最近のFinancial Pointerさんの記事に面白い一文がありました。引用させてもらいます。
あなたが年次報告書を読むなら、あなたは90%の投資家より頑張ったことになる。年次報告書の脚注まで読むなら、その会社のCEOを含むほぼすべての人より頑張ったことになる。
年次報告書、つまり財務諸表を読むだけで全投資家の上位10%になれると。さらに脚注、つまり注記まで読めばCEOより頑張ったことになるそうです。
さすがに注記を読んだだけでCEOより会社に詳しくなることはあり得ませんw。これはちょっとしたジョークですね。でも「年次報告書を読むだけで他の90%の投資家より頑張ったことになる」というのは一概にジョークとは言えないと思います。これは真実に近いのではないでしょうか。
別に統計データを調べて他の投資家の実態を知っているわけではありませんが、きちんと年次報告書(財務諸表)を読み込んで投資判断している人ってそんなに多くはない気がします。
年次報告書はハリウッド映画みたいなもの。ただし、クソつまらない。
年次報告書、日本における有価証券報告書なんて文字ばっかりで面白みのないお堅い書物です。経理部、監査法人は投資家のために働いているとは言うけれど、俺らが作った有報を読んでくれる人なんてほんの僅かなんだろうな~ってたまに思います。思い過ぎるとモチベーションが下がるので、なるべく考えないようにしています。。
なぜ年次報告書は読んでて面白くないのか。それはファクト(事実)の羅列だからです。しかも無機質な数字が多い。数字アレルギーの人はとても読めたもんじゃないです。数字はもっとも客観性の高い情報です。なので、数字はファクトを表すのに適しています。
ファクトの羅列と言えば新聞が思い浮かびます。新聞って楽しいからというよりは、社会人として仕事、勉強という動機で読み始めることが多いですよね。楽しい!っていう感覚で読む人は少ないと思います。難しい内容も多い。でも、新聞は文字が中心だし、記者や寄稿者の意見も散りばめられています。その点まだ読みやすい。
年次報告書は新聞をさらに読みづらくした感じです。文字ではなく数字が中心だし、ある程度の会計知識がないと理解できないこともあります。
会計士としては残念な思いですが、そんな年次報告書をまじまじと見る人は少ないだろうなと思います。虎の子のマネーを投じるとしても、財務データをしっかり読み込んでいる人は意外と少ないのではないでしょうか。推測ですが。
でも、不確実な投資の世界においてファクトは凄く価値のある情報です。年次報告書に記載されている財務データは超重要です。投資は未来に賭けることですが、当然ながら未来は誰にもわかりません。だから、先ずは過去をしっかり見つめることが重要です。未来はフォーキャストでしかありませんが、過去はファクトです。すでに起こったファクトがめちゃくちゃ正確に記載されているのが年次報告書です。
なぜ「めちゃくちゃ正確」と言えるのかといえば、作成に膨大なリソースを割いているからです。ハリウッド映画の世界では製作費が1億ドルを超えると大規模予算(Big Budget)と呼ばれるそうですが、んなこと言ったら年次報告書もBig Budgetです。
大企業が年次報告書を作るためにかけているコストは半端ないです。会計の専門知識を持つ経理部員の人件費、会計システム導入保守費用、監査コスト。これらを合計すると1億ドルを超える企業もあります。最大手の米国企業になると監査報酬だけで1億ドルクラスになることもあります。
年次報告書はハリウッド映画並みの予算が投じて作られた超大作なんです。ハリウッド映画との違いは、つまらなさ過ぎて誰も近寄らないことですw。こんな社会の日の目を見ないアウトプットに多額のコストをかけてよいのでしょうか。無駄な公共工事と同じではないのか?
いやいや、そんなことはありません。年次報告書には1億ドルのコストをかける価値があるんです。正しいディスクロージャー(情報開示)は資本主義の根幹です。企業の情報開示が信用できなかったら、投資家は怖くて株を買えません。普段意識することは少ないですが、リスクマネーの出し手がいないと株式会社制度は成立しません。どんな企業にも必ず所有者がいます。
正しい情報開示が欠けているマーケットでは、たとえリスクマネーの出し手がいたとしても要求利回りは高くなります。資本コストが上がりPERが下がるということです。高い利回りを提示しないと資本を出してもらえないということ自体が社会的なコストです。健全なディスクロージャーは資本コストを下げることで、社会の厚生を高めています。
多額のコストをかけてでも正しい財務諸表を作る努力をすべき。そういう思想とそれを保護する法律、規制当局があるから、日々トラブルなく株の取引が成立しています。特にアメリカは不正会計などのコンプライアンス問題に厳しいです。粉飾決算をした企業の経営者は牢屋に入れられます。
企業の未来は常に不確実ですが、企業の過去はかなり精度高く記録されています。これほど厳密に過去を記録しているのは上場企業くらいではないでしょうか。それを活かさない手はないです。
研修プロジェクトで米国の某ベンチャーIT企業について調べたことがあります。買収対象にふさわしいかどうか調査するためです。どれだけググっても大した情報は出てきませんでした。資本金と従業員数、経営陣くらいはわかりますが。非上場企業なんてこんなもんです。知りたいと思っても、ほとんど何も知れないです。財務データもほとんど出てきません。売上高くらいです。
ま、それが普通ですね。自社の情報をわざわざ大々的に公表する意味はないわけで。
それに対して上場企業は、信じられないくらい膨大かつ詳細な情報を年次報告書で開示しています。PwCやデロイトの監査を受けた財務データ、注記情報は信頼に値します。
そういった企業の過去のビジネスに関する財務データは絶対に見た方がいいです。見る価値があります。淡々と並んでいる数字ですが、その製作予算はBigです。Bigな予算を投じて正確性が担保されています。
