米中央銀行FRBは米国内の「物価の安定(Stable prices)」を使命としています。「物価の安定」と言っても、それは物価が変わらず横ばいであることを意味しているわけではありません。マイルドなインフレを目指しています。FRBは2012年からインフレ目標を設定していて、現在は年率2%のインフレを目安に金融政策をコントロールしています。

2%って聞くと大した上昇に感じないかもしれませんが、ここでも複利の力は凄いですよ。10,000円の商品が年率2%で値上がり続けたら、
10年後には12,190円
20年後には14,859円
30年後には18,114円
40年後には22,080円
50年後には26,916円
となります。

50年かけて物価は2.6倍になります。物価が上昇するということは、イコール通貨価値が下落することを意味します。現金を50年間放置してしまったら、こんなに価値が減価してしまいます。年率2%の物価上昇って決して小さな影響ではありません。FRBはこうやって、意図的に現金の購買力を奪い取ることを明言しています。

なぜ、そんなことする必要があるのでしょうか?
どうして、FRBは米国民の現金を毎年2%減価させようとするのでしょうか?

それは、所詮通貨は通貨でしかないからです。経済運営上もっとも都合のいい減価率になるよう操作しているだけです。通貨は自然発生的に存在しているものではなく、人類が必要に迫られて創り出した社会的人工物です。人工物だからこそ、その価値は人の意思で操作できるものです。ただし、現代は経済規模が莫大でお金の流れも複雑なので、そんな簡単にFRBの意図通り操作できるわけじゃありませんが。

 

お金は程よく腐らせないとダメ

お金って何でしょうか?
あなたの財布に入っている1万円札って何でしょうか?

お金それ自体は単なる紙切れでしかありません。通貨や紙幣は社会になくてはならないものですが、それ自体に価値があるわけではありません。基軸通貨ドルもユーロもビットコインも、何であれ通貨そのものに経済的価値はありません。

お金は売り手と買い手を媒介する仲介役でしかありません。主役は商品であって、お金は商品を売り手から買い手に引き渡すための仲人です。お金が生まれたおかげで経済は効率的になりました。貨幣がない物々交換の時代は、AさんとBさんのニーズが完全にマッチしないと取引は成立しませんでした。魚と肉を交換したいのなら、それぞれが魚と肉を持ち合わせている必要があります。

しかし、貨幣が生まれることで必ずしもお互いが魚と肉を持ち合わせていなくても取引を成立させることができます。Aさんは魚を引き渡す代わりに肉が欲しいけれど、Bさんは肉を持っていません。そんな時、Bさんは肉の変わりにAさんにお金を渡せばOKということになりました。AさんはBさんからもらったお金で肉を誰かから貰うことができれば(購入できれば)一件落着です。

お金、貨幣とは魚と肉を繋ぐ媒介でしかありません。価値があるのは栄養価のある魚と肉であって、お金には何の価値もありません。

お金に価値はないとばかり言って、お金のことをDisっているように聞こえるかもしれませんが、お金の存在意義は大きいです。お金、貨幣の存在なくしてここまで資本主義経済が発展することはなかったでしょう。

お金のおかげで社会の資源は効率的に配分されるようになりました。Bさんは肉を持ち合わせていなかったけど、お金を渡すことでAさんから魚を手に入れることができました。おかげでその夜Bさんは美味しい焼き魚と一緒に焼酎でほろ酔い気分を味わうことができました。もしお金がなかったら、Bさんは魚を手に入れることができませんでした。お金のおかげでBさんは素敵な晩酌を楽しむことができました。

お金の存在は偉大です。
お金という潤滑油なくして経済の歯車は回りません。お金がなかったら、歯車は全くかみ合わずにガッシャんガッシャん悲鳴を上げて壊れてしまうことでしょう。

お金のおかげで、私たちは豊かな生活を送れています。

お金には良い面ばかりではなく、悪い面もあります。やはりどの世界にも完璧なモノ事ってないですね。長所があれば短所もあるものです。お金も例外ではありません。

お金の短所とは腐らずに貯蓄できることです。

「きちんと貯金しなさい」ってあなたも親に言われたことあると思います。真面目に貯金しているような人は結婚相手としても魅力的に思われるかもしれませんね。でも、貯金ってよくよく考えたら変なもんです。お金ってもともとは、魚と肉の交換触媒でしかありませんでした。魚と肉を交換するために、一時的に間に入るのがお金の役割です。あくまでも一時的な価値の避難場所がお金だったはずです。

