家に帰るまでが遠足ですよ、と小学生の頃先生に言われたものです。

給料が振り込まれたことを確認するまでが仕事という人はいるでしょうか。たまにブラック企業で給料未払いが問題になりますね。しかし、恐らくあなたはそんな心配したことないかと思います。普通の企業は遅滞なく給料を振り込んでくれます。私は給与明細はさらっと見ますが、銀行の入金明細まではチェックしていません。会社を信用しています。

仕事をしたら労働債権が発生する。その債権を回収できるどうか心配する必要は事実上ありません。が、その一歩先を考えたいです。もらった給料を使うまでが仕事と思った方がいいのでは。そんな風に思う時があります。

これ以上お金は欲しいとは思わない。買いたい物はあまりないんだ。ただ仕事が好きだから働き続けるだけ。もらった給料は貯金するかな。

これは一見とても素敵な考えのように思うかもしれません。社会のために働き続け、しかも堅実に貯金するなんて偉い!って思うかもしれません。

でも、これは経済全体には悪影響でしかありません。仕事は社会に価値を生みますが、その対価である給料を使わずに滞留させるならマクロ的には経済停滞に貢献していると言えるほどです。

なぜなら、給料をもらうということは、給料を支払う主体の購買力を低下させることを意味するからです。当たり前ですね。あなたの給料はあなたが勤務する会社の損益計算書に「人件費」として費用計上され、純利益を押し下げます。純利益が下がればその分、投資や配当の原資は少なくなります。

働いて稼いだ給料を使わないということは、社会全体の「信用」の総量を低下させるということです。

「お金はどこで貰えるのかなあ?」と小学生に質問すると、「ぎんこう!!」って元気に答える子どもが多いそうです。その無邪気な姿を見た大人たちは「銀行はお金を下ろすだけで、毎日しんどい仕事をしないとお金はもらえないんだよ。」とクスクス笑ってしまいます。

しかし、子ども達の回答は的を射ています。お金を生み出すのは銀行でしかありません。日本銀行券という日本政府の信用力で担保されたお金を生み出せるのは日本の銀行だけです。あなたの財布に入っている1万円札は元をたどれば、どこかの銀行がかつて信用創造したものです。価値を生み出すのは企業や個人の仕事ですが、信用を生み出すのは銀行です。

信用経済の難しいところですが、一度創造した信用(=お金)は人間にとっての血液みたいもので、常にグルグルと循環させておく必要があります。経済(信用総量)がシュリンクするとデフレになって、さらに経済がシュリンクします。そして国民全体の所得が低下します。

お金が存在しない世界を想像してみて下さい。
あなたが仕事をするのはどんな時ですか?

仕事をしてもお金は貰えません。お金という信用がない世界ですから。何か欲しい物がある時だけ仕事をしますよね。寒くなってきたら今週末は家族としゃぶしゃぶがしたい。豚肉と白菜と豆腐が欲しいな。それらをくれるなら、あなたの会社の決算書を作りますよ。

こんな感じでしょうか。事実上の物々交換ですね。この場合はモノとサービスの交換ですが。それもそのはずで、信用(お金)がない世界では物々交換しか成立しません。何も欲しいものがないのに、他者に自分の労働力を提供する人は稀です。それはビジネスというよりボランティアですね。

老後の不安を煽るコンテンツも多く、貯金熱が高まっています。堅実で「合理的」な節約家が増えた、特に若い人を中心に。私もその類です。お金を使わず将来に備えて貯金するために仕事を頑張るというのは、人生100年時代と言われる現代では自然な行動に見えます。むしろ、そっちの方が健全で美徳かのように称賛される時もしばしば。特に子どもを心配する親は貯金に励む子どもを褒めちぎるでしょう。うちの親はそういうタイプです。特に母。

でも、それは経済全体には悪影響です。じゃあ、個人に強制的にお金を使わせるかって言うとそんなの無理です。個人にとって貯金は合理的な行動です。合成の誤謬と言われる事象です。

そもそも消費せずに投資ばかりしてきた私が、こんな記事書いていいのかって感じもしますw。私は貯蓄ではなく投資をしてきたので、最低限の信用循環はできているとは思っていますが、投資も最終的には消費に回さないとダメという思いもあります。でも、資本主義社会では「資本」を持ち続けた方が有利だから、結局保有する米国株の大半は売らない気もする。これもある意味では信用を停滞させている行動かもしれません。

まあ、個人が消費しようと貯蓄しようと投資しようと本人の自由です。貯金が「悪」というのはあくまでマクロの話です。

ただ、貯金以外の目的を持って働けた方が頑張れるし、その方が幸せだろうなって思います。私は20代の頃は株式投資の種銭が欲しかったから、夜遅くても苦なく頑張れた気がします。今はそのモチベーションはだいぶ減ったかな。株式投資は続けるけど、他に熱中できる趣味や遊びも探してます。