ネットを使えば簡単にハリウッド映画並みの超大作である年次報告書を自由に「鑑賞」できます。
「米国株銘柄分析」などを利用して、上位10%の投資家になってください
優良株のバイ&ホールドはきちんとファクトを確認するだけで、そこそこ成功できる投資スタイルだと思います。優良企業の株を握り締め続ければいいわけです。優良企業か否かはファクトつまり過去の財務データで見極めることができます。
マイクロソフトが優良企業であることは、同社の財務データを見れば一目瞭然です。私はITに疎くてマイクロソフトのビジネスについて理解していないことがたくさんありますが、同社が優良企業だということは断言できます。なぜなら、過去の財務データがあまりに素晴らしいからです。仕事で日本企業の財務データを見てきたから余計に感じることですが、米国の一流企業の収益性の高さは日本のそれとは比べものにならないです。
未来は過去の延長とは限らないから未来を予想することも大事だけど、それはネクスト・ステップ。先ずは不確実な未来をあーだこーだ想像する前に、正確な過去の実績を確認した方がいいでしょう。過去10年、20年と高い利益率を維持して、増配を続けてこれた企業はこれからの10年もそうである蓋然性があります。
米国株銘柄分析というカテゴリーを設けています。主要な米国企業の要約財務データをグラフで掲載しています。自分で年次報告書を見るのが面倒でも、投資する前にはここで投資しようと思っている企業の財務データを確認して欲しいです。
「米国株銘柄分析」の記事には超貴重な情報が詰まっています。私の記事が貴重なのではなく、記事のデータソースである企業の公表財務データが貴重という意味です。
過去10年の財務データを確認するだけで上位10%の投資家になれます。ぜひ見て下さい。今時色んなサイトがありますから、別に私の記事でなくとも企業の財務データを閲覧することはできます。
注記を見ればCEOより頑張ったことになるそうですがw、私は最近セグメント情報を記事に記載しています。数多くある注記の一部に過ぎませんが、個人的に真っ先に確認する注記がセグメント情報です。企業が何を売って儲けているかがよく分かるからです。
財務諸表というのは、労働者や経営者から株主へ経営リスクを移転させ、または対価を送金するための橋の役割を果たしているのかもしれないですね。
橋が無いと労働者も経営者も行き詰まり、株主もジリ貧になってしまう。
渡るべき橋かどうかを知るために有価証券報告書があるわけなんだなと思いました。
財務諸表は株主と経営者を繋ぐものですよね。
特に現代の大企業は不特定多数の株主に分散しており、株主が一致団結して経営者を監視するのは無理です。
法律が厳しく正確なディスクロージャーを要求して、違反した場合は罰則を設けることで市場に透明性が生まれます。
一部例外を除いて株主と経営者は全く知り合いでもないのに、ここまでガバナンスが効くのは冷静に考えて凄いことだと思います。
ヒロさん、こんにちは。
ヒロさんが昔勧められていた会計の超初心者向けの本なんか読んでいますが、
やっぱり10Kや10Qは中々ハードルが高いです><
それよりも私は株主へのレターが好きですね。
ただでさえ会計素人の私が、バークシャーの10Kに手をつけようものなら軽く呼吸困難を起こしてしまいますが、
バフェットさんから「幸いにして、バークシャーを知る上で枝葉は気にせずとも結構。根幹をなす5つの柱についてよく見てもらいたい。」
と言われると、ついバークシャーに一生ついていきましゅううううう!
となってしまいます。
ついつい数字の世界から目をそらし、CEOが語るビジョンや言葉、
もっと俗物的な短期の株価や配当やらニュースについつい釣られがちな残念投資家な私ですが、
これからも数字の世界の魅力を沢山知りたいですし、知らなければならないと思っているので、
ヒロさんのブログとても楽しみにしています。
こんばんは。
10Kはハードル高いですね。
私もすべては読んでいないし、読んでも理解できない注記はあります。
バフェットの株主へのレターも10Kと負けず劣らずで難解な文章もあります。
「バフェットからの手紙」は投資本の中で最高難度だと思います。
ただ、10kほどの堅苦しさはなく、株主を想うバフェットの温かみを感じるところが好きです。誠実さです。
バークシャーいいですね。
最近、モーニングスター社がバークシャーは割安だと言っていましたよ。
バランスですかね。
ビジョンを聞いて会社に魅力を感じるのは投資家、従業員として普通の感情だと思います。
ただ上っ面だけじゃなくて、本当に中身を伴っているのか冷静に数字で確認することも必要です。
長期投資に限って言えば、数字にこだわる方がリターンに結び付きやすいです。
こんばんはhiroさん。
財務表といえば気になることがあるんですが、決算表の数値以外の部分は誰が書いているんですか?
数値の部分は会計士の方が頑張って算出しているのだろうと思っていますが(いつもご苦労様です)
その他の10kでいえば、例えばリスク要因でしたり競合、各セクターの説明や展望なんかです。
やはり株主総会に出るクラスの人たちが直々に文言を決めているのでしょうか。
こんばんは。
財務諸表パート以外は、広報や経営企画が文章を考えていますよ。
経理部も一緒に文章を考える時もありますが。
CEOが文章を考えることはほぼないです。
10K(日本の有報)よりも、決算説明会で使うIR資料の方に力を入れます。
そこはCEOも色々と要求してきます。
10Kはもちろん重要資料ですが、アナリストや投資家へのメッセージという意味では決算説明のIR資料の方が重要性が高く、こちらにリソースを割きます。
10Kなどの法定書類はどの会社も大抵同じですが、決算説明資料は会社によってかなり差があります。
IRに力を入れている会社の資料はとても見やすくて投資家フレンドリーです。花王とかソニーとか。
ちょっと話が逸れてしまいすみません。