成熟企業スタンダード・オイルのトータルリターンは、成長企業IBMより高かった
ジェレミー・シーゲル氏は『株式投資の未来』という著書の中で、1950年~2003年までの以下2つの銘柄のリターンを比較検証しました。
・IBM
・スタンダード・オイル
売上成長率、配当(DPS)成長率、利益(EPS)成長率、すべてIBMが上でした。実際に株価上昇率もIBMの方が上回りました。IBMの株価上昇率は年率11.4%だったのに対して、スタンダード・オイルのそれは8.8%にとどまりました。
しかし、株価上昇率はIBMの方が上だったにもかかわらず、配当を加味したトータルリターンはスタンダード・オイルの方が勝りました。1950年~2003年のIBMのトータルリターンが13.8%だったのに対して、スタンダード・オイルは14.4%でした。
株価上昇率で劣るスタンダード・オイルのトータルリターンが勝ったのは配当のおかげでした。IBMの平均配当利回りは2.2%で、スタンダード・オイルの利回りは5.2%もありました。当時S&P500平均の配当利回りが4%近くあったことを考えれば、IBMの利回りはかなり低いと言えます。今でいうところのビザやマスターカードの利回り程度でしょうか(両者とも1%未満)。
短期的に見れば投資リターンは株価上昇率に依存しますが、長期で見ればそうとも言い切れません。もちろん、株価上昇率も大事なのですが長期では配当が効いてきます。配当再投資によって持株数を増やすことができれば、たとえ株価上昇率が低くともトータルリターンは大きくなる可能性があります。
株式投資の長期的リターンは、企業の増益率そのものではなく、実際の増益率が投資家の期待に対してどうだったかで決まる。
(中略)
IBMの株価は常に高かった。一方、スタンダード・オイルでは、投資家の増益期待はきわめて控え目だった。したがって、スタンダード・オイルの株価は常に低く、投資家は配当の再投資を繰り返すことで、保有株を積み上げていった。保有株数が上回った分だけ、スタンダード・オイルのリターンはIBMを上回った。
ジェレミー・シーゲル『株式投資の未来』より抜粋
IBMのリターンも十分過ぎるくらい高かったという事実
この検証によるシーゲル氏のメッセージは、投資家期待が低い銘柄に投資チャンスがあるということです。マーケットが期待していない銘柄は株価が割安に放置されている傾向にあり、その結果配当利回りが高くなって配当再投資によって効率的に株数を増やせるというものです。
「株式時価=株価×株数」なわけですが、どういうわけか皆左側の株価にしか注目しません。もっと、株数にこだわるべきということでしょう。
投資家期待が低い銘柄、マーケットが悲観的になっている銘柄、確かにこれらの銘柄の投資することで大きなα(アルファ)をゲットできるチャンスがあります。
しかし、投資家期待が低いことを侮ってもいけないと思います。マーケットは馬鹿じゃありません。PERが低い、配当利回りが高いということは将来の利益成長期待が低いことを意味しますが、これらの低バリュエーション銘柄が大きな利益をプレゼントしてくれるのは、あくまでも期待に反して利益成長できた場合だけです。マーケットの低い期待通り、実際の利益成長幅も小さければ投資リターンは大きくなりません。せいぜい市場平均程度でしょう。
冒頭に紹介したシーゲル氏の調査から、「悲観的な銘柄に積極的に投資すべきだ!」と捉える向きも当然あると思いますが、一方で「素直に優良株に投資すればいいんだな!」と捉えることも可能かと思います。
1950年~2003年のスタンダード・オイルのトータルリターンは年率14.4%と確かに素晴らしいものでした。しかし、IBMだって負けていません。IBMの同期間のリターンは年率13.8%です。その差は年率0.6%です。
まあ、投資期間が50年もあれば0.6%の差がリターンの絶対額に響くのは事実です。たとえば、100万円を50年間複利運用する時、年率リターンが14.4%なら50年後には8.3億円で、13.8%なら6.4億円です。
たった0.6%の差でも最終リターンには約2億円もの差が出ます。複利の凄さを実感します。
が、確かに0.6%のリターン差は小さいとは言えませんが、どちらも優秀なリターンですよね。1950年~2003年までのS&P500平均のトータルリターンは年率11.4%です。11.4%で100万円を50年複利運用したら2.2億円です。
●100万円を50年間複利運用した結果
年率トータルリターン | 50年後の時価 | |
IBM | 13.8% | 6.4億円 |
スタンダード・オイル | 14.4% | 8.3億円 |
S&P500 | 11.4% | 2.2億円 |
↑
確かにスタンダード・オイルは凄いけど、IBMだって市場平均の3倍近いリターン(絶対額で)ですよ。
シーゲル氏は「IBMの株価は常に高かった」と言っていますが、それはちょっと語弊があると思います。IBMの成長性を鑑みれば、IBMですら株価は割安だったと言えるでしょう。だからこそ、IBMは配当再投資後で(少ない配当とは言え)市場平均を超えるリターンをもたらしました。
素直に優良株を選んだ方が安心じゃない?
