世界貿易の40%前後はドル建て。米国が世界貿易に占める割合の約4倍だ。
(中略)
新興国企業のドル建ての借り入れは依然として多い。それはドル建ての輸出が多くなく、そのため自然な「ヘッジ」が不足している時でも変わらない。これが経済的に理にかなうのは、ドルが他通貨と違うためだ。ドルは貿易で最初の選択肢になった。
(中略)
ドルが金利を生まない場合でも外国人が決済用にドルを大量保有することを意味する。そのため米国は、ドルを安く借り、そのメリットを為替変動で打ち消されることもないという「法外な特権」を享受できる。
ウォールストリートジャーナルより抜粋
米ドルは世界の基軸通貨としての地位を盤石にしていますが、所詮通貨は通貨です。別にドル紙幣に特別な機能が備わっているわけではありません。FRBが他国の中銀と比べて特別な権限を持っているわけでもありません(権力は持っていますが)。米ドルも豪ドルもユーロも日本円もすべて同じ通貨です。商品(サービス)と商品(サービス)を媒介する通貨としての役割はどれも共通です。
では、ドルの基軸通貨としての強みとは何なのか?
それは一言で言えばネットワーク効果です。
ネットワーク効果とはネットワーク外部性とも言われ、利用者が増えれば増えるほど価値が増していく効果のことです。たとえば、メッセージアプリのLINEは日本での地位を確立して他社にシェアを奪われる可能性は低いと思いますが、これはすでに多くの日本人がLINEをインストールして利用しているため、自分だけ敢えて他のアプリを使うメリットがないからです。利用者が増えれば増えるほどLINEの利用価値は高まります。フェイスブックも一緒ですね。
通貨も一緒です。WSJが言っている通り、みんなドルを使います。ドル建て資産の金利が高いからという運用目的ではなく、決済用として世界中でドルが使われています。なんでドルなのかと言えば、取引先も同業者もみんなドルを使っているから、自分もドルを使ったほうが安心だよなということです。自分だけ敢えてポンドや日本円などの他通貨で決済する意義がないわけです。通貨としての機能を果たしくれるならなんでもいいわけです。んなら、もっとも流通しているドルを使っておこうとなります。ドルでお金を借りようとなります。もちろん、ドルが広く流通するのは米国の強い経済力・軍事力があってのことです。
世界中でドルが使われると、なぜアメリカにメリットがあるのでしょうか?
ドル人気が嬉しいだけ?
それはWSJが言っている最後の一文です。赤字にしたところです。あ、再掲しますね。
ドルが金利を生まない場合でも外国人が決済用にドルを大量保有することを意味する。そのため米国は、ドルを安く借り、そのメリットを為替変動で打ち消されることもないという「法外な特権」を享受できる。
ウォールストリートジャーナルより抜粋
米国はドルを安く借り、そのメリットを為替変動で打ち消されることがないという「法外な特権」。うんうん、同意です。私もドルの「法外な特権」とは、WSJが言っている為替変動で打ち消されないという点だと思います。
米国人にとってドルの為替変動って違和感あるかもしれません。少し視点を変えて考えてみましょう。通貨価値と物価は表裏の関係にあります。「為替変動で打ち消されない」とは、FRBがドル紙幣を発行してもドル建ての物価がそれほど上昇しないということです。これは米国人にとってメリットですよね。物価が上がれば実質的な可処分所得が減少して国民は貧しくなります。でも米国はちょっとドルの通貨量を増やしたくらいじゃ物価は上がらないのです。物価が上がらないから米国民は生活水準を維持することができます。
FRBが米国経済のためにドルを刷りまくっても、ドルは簡単には減価しないため米国の物価は上がりにくいのです。まさに「法外な特権」と言えます。
米国がドイツからベンツを買いたいと思ったら、ドル紙幣を刷ってそのドルでメルセデスに支払いすればいいだけです。「え、輪転機を回すだけでベンツが買えちゃうの!?」って思うかもしれませんが、それは事実上可能ですよね。代金さえ払ってもらえればメルセデスは何も文句は言いません。
ただし、ドルを刷れば、その分ドルの価値が下落して物価が上昇し米国民は貧しくなるはずです。やっぱりベンツを買った分の負担はちゃんとあると考えるべきですよね。紙幣を刷るだけで高級車をゲットできるほど世の中甘くないです。
ただ、ドルの場合はその通貨価値の下落が緩やかなんです。たくさん紙幣を刷ってもドルの価値は下がりにくいんです。なんでかと言えば、米国以外でも世界中で決済用としてドルが使われていて、ドルの流通量があまりに膨大なため、ちょっと紙幣を刷ったくらいじゃ影響が軽微だからです。プールの中にスポイトで1滴水を垂らしても誰も気付かないのと一緒です。
ユーロや人民元がドルの基軸通貨としての地位を脅かしているという意見をたまに聞きます。たしかに、これから中国が米国を超える経済力・軍事力を持つようになれば、ドルの覇権が終わる可能性もゼロではありません。しかし、その可能性は低いと思います。それは経済力云々の前に、圧倒的なネットワーク効果が働いているからです。貿易決済で当たり前のようにドルが使われている限り、ドルの「法外な特権」は維持され、それは米国の繁栄に貢献することでしょう。
こんにちは。
>貿易決済で当たり前のようにドルが使われている限り
私も、石油の取引価格が米ドル表記が続いている間は、米ドル安泰と思っています。
そもそも、「石油の取引価格の通貨」が米ドルであるのは、「なぜかと思いつく」人はすごい観察力の人だと思っています。なぜ、ユーロや人民元ではないのかと考え、発想する人。
話はかわって、過去に、南米(ブラジル、アルゼンチンなど)を旅行したときは、旅行先の自国通貨より米ドルがよく好まれました。マスコミがよく米ドルの地位低下をはやし始めた時に、なんか言っていること実際は違うなと思ってました。現地感覚と経済紙(統計分析考察に陥りがち)による感化の違いを見極めるのも、投資感覚を養う上では必要と思いました。
石油取引はまだまだ規模が大きいですから、それがドル建てなのは米国が絶対に守りたいところでしょうね。
イランが一部原油取引をユーロ建てにするという報道を見た記憶が昔あります。
オバマ元大統領はユーロ建て取引も別に否定はしないとサミットで言ってました、確か。
中国も人民元建ての原油先物を上場しました。
ただ、正直言ってこのような単発の策略を重ねてもあまりは意味はありません。影響力が小さすぎます。
ドルの地位は揺るがないと思います。
自国通貨の価値が不安定な南米諸国は、米ドルを積極的に利用していそうですね。
そう言えば、最近ベネズエラが仮想通貨を発行したと聞きました。
日本にいるとあまり感じませんが、経済力が弱い国の国民は自国通貨をあまり信用していない節があります。
日本人は円に対する信頼が厚いこともあって、貯蓄信仰が生まれている面もあると思います。
実際に生の一次情報に触れることは大切ですよね。インドに行ってそれを感じました。