投資家は最低限の会計リテラシーを持っていたほうが良いです。簿記のスキルが不要ですが、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)はある程度読めた方がいいですね。

労働者として会計知識が求められるのは、経理部などファイナンスセクターで働く者だけと思われるかもしれません。確かに、細かい専門的な知識という意味ではその通りでしょう。しかし、私は投資家と同じくらいすべての労働者も最低限の会計リテラシーを身につけた方がよいと思っています。むしろ、サラリーマンこそ会計知識を学ぶ意義が深いくらいです。

なぜなら、その方が資本主義社会をうまく立ち回ることができるからです。もっと具体的に言うと、財務諸表が読めると働きやすいホワイト企業を見極めることができるからです。

儲かる企業=ホワイト企業な可能性大

どういうことか説明します。

以前、「ホワイトな労働環境を手に入れるための方程式」という記事を書きました。その中で年収を以下に分解する式を紹介しました。

年収=付加価値  ×(1-搾取率)

年収を上げるには付加価値(会社への利益貢献額)を引き上げるか、資本家の搾取率を引き下げるかのどちらかを目指す必要があることを意味しています。ここで私はホワイトな労働環境を手に入れるには、付加価値を高めてたくさん搾取されるべきと主張しました。

会社に1億円の利益をもたらして年収1000万円なら搾取率は90%です。それだけ資本家の利益に貢献していれば、自ずと資本家は労働者を大切に扱おうとしてくれます。有給は取りやすく、福利厚生も充実し、会社の雰囲気もギスギスしていないことでしょう。

では付加価値を上げるにはどうすればいいのでしょうか?

たくさん勉強して会社の利益に貢献できる社員に成長すればいいのでしょうか。確かに、そういった努力も大切です。

しかし、もっともっと大切なことがあります。それが儲かっている会社に所属することです。儲かる仕組みを持つ会社に所属してしまえば、それほど努力しなくても会社への利益貢献額は大きくなります。あくまで計算上の話でいいんです。営業利益を従業員数で割った一人当たり営業利益の金額が大きい会社ということです。そういう会社は往々にしてホワイト企業です。

そもそも、看護やコンサルなど一部の労働集約的な業界を除けば、現在の従業員が会社の利益に貢献している部分なんてほんの一部です。創業して長い企業はすでに儲けの仕組みができ上がっているものです。今の社員はその仕組みの上に乗っかっているだけで給料が貰えます。自分達が頑張って働いているから利益が出ていると思うかもしれませんが、実質的には先人が築いてくれた「資産」がキャッシュを稼いでいることはよくあることです。それが社会に豊かになるということだと思います。

よく「あの人がうちの会社のエースだよな~」と言われる人がいますよね。営業成績トップの人とか。営業成績が優れているのは素晴らしいことですが、自社の製品が売れるのは営業マンの力よりも、過去何十年も続けてきた製品開発の賜物かもしれません。大して努力しなくても売れる製品ってありますよね。

先輩たちが「金のなる木」をたくさん育ててくれている高利益率の企業に入れば、勝手に「付加価値」は上がります。所属してそれなりに働いているだけで、会社の利益に貢献していることになります。

そういう会社を見抜くことが大切です。

ホワイト企業を見抜く方法は色々考えられます。 企業のホームページを見るのは×。就職、転職サイトを見るのも×。匿名の掲示板を覗くのは△かな。◎なのは有価証券報告書を見ることです。

有価証券報告書の「従業員の状況」には平均勤続年数や平均年収が記載されています。そこも気になるところですよね。でも、見るべきはもっと後ろの部分です。「経理の状況」です。損益計算書とキャッシュフロー計算書を見ましょう。

大学生の人気就職ランキングって毎年発表されますよね。伊藤忠、トヨタ自動車、ANA、JTB、東京海上日動、資生堂あたりが常連なイメージがあります。日本を代表する企業ばかりです。

確かにこういう企業はホワイトな労働環境な可能性が高いと思います。でも、会社の内情なんて外面だけではわからないものです。世間的には一流企業で通っていても、実際はブラックな環境かもしれません。自殺問題が起こる某企業のように大々的に報道されればよいですが、そうでなければ外からはなかなか見えません。

見えづらいけど、よーく眺めていると透けて見えるんです、有価証券報告書の財務諸表を通して。財務データを見ていると、何となくホワイト企業っぽいなってわかるもんです。ネット上の評判よりの監査済みの数字の方が信頼できます。単純な話でガッポリ儲かっている企業が良いです。営業利益率が20%を超えているとか。そんな企業滅多にありませんけどね。

