長期で株式投資をしようとする人は最初『ウォール街のランダムウォーカー』等を読んでインデックス投資に傾倒し、その後アメリカ株投資に傾倒していった人は多いのではないでしょうか?

私はこの口です。

インデックス投資であれ米国ETFであれ、米国個別株であれ、海外投資をするうえで避けて通れない問題があります。そう為替です。

アメリカ株に投資している人はドル円の為替変動にはいつも頭を悩まされていることでしょう。

私も短期的にいつも一喜一憂しているのが正直なところです。投資前に円高になると嬉しいしけど、投資後に円高になると悲しいです。

日本人投資家が米国株に投資する場合為替ヘッジをしない限りドル円の為替リスクを常に負うことになります。

この為替は円貨ベースの米国株長期リターンにどのような影響を与えるのでしょうか?

私の考え結論を先に言うとタイトル通りですが、ドル円の為替変動は30年超の長期投資であれば円貨ベースの投資リターンにほとんど影響を与えないと考えています。

ただし!それには外せない前提条件が一つあると思っています。

なぜ長期投資で為替リスクは投資リターンに影響しないのか、またその前提条件とは何なのか以下で説明します。

  為替は株価と配当で相殺される

為替とは何でしょうか?

為替とは単なる「通貨と通貨の交換比率」です。
これはモルガンスタンレー佐々木融さんの『弱い日本の強い円』という書籍に書かれていた為替の定義です。

僕はこの一文を読んで妙に感動したことを今でもはっきり記憶しています。
そう為替レートとは所詮、単なる通貨と通貨の交換比率に過ぎないのです。そのままですが。

ドル円の為替レートは、最近は1ドル102円前後です。これは、そのままですが1ドル札1枚で102円と交換できるということです。1ドルの価値が102円ということです。

日本は変動為替相場制を採用しているので、ドル円の為替相場は日々変動しています。

なぜ為替レートは変動するのでしょうか?

それは株価と同じです。つまり、需給です。ドルを買いたい人売いたい人、円を買いたい人売りたい人、それぞれの注文が為替相場でぶつかり合って為替レートが形成されるわけです。

かなり単純なことを言っていますがそりゃそうですよね。理由はともあれドルと円それぞれの通貨に需要があって買いたい人売りたい人がいるから相場が形成されて、価格が需給に基づいて決まるのです。

金利平価説とかビッグマック指数とか色々言われますが、その日のドル円為替レートはその日のドル円需給によって決まっている、ただそれだけです。

ではドル円の通貨需要にはどのようなものがあるでしょうか?

これは難しいというか、色々あるとしか言いようがないですね。

ドル買い需要でぱっと思いつくのは、
アメリカに海外旅行する人のドル買い需要、アメリカ株に投資しようとする人のドル買い需要、原油先物を買う人のドル買い需要、アメリカ企業をM&Aで買収しようとしている日本企業のドル買い需要、ヘッジファンドの将来の円安ドル高を見越した短期のドルロングなど。

通貨の需要には様々な個人、企業、ファンドの思惑や必要性が背景にあって様々としか言いようがないですが、通貨に対する需要を2種類に分けて考えることができます。

それは実需か投機かです。
先の例で言うと、アメリカ海外旅行やアメリカ企業M&Aは実需、ヘッジファンドのドル買いは投機です。

そして、短期的には後者の投機的な通貨売買が為替レートを大きく動かします。中央銀行の金融政策や景気変動、原油価格、期待インフレ率の変動等を予想して、多額の投機的な通貨売買がなされます。個人のFX取引だってもちろん投機需要です。

確かに短期的には投機的な通貨需要が為替レートを大きく動かしますが、一つ抑えておくべき点があります。

それは、投機的な通貨需要は必ず反対売買がなされるということ、つまり投機的な通貨需要は長期的な為替変動に何ら影響を及ぼさないということです。

典型的にはヘッジファンドのドル買いを想像してください。ドル買いの瞬間為替はドル高に動きますが、利益確定(損失確定)のため必ず彼らは短中期的にドル売りをしてきますよね。

投機的な為替取引は確かに短期的な為替変動の主な変動要因なのですが、長期では無関係なのです。

長期的な為替変動に影響を及ぼすのは実需に基づく通貨取引です。

アメリカに海外旅行に行った人はドルで買い物をするために円売りドル買いをしますが、当然それに反対売買は伴いません。アメリカ企業をM&Aで買収した企業はいつかその企業の株を売却して投資を清算し円貨に戻す可能性は確かにありますが、かなり長期的な話になるでしょう。

