最近、米国株銘柄分析について2018年12月決算データへのアップデート作業をやってます。本当は3月からやる予定でした。正確に言うと、3月にならないとやれないと思ってました。というのも、各社が”Form 10-K”(日本の有価証券報告書に相当)を提出するのが3月だと思っていたからです。

そしたらさ、ふとチェックしたら、もうアルファベットやフェイスブックはFY18の10-KレポートをSECに提出してるんです。

いやいや、いくら何でも仕事早過ぎるって(汗)。

毎年、有報を作っている上場企業の経理部員として驚きを禁じ得ないです。どんな仕組みを作ったら、そんだけ早く決算開示できるんだろうか。冗談じゃなくて、ホントに1年くらい研修に行かせて欲しいです。人員が豊富なのか、それとも会計システムが逸脱なのか。

アルファベットは2019年2月5日にFY18の10-Kレポートを提出しています。フェイスブックにいたっては1月31日です。四半期決算ならまだしも、年次決算で決算日(12月末)から1カ月以内に開示するとか、ちょっと信じられないです。

1月1日から「よーいドン」で決算締め作業が始まります(日本だとお正月休みがありますが)。親会社決算をまとめつつ、子会社の決算書を回収します。提出が遅い子会社に「はよ提出しろ!期日過ぎとるぞ!」ってリマインドします。親会社、子会社すべての決算書が集まったら、それらを連結会計システムにぶち込みます。んで、色々と連結仕訳が自動で起票されます。また、結構な数の連結仕訳をマニュアルで作成します。

そうやって、連結決算書が出来上がったら、異常な数字がないか時系列分析等でチェックします。また、地域別事業別のセグメントPLの作成にも取り掛かります。調整後EPSを算定する作業もあります。

財務諸表がほぼ固まったら、短信(東証に提出する資料)や取締役会用資料、その他諸々の内部説明資料を作成します。資料を作成しながら、今期の業績をどうマーケットに説明するか議論します。為替の影響が営業利益にネガティブに効いているとか、増産で原価差異が思ったより良かったとか、M&Aコストで一時的に粗利率が悪化しているとか、その時によって色んな事項があります。アナリストからどんな質問をされても、流暢に回答できるよう準備します。

んで、最後の最後に有価証券報告書の作成。注記の作成にかなり時間を要します。監査法人の確認期間も必要です。

そんなこんなで、3月決算の有価証券報告書を金融庁に提出するのは6月後半です。あ、あくまでうちの会社の場合ですけど、有報を6月後半に提出するのは、3月決算の日本企業の普通のスケジュール感だと思います。

そもそも、これは法律で決められている期限でもあります。有報は決算日後90日以内に開示しなくてはなりません。四半期報告書は45日以内です。なので、3月決算企業だと6月末までに提出すればいいということになります。敢えて提出を早めて自分たちの首を締めたくないのもあって、大体有報の提出は6月後半です。

それに対して、米国の10-Kレポートの提出期限は決算日後60日です。原則は90日ですが、一定以上の時価総額の大企業は60日以内です。私たちが投資を検討するS&P500構成企業は、みな60日以内提出と考えてよいでしょう。

この時点で日米の差があります。日本は90日以内だけど米国は60日以内です。60日という期限も厳しいのに、フェイスブックやアルファベットは自らの意思で30日前後で提出しているわけです。ITはビジネス環境の変化が早いだけあって、間接部門である経理部の仕事もめちゃ早いみたいです。

30日で有報を提出するって、うちの会社じゃ絶対に無理です。んなことしたら、みんな深夜残業で鬱になって会社辞めちゃいそうです。あと、いくら経理部が頑張っても、監査法人のリソースが追い付かない可能性が高いです。

フェイスブックやアルファベットは異常だと思います。いや、ハイテク企業は特に早いんだけど、それ以外の企業もかなり早いです。たとえば、フィリップモリスやボーイングは40日くらいで10-Kレポートを提出しています。

こういうところも、米国株式市場のレベルの高さを感じる点です。日本だと90日が当たり前になってるけど、よく考えたら決算日から3ヵ月って投資家を待たせ過ぎかもしれません。日本がおかしくて、アメリカが普通なのかも。

別にアメリカ人だから経理の能力が高いことはないと思います。同じ人間だし。1日24時間というリソースは一緒だし。むしろ、労働時間だけで言えば日本人の方が長いくらいでしょう。

う~ん、米国企業の経理部はどうやってこんなスピードで10-Kレポートを開示してるんだろうか。めっちゃ気になる。やっぱ、決算業務のマクドナルド化を徹底してるんだろうな。マニュアルに沿って、素早く淡々とやってるんでしょう。

あとは、間接部門にも相応のお金を掛けているという理由もあると思います。人にもシステムにもお金をつぎ込む余裕がありますから。フェイスブックやアルファベットの資金力があれば余裕でしょう。

収益に直接貢献しない間接部門、本社部門にしっかりリソースを割ける。これが強い企業の特徴な気がします。企業レベルではなく政府レベルで見ても、米国はSECやFDAなどの規制部門の人的リソースの質が高いです。企業や個人が納める税金が多いから、そういった規制部門にしっかり資金を割り当てることができます。

最近、日本の厚労省で統計の問題が起こりましたよね。詳しいことは知らないので勝手なことは言えませんが、ああいうのは結局、人手不足(スキル不足も含め)が原因なことが多いんじゃないかって思います。個々人はみな真面目に業務をやってるけど、どう頑張ってもやり切れないほどの低リソース。

儲かってるから間接部門に金を使える。バックオフィスが充実しているから、フロントは力をフルに発揮でき、その結果、儲かる。その儲かったお金でさらに間接部門を強化し・・、という良い循環が生まれます。強い企業は益々強くなる。金持ちは益々金持ちになる。

決算書の開示が早い。些細なことかもしれませんが、米国企業の強さを改めて感じました。