初めて就職する大学生に企業の有報を見ろというのは酷かもしれませんが、できれば見て欲しいですね。企業の就職説明会をそのまま信用するのは、ちょっと自己防衛意識がなさ過ぎます。甘すぎる。相手との利害関係を考えないと。

社会人経験があって転職を考えている人ならば、転職先の財務諸表を見るのは必須です。特に最初に就職した企業がブラックでホワイト企業への転職を考えているなら、転職候補企業の有価証券報告書は熟読した方がいいです。最低でも過去5年分は見ましょう。

私は今の会社に転職を決める前、有価証券報告書を過去10年分は読みました。財務データをしっかりウォッチしました。専門的なことはしてません。幣ブログの米国株銘柄分析でやっている程度のことです。売上高、利益は伸びているか、安定しているか。営業利益率、営業キャッシュフローマージンは高いか。ROEはどうか。とかその程度です。

面接の雰囲気、財務諸表、そして事業内容から、ほぼほぼこの会社はホワイト企業だろうなと確信して入社しました。当時の私は(今もですが)、興味のある業界云々よりも働きやすい、かつなるべく給料も高い職場を探していました。前職の監査法人がしんどかったのもあって。その際に転職サイトの情報なんて参考程度にしかしませんでした。情報は自分で取りに行く。公正に数字で語ってくれる有価証券報告書を読めばホワイト企業かどうかは何となくわかります。

労働者こそ最低限の会計リテラシー、財務諸表を読めるスキルを身に着ける意味がここにあります。企業ホームページの「先輩社員の声」は嘘やきれいごとが並んでいる可能性がありますが、数字は正直に会社の実態を物語ってくれます。

たくさん稼いでいて資金に余裕のある企業は、労働者として働きやすい環境であることが多いです。最初に示した「年収=付加価値  ×(1-搾取率)」 の付加価値が高いからです。のうのうと働くだけでも資本家はしっかり搾取でき満足してくれます。資本家が満足しているとCEOへの圧が小さくなり、結果として下々の従業員への圧力も弱くなります。

ビジネス構造を見抜けるとさらに良い

財務諸表を読むことからもう一歩進んで考えれると更に良いです。高収益な企業を狙うべきと言いました。でも、その高利益が現従業員の努力によってもたらされていると労働環境は厳しくなりがちです。利益の源泉がなるべく「過去の遺産」によってもたらされている企業が良いです。これは財務データを見るだけではわかりません。会社の事業内容を理解する必要があります。

「過去の遺産」で稼ぐとは、たとえば丸の内や大手町などに土地や不動産を持っていて家賃収入で稼ぐなどが分かりやすい例です。そういう企業ってありますよね。多分、ああいうとこは給料の割に仕事は楽ですよ。あとは収入源が税金の企業とかですね。食いっぱぐれる心配がないからホワイト企業の可能性が高いです。

会計リテラシーを身につけて労働者としてうまく立ち回る

これまでの議論には決定的に重要な観点が抜けています。「そもそもどういう仕事をしたいか、やりたい仕事は何か」という視点です。楽してお金を稼げればいいだけではないでしょう。社会人になれば仕事に費やす時間がどうしても多くなります。労働環境や給料だけでなく、やりたいことを追求するのは自然なことだと思います。

「年収=付加価値  ×(1-搾取率)」 の付加価値を上げるために、有価証券報告書を見て高収益な企業を見抜くというのは、「仕事のやりがい」という観点を完全に捨象しています。そこは個人の価値観、仕事観次第なので、一般論としては何とも言えません。

私の価値観を言えば、サラリーマン稼業にあまりやりがいを求めていません。自分の会計スキルが生かせる職場がいいなというくらい。

それよりも資本主義ゲームという現実社会をうまく立ち回ることを重視しています。そこそこ給料が高いホワイト企業に入れば、お金が余りやすいです。ストレス発散コストも低いし、休日は仕事の疲れでぐったりとならずに投資や副業に時間を割けます。そうやって資本を蓄積すれば、経済面で人生は楽になっていきます。

もしあなたが私と同じ価値観なら、ぜひとも会計リテラシーを見につけることをオススメします。繰り返しですが、専門的な会計知識は不要です。簿記1級、2級とか、んなの要らないですよ。わかやすい本を読むのがいいと思います。新書の安いやつとかありますよね。とりあえず営業利益率とROEの2つは見た方がいいです。