お金の流れを理解すれば、自分の置かれた状況を客観視できる

サバンナの野生動物は文字通り弱肉強食の世界を生きていますが、私たち人間も資本主義社会という弱肉強食の世界を生きています。サバンナは嫌でも日頃から警戒しておかないと死に直結する場所だとわかりますが、人間社会、特に先進国の日本はパッと見では警戒心なんて不要な安全な場所に見えます。

しかし、現代資本主義は知能資本主義と言われることもあり、思考力を欠いた状態でのほほんと生きていると、知らぬ間に資本家に骨の髄まで搾取されちゃいます。ある意味でサバンナよりも恐ろしい。何の勉強もせずに「退職金を運用したいんですがアドバイス下さい」なんて証券会社に相談に行ったら、カモられて終わりでしょう。

じゃあ、私たちは自分の資産を防衛するために、常に疑う心を持って生活しなくてはならないのでしょうか。それは窮屈ですね。

私はそこまで斜に構える必要はないと思います。本質的には人間は、困ってる人を見たら手を差し伸べたくなる、という優しい心を持ってると思います。利害を超えて助け合えるのが人間の性質ではないでしょうか。ネットニュースではPV数を稼ぐためにドロドロの人間関係がネタにされがちですが、実生活で周りを見渡せば誠実で親切な人が大半だと思いませんか。幸い私の周りはそんな人ばかりです。

でもだからって、無思考で生きていると搾取される可能性があるのも事実。そこで大切になってくるのが、お金の流れを把握しておくことです。資本主義社会は実態のあるビジネスとマネーゲームの2面があります。企業は1円でも多く利益を上げるよう株主の圧力に晒されています。お金を取りやすい人から取れるだけ取ると、というのは仕方ありません。

お金の流れさえ把握していれば、あなたが不必要にカモられるリスクは小さくなります。なぜなら、ビジネスをやっている人はみな少しでもお金を稼ごうと行動しますが、お金の流れを理解していれば、その行動の動機付けがわかるからです。自分の敵なのか味方なのか、それとも中立的立場なのかを客観視したいところ。

リクルートにお世話になった時の話

たとえば、転職エージェント。私は監査法人から今の会社に転職する際にリクルートにお世話になりました。完全無料で相談でき、市場に出回っている中途採用案件を紹介してもらえます。

私は転職エージェントを100%信用していいでしょうか。鼻から疑ってかかるのは失礼だし、実際に担当者の方はとても親切で誠実な方でした。「あ、この人に相談すれば大丈夫そうだな」って思えました。

でも、お金の流れを考えると、完全に警戒を解くのは早計です。なぜ無料で相談できるのか考えるべきです。リクルートはどこからお金をもらっているのか。それは当然企業です。リクルートにとって候補者たる私は、数多くある「商品」の一つに過ぎません。転職希望者は顧客ではなく商品です。商品は大切だけど、真に大切なのは顧客ですよね。転職エージェントには登録者(商品)よりも企業(顧客)の利益を優先させるインセンティブがあります。それはビジネスとして当然のこと。

それくらい当然に理解した上で相談に行きました。実は私は担当のお姉さんに意地悪な質問をしたんです。8年も前のことですが今も覚えています。

その質問が「監査法人で3年経験積んで転職するか迷ってるんですが、今の転職市場を考えてどうでしょうか?」というものです。まあ、普通の質問です。

担当のお姉さんは「そうですね、私は今転職されることをオススメします。理由は~」と色々と語って下さいました。

転職エージェント側がそう答えるのは当たり前です。たとえ市場が冷え込んでいても、「いま転職すべきです」と言うでしょう。だって「いま転職するのは止めた方がいい」なんて言って候補者を帰してしまうことは、貴重な仕入商品を失うことを意味するわけですから。それは中途採用を考えている顧客企業の利益に反することです。

私は自分が転職すべきか否かなんて鼻から相談するつもりはありませんでした。そんなの他人に相談することじゃありません。自分で決めることです。仮に相談するにしても、その相談相手は信頼できる友人や恩師でしょう。見ず知らずの担当者にそんな相談しても無駄。向こうの利害を考えたら「さあ転職しましょう!」って言うに決まってます。それはエージェントが不誠実だからではありません。むしろ、顧客企業に誠実だからそう言うのです。

それを承知の上で、敢えて質問してみました。無料で相談できる以上、丸投げできないことくらいわかっています。転職先の企業の情報もそのまま真に受けるのではなく、自宅に帰ってからネット情報や有価証券報告書を見て自分で調べました。エージェントが顧客企業のことを良く言うのは当然ですから。

無料ならほぼ確実に利益相反関係がある

「ただほど怖いものはない」とよく言いますが、ほんとその通りだと思います。企業は顧客の役に立ってお金を貰って利益を上げるのが使命です。あなたが無料でサービスを利用できるということは、あなたは顧客ではないということです。では誰が顧客なのか。顧客からはどういう仕組みでお金を貰っているのか。そこを把握せずに無料相談に行くのは、サバンナのど真ん中で昼寝するようなものです。

利益相反の要素がないか考えるべきということです。無料ならほぼ確実に利益相反の要素があるはずです。

お金の流れさえ把握していれば利益相反の有無がわかります。利益相反が少しでもあるなら、ある程度割り引いて相手の発言を聞いた方がいいでしょう。それは人の誠実性を疑えという意味ではありません。自分と相手の利害は違うんだ、ということを客観的に理解すべきということです。もしお金の流れが見えないなら、その時は疑ってかかるくらいの気持ちでもいいと思います。