIだと思います。

安くて美味しいカツ丼というBI

とんかつ屋の「かつや」ってご存知ですか? もしかして展開は都内だけかな。安くて美味しいとんかつが食べれるチェーン店です。高円寺に住んでいた時は、駅前にある「かつや」によくお世話になりました。定番のカツ丼は税抜きで490円です。税込みワンコインとはいかないけど、クオリティを考えれば安いです。ロースカツ定食は690円。とんかつ定食って1000円超える店が多いですが、「かつや」はこの値段です。

どうしてこんな低コストで美味しいカツ丼を作れるのか? その秘密はオペレーションの効率化にあります。特注のオートフライヤーを導入して揚げる作業を極力自動化しています。習熟していないアルバイトでも問題なくこなせます。

490円で食べられる美味しいカツ丼。もし調理の自動化技術がなくて手作業だったら、人件費とチェーン化できない関係で1000円以上はするでしょう。その500円以上の差額はベーシックインカム(BI)と言えると思いませんか。「かつや」でカツ丼食べる度にBIを貰っている気分になります。んなこと考えながら食ってるの私だけだと思いますがw。

私たちの日常生活はBIに支えられている

以下は橘玲さんの近著『上級国民 / 下級国民』にあったグラフです。

紀元前1000年から1800年くらいまで生活水準はほとんど変わりませんでした。庶民は常に飢餓の危機と隣り合わせの生活。一人当たり所得が加速度的に伸びたのは産業革命以降です。私たちにとって1日3回美味しいご飯を食べれるは当然です。食べ過ぎて太らないこと、ダイエットに関心が集まるくらいです。でも、それだけ豊かになったのは人類の長い歴史の中で見るとつい最近のことです。

テクノロジーの発展と、それを信じること、つまり信用が集まることで資本が大規模化し、富が急激に蓄積されていきました。私たちの豊かな生活は過去300年の間に蓄積された技術や知的財産という「ベーシックインカム」に支えられています。

政府が国民にお金を配るかどうかはベーシックインカムの問題というより、所得の再分配方法の問題でしかありません。今日も最先端のテクノロジーがどこかで研究されており、それによって益々「ベーシックインカム」は増えていきます。最先端のテクノロジーと言わずとも、私たちの日常のコツコツした仕事も将来の「ベーシックインカム」に貢献しているはずです、きっと。