先日、勤めている会社の取締役との座談会という貴重な時間がありました。

その方は、外資系企業の財務から日系企業の財務、財務コンサルと財務系での豊富な経験をお持ちの方で、人格的にもとても尊敬できる方です。

その取締役が、日米企業の法人税の考え方の違いについて興味深い話をしてくれました。

米国企業は節税に積極的で、日本企業は節税に消極的という話です。

「私が在籍していたアメリカの会社では、如何に税金を減らすのかがファイナンスセクターの使命だと言わんばかりの風潮だったよ。とにかく不要な税金は絶対に1セントも払わない。ほら、アイルランドに本社を移して節税しているアメリカの会社ってあるでしょ。そこまでやるの?って君たちは思うかもしれないけど、アメリカではああいう発想は普通だね。誰も驚かないよ。」

「だからね~、私は日本企業に転職した時、当時の上司に実効税率が高すぎるからもっとこういう法人税節税策を打ちましょうと進言したのね。そしたら上司に大声で叱られたね。」

「ああ!、君は何をふざけたことを言っているんだ!!きちんと納税してお国の財政に貢献することは企業の使命だろ!節税なんてとんでもない。やるわけないだろ。非国民だな君は。」

株主資本主義が徹底された米国企業と、やや社会主義的要素が残る日本企業との違いとして、そんなに想像に難くはない話ではあります。

ですが、実際に職務経験がある大先輩の取締役からこういう体験談をお聞きして「あ~、やっぱりそうなんだな」って改めて日米の企業文化の違いを感じました。

 

 

この話から、米国企業と日本企業それぞれの判断のどちらが正しいのかを議論するのは野暮かもしれません。

そもそも「正しい」という言葉は大変曖昧ですよね。正しいか誤りかの明確な判断って、数学とか科学など自然科学の分野では可能かもしれない。でも社会科学の分野って何が正しいかって完全には決めれない気がします。時代背景とか個人の価値観によって何を正しいと思うかは異なるように思います。

というのは承知の上で、節税を頑張る米国企業と節税をしない日本企業とで、どちらが正しいのか勝手に判断したいと思います。私の価値観で勝手に。

私は節税する米国企業の判断が正しく、反節税の日本企業の判断は誤っていると思います。

 

お国の為にしっかり納税するんだ!っていう主張は確かに愛国心が高く、称賛を受けそうではあります。でも、それは自分が所属している国家(日本)を優遇して、日本以外の国籍を持つ株主利益を無視していると思います。

日本企業が日本にたくさん納税して、日本国家の財政が潤うことで得をするのは日本国民です。日本企業の外国人株主からしたら、そんなのたまったものではありません。なんで日本国家の税収に俺が貢がなきゃならんのだって思うはずです。

日本人株主や日本人経営者の愛国心のために外国人株主の利益を犠牲にするのは、やはり公平さという面から正しくないと思います。すべて日本人株主で、多くの株主が節税しないことに納得しているのなら、別に勝手にたくさん納税すればって思いますけど。でも以下で書きますが、株主には節税を望む望まないを判断する場さえ与えられていません。

 

 

資本主義は崩壊するとか色々言われることがありますけど、経済的に発展している先進国はすべて資本主義です。社会主義は失敗しました。格差拡大とか悪い面もあるけど、結局資本主義が生き残っています。

資本主義って各々が自分の利益を追求して、その利益に法的な所有権を与えることで成立しています。要するに人間は生来的に怠け者でサボりたがりだから、きちんと相応の人参をぶら下げないと社会が豊かになるように働いてはくれないということです。

直接的には社会の為とか考えずに、それぞれが自己利益を追求すればいい。その過程で自然と社会にも利益が還元されるので結果オーライです。社会に貢献しないビジネスは顧客の信頼を得られず、市場原理の下早晩潰れる運命にあります。

強欲と思われるかもしれませんが、各個人は徹底的に自己の利益を追求すればいいのではないでしょうか。もちろん人をだましてお金を稼ぐのはダメです、詐欺は当然ダメです。すべての人が自己利益の最大化を目指すことで自然と社会全体の利益も最大化されるんだと思います。

社会の法律を守りながら倫理観を持ちつつ、各個人は利益を追求する。

特定の個人に集中してしまった富は、法律で政府が適切に再配分する。

確かにこの富の再配分がうまく機能していないから、ブレグジットなどのポピュリズム的な運動が起こっている面はあると思います。しかし、あくまでも富の再配分を検討すべきは政府の役割だろうって私は思います。

節税策を捨てて、お国の財政を想って自ら多額を納税するというのは企業の役割を超えているように思います。企業がちょっとだけ政府の役割まで担っているように感じます。

そもそも、一般的な大企業の株主は株式会社の経営に実質的に携わることができません。日常業務は代表取締役を始めとした経営陣に委託しています。株主の判断が必要なこと(株主総会決議事項)って、M&A関連、定款変更、取締役の選任などの重要な一部の業務だけです。

会社の未来に大きなインパクトを与える意思決定だけはさすがに株主にお伺いを立てますが、日常的な業務は株主はノータッチです。大株主ですら関与しません。経営者と現場の従業員にお任せです。

会社の税務戦略なんて完全に日常業務の範疇です。株主は自社の法人税計算がどうなっているかなんて知る由もない。会社が作成した決算書の法人税負担率を見て「高いな~」とか思うくらいです。

株主は経営者は自分たち株主の利益の為に働いてくれていると信じています。それは当然、税金費用の管理も含みます。

備品費とか人件費とかはギュウギュウに絞ろうとするくせに、税金費用だけどうして甘くする必要があるのでしょうか。税金も立派な費用です。

トランプ大統領当選後、米国企業の株価が上昇しているのはトランプ氏の減税策を期待している面もあります。減税というだけで株価上昇要因になるのです。つまりそれだけ税金が企業の収益に与えるインパクトが大きいといことです。

株主は税引き後の利益を最大化して、配当金を最大化してもらうために経営陣に高額の報酬を支払っています。経営者は委託者である株主に報いるために、きちんと税金も最小化するよう尽力する義務があると思います。(※脱税はダメです)

ただやっぱり倫理観も大事だとは思います。あまりにたくさんのペーパーカンパニーを作って、税務当局も理解できないような複雑なスキームを構築してまで節税することに全面賛成ではないです。

言いたいことは、経営者は税金を株主の費用だときちんと理解して、適正にマネジメントするべきだということです。国家財政の為に敢えて目の前の節税策を捨てて、税金を多く払うという判断には反対です。

 

株主として米国企業と日本企業、どちらを選ぶべきかは議論にならないでしょう。特に長期投資という観点では。

先の取締役の話は20年くらいの前の体験談だそうです。今は日本企業文化は欧米のそれに近くなりつつあると思います。ですが、株主利益に対する意識の高さという点では、やはり米国企業の方が上だと思います。それはROEの高さや自社株買いの規模、バランスシートの構成を見てヒシヒシと感じるところです。

S&P500指数が歴史的に右肩上がりなのは偶然ではないと感じます。