AさんはBさんに魚を提供するという価値を提供しました。その見返りとして肉をもらうという価値の提供を受けるはずでした。でもBさんが「今は肉を持ってないゴメンよ」って言うもんだから、とりあえずお金をもらうことで我慢したわけです。Aさんは本当は肉が欲しかったけど、嫌々お金で我慢したわけです。「ホントは肉が欲しかったんだけど、Bの奴が今、肉を切らしてるって言うから今日のところはとりあえずお金で勘弁してやったよ。」って感じでしょうか。

Aさんにとってお金なんて要らないのです。お金を煮込んでも美味しいビーフシチューは出来ませんから。お金は、Bさんに魚を提供したという価値が一時的に保存されているだけです。その価値をどこかで放出して肉を買わないと、Aさんは頑張って漁に出て魚を取ってBさんに渡した意味がありません。

お金は価値の一時保存倉庫です。

お金はテンポラルな保管倉庫だったはずなのに、段々とお金を半永久的に蓄える人が出てくるようになりました。「貯金」の始まりです。お金は肉と違って腐らないという特徴があるので、それを利用してとことんお金を蓄えようとする人が出てくるようになりました。

それがいけないことでした。これがお金を創り出したことの大きな弊害となりました。

別にお金を蓄えるのは本人の自由ではあります。きちんと魚を捕まえて客に売るという正当なビジネスをやっている以上、その対価として得たお金をシコシコ蓄えるのは本人の自由であって誰も文句は言えません。しかし、、やはりそれは健全なことではありません。貯金するって、言わば「無償の奉仕活動」です。だって、何も対価を貰わずに自分が一方的に価値提供をしているわけですから。

命の危険を顧みず漁に出て魚を捕まえて、それを市場で売るという行為は経済的な付加価値がある行為です。でも、その対価としてお金だけもらってそのお金を使わないのであれば、実質的には無償の仕事ということになります。お金を貰っているのだから無償じゃないと思うかもしれませんが、そのお金を使わないで蓄えるだけだとしたら、もはや対価はないに等しいですよね。お金そのものを持っていても何も意味はないわけですから。

やはり、これは経済を停滞させます。お金は一時的に仕事の価値を保存のために存在するものであって、それを蓄えてしまうと、経済に不均衡が生じます。お金を求めて仕事をしたい人にお金が回りません。

僕もいくらか貯金がある身ですし強く言えたことではありませんが、貯金はマクロ経済的には完全に悪です。各個人としては経済合理的な行動かもしれませんが、経済全体で見れば貯金ほど悪しき行為はありません。

「貯金」とは必要悪です。経済発展のためにお金の存在は必要不可欠ですが、お金の腐らないという性質のために人々がお金を蓄えると、経済がむしろ停滞するリスクが出てきます。

 

FRBは2%ずつお金を腐らせるのが経済運営上、丁度いいと判断している

FRBはどこかで落とし所を見つけたいと考えました。人々がお金の価値を信じてくれてお金が経済に使われること、人々がお金を程よく手放してくれること、この二つがどちらも成立する均衡点をFRBは求めています。シーソーがうまくバランスする支点を探っています。それが2%というインフレターゲットです。

2%がどれだけ正しいかわかりませんが、FRBは2%程度の割合でお金を意図的に腐らせるくらいが丁度いいと考えています。2%程度の減価率であれば、ドル紙幣に対する信頼は消えないだろう。また、年率2%でドル紙幣が減価しちゃうなら(2%物価が上がるなら)、国民がお金はなるべく早めに使おうとも思ってくれるだろう。FRBはこのように考えて2%というインフレ目標を掲げています。

インフレを起こすとは意図的にお金を腐らせることを意味します。少しずつ腐った方がいいんです。上述しましたが、年率2%の物価上昇でも50年経てば2.6倍になりますから。これくらいのペースでお金を腐らせることによって、人々のカネ離れを促進したいとFRBは考えています。

マイルドなインフレ(=少しずつお金を腐らせること)は経済運営にとって極めて大切であって、だからこそFRBの使命の一つにもなっています。デフレがいかに最悪なのかがわかりますよね。デフレは現金の価値が勝手に上がる現象です。そうなれば、人々は益々、価値の一時保存先だったはずのお金を積極的に蓄えようとしちゃいます。FRBはデフレが米国経済にとって最悪なのをよーく理解しています。デフレになるくらいなら、行き過ぎたインフレが起こる方がまだマシです。

2018年1月24日現在、米国債10年利回りは2.66%と3年ぶりの高水準です。これは米国経済が将来デフレに陥るリスクが小さいとマーケットが判断している証です。債券利回り上昇は株式に(短期的には)悪影響なのは事実ですが、マイルドなインフレ予想に基づく適度な長期金利の上昇は、株式投資家にとっても喜ばしいニュースです。