これから30年、50年運用続けていく私たちは、20世紀後半のIBMとスタンダード・オイルどちらの銘柄の現代版を探すべきなのでしょうか?
そりゃ、21世紀版スタンダード・オイルがどの銘柄か分かれば苦労しないです。もっと言えば、21世紀版フィリップモリスが分かれば超ハッピーです(フィリップモリスは20世紀後半、もっともトータルリターンが高かった銘柄です)。
しかし、当たり前ですが未来は分かりません。
2014年から原油価格が急落してエネルギー関連銘柄の株価が暴落しました。最近持ち直してきましたが、今後どうなるか予断はできません。ここ2~3年のエネルギー株は「投資家期待が低い」という部類に属すると思います。
じゃあ、投資家期待が低いこれらエネルギー株に投資すれば市場平均を超えるαを稼げるのかと言えば、それは分かりません。今の低い投資家期待を超える実際のEPS成長を実現できるか否かに掛かっています。
長期投資ってやり直しがききません。そこは長期投資の欠点です。人生なんでもトライ&エラーで検証しながら試した方がうまくいくことが多いもんですが、長期投資はそうはいきません。一回の結果測定に30年掛かるというのに、何度も何度もやり直すことなんてできません。
だから、なるべく安パイな判断をした方がいいんじゃないかな~と思うわけです。
多少割高に見えても、きちんとキャッシュを稼げている優良株は相応のリターンを株主にもたらしてくれるもんです。もちろん、買値は常に大事です。どんな優良株も明らかな高値で買ってしまったらリターンは市場平均を下回ります。
「21世紀版スタンダード・オイル」を探すのもいいですが、「21世紀版IBM」でも十分ではないでしょうか?
「21世紀版IBM」の具体的銘柄を独断で言っちゃえば、マイクロソフト(MSFT)とかジョンソン&ジョンソン(JNJ)とかスリーエム(MMM)とかビザ(V)とかですかね。これらの銘柄は収益力が抜群に高くかつ安定していて、なかなか株価が下がりません。とてもじゃないですが、マーケットが悲観している銘柄とは言えません。しかし、私はこれらの銘柄は長期ではS&P500平均を超えるだろうと思ってます。
Hiroさん、こんばんは。
「21世紀版IBM」、私は結局はアップルかなと思っていますんで、購入の検討をしています。
Googleも「21世紀版IBM」だとは思いますが、流石に無配だと購入をしようとは思わないですね・・・
ケーレスさん、こんばんは。
確かにアップルこそ、例示に出すべき銘柄でしたね。
配当利回りはS&P500平均をやや下回りますが、キャッシュ創出力は素晴らしいですね。
2500億ドル近い海外資金の恩恵も楽しみなところです。
グーグルとアマゾンは将来有望でしょうね。
グーグルはアマゾンほどのバリュエーションではなく、まだ安心感持って買えます。
ただ私も無配株には手が出ません。
おはようございます
21世紀のIBMが何なのか、今のところはっきりと分かりません。
ただ、スタンダード・オイルもIBMも「知らないうちに普段気づきにくいところで生活に溶け込んでいる」製品を作っているところは共通してるようなので、そのあたりにヒントがありそうです。
今後、あらゆる家電製品がインターネットに繋がるようになることを考えるとアナログ半導体関連企業(TXNとか)あたりが考えられそうですが、将来は誰にも分からないので引き続きウォッチしていきたいと思います。
こんばんは。
そうですね、BtoBのビジネスには普段の私たちの生活には直接関連していないように見えて、実は大きな貢献をしている企業が日本でもたくさんあります。
企業向け販売は値崩れしにくいのも特徴です。
IoTはホットなネタですよね。
2030年にはインターネットに繋がったものの数が700億台にまでなるそうです。
半導体産業と言えばどちらかと言えば景気循環銘柄でしたが、今後は景気安定銘柄になっていくのかもしれません。
勉強がてら、半導体銘柄の勉強もして出来れば記事化してみたいと思います。
IoT時代はセキュリティーがとても大切ですよね。
その観点で投資先を探すのも面白いかもしれません。