長期的な為替変動を左右するのは、実需に基づくドル円それぞれの通貨の取引です。

では実需に基づくドル円の需要は何に一番影響を受けるのか?
それは日米各国の物価です。

なぜなら実需だからです。

実需というのは、単に利ザヤのために通貨を交換する(投機)ではなく、ドル建ての商品や株式が欲しいという目的があるのです。
アメリカの商品や株式の価格(物価)がインフレで上昇するということは、経済合理的な通貨売買が行われれば為替は円高に調整されるはずです。合理的な為替取引を行えば、アメリカでインフレが起これば円高ドル安になります。

結局、長期的には2国間のインフレ率の差が為替レートの変動と一致するのです。

アメリカのインフレ率が日本より長期的に高ければ、円高ドル安が進む。
アメリカのインフレ率が日本より長期的に低ければ、円安ドル高が進む。

長期的に円高になれば確かに日本人米国株投資家は為替差損を被って損するように見えますが、アメリカの方がインフレ率が高い分米国企業の名目収益額は増加しており、それは配当増や株価上昇に繋がるのです。つまり、長期的に円高になれば為替差損を被るけど、それに見合うだけの配当やキャピタルゲインを得ることができるということです。

この事実は日本人米国株投資家を安心させてくれます。ドル円の為替変動は理論的には長期では米国株投資の円貨リターンに影響を及ぼさないということです。

  インフレを価格に転嫁できるか?

長期でドル円の為替変動は米国株投資リターン(円貨ベース)に影響しないが、それには前提条件があると冒頭で言いました。

その前提条件とは何か?

それは上の黄色の文章です。

「アメリカの方がインフレ率が高いはずなのでその分米国企業の名目収益額は増加しており、それは配当増や株価上昇に繋がる」

当然のように書いた一文ですが、納得しましたか?

インフレ率が高いと、その分企業収益が増加して配当増・株価上昇となる。

そんな簡単にいくのでしょうか?

インフレで物価が上昇したからその分販売価格を上げますという理屈が、この厳しい資本主義社会で成立するのでしょうか?

日本でも消費税を上げる時に中小企業保護が問題になりましたね。交渉力の弱い中小企業は消費増税分を価格に転嫁できない恐れがある、だから法律で保護する必要があると。

そう、交渉力の弱い企業は社会的な環境変化による要因ですらそれを販売価格に転嫁できないリスクがあるのです。

ここが前提条件。

長期の為替変動を株価・配当で相殺するためには、インフレを容易に価格に転嫁することができる消費者独占力のある強い企業の株を買う必要があるんです。

別にこれは日本人投資家視点だけではなくアメリカ人投資家としても大事な視点です。ドルベースでみたって、インフレを価格に転嫁できる企業に長期投資しないと実質リターンは大幅に低下します。

アメリカ人にとっても大事なのですが、日本人米国株投資家にとってはより一層大事なのです。
なぜなら、価格交渉力の弱いクソ株に長期投資してしまったら、ドルベースのリターン低下に加えて為替差損が乗っかって円貨ベースのリターンはボロボロになるからです。

インフレを価格に転嫁できる消費者独占力のある企業とは何でしょうか?

別に深く考える必要はなく、シーゲル教授流やバフェット流の米国株長期投資家であれば選ぶであろう、時に裏打ちされたブランド力のある黄金銘柄ということです。

具体的に例を挙げると、コカ・コーラ(KO)、フィリップモリス(PM)などです。

だから、恐らく世の賢明な米国株長期投資家は自然と長期のドル円為替変動を相殺することができる企業に投資していると思います。

クソ株ではなく、しっかりフリーCFを毎期稼いでキャッシュを株主に忠実に還元している優良企業に普通に投資していれば為替なんて無問題!心配無用!

どんと来い円高!! 

でもね、最後に水を差すようで悪いですが、短期的な為替変動は頑張って耐えるしかないよ。

為替リスクを負う日本人投資家だからってアメリカ人投資家より不利なわけじゃない、長期では。

でも短期の精神力は日本人投資家の方が求められます。為替変動の分円貨ベースの方がボラティリティは高まりますから。

でもでも、繰り返しになりますが、インフレを価格に転嫁できる消費者独占力のある最強株を買っておけば、長期実質リターンは円ベースでもドルベースより低下することはありません。

消費者独占力のある企業の株を買っている限り、長期の為替変動を心配する必要はありませんので安心して下さい。