投資詐欺で有名な話。

ある証券マンが100人の個人投資家に対して、50人には「A株の株価は必ず上がる」と主張し、別の50人には「A株の株価は必ず下がる」と主張する。
翌日、A株は上昇した。

そして、A株の株価が上がると伝えた50人対して、うち25人には再び「A株は上がる」と主張し、別の25人には「A株は下がる」と伝える。
翌日、A株は上昇した。

2回連続証券マンの予言が当たった25人の投資家がだんだんその証券マンを信頼し始める。

証券マンは同じこと続けます。
25人のうち、13人には「A株はまた上がる」と主張し、残りの12人には「A株は次は下がる」と予言する。
翌日、A株は下落した。

さあ、12人に絞られました。
さらに証券マンは続けます。
12人のうち、6人には「A株は上がる」と主張し、残りの6人に「A株は続落する」と主張する。
翌日、A株は続落した。

6人の個人投資家には証券マンが神に見えつつあるかもしれません。
証券マンはとどめを刺します。
6人のうち、3人に「A株は次は上がる」と主張し、残りの3人に「A株はさらに下落する」と主張する。
翌日。A株は上昇した。

証券マンは適当に予言し続けただけですが、不幸にも偶然「正解」を授けられた3人の個人投資家はこの証券マンを完全に信頼してしまいます。
無理もありません、多くの外資証券のトレーダーが跋扈する戦場であるマーケットで5日間連続で相場を読める人がいるでしょうか?

証券マンは3人の個人投資家に電話します。
「私に1,000万円預けて頂けませんか? 必ず1年で2倍の2,000万円にしてお返し致します。」
3人は迷わず、指定された口座に1,000万円振り込みました。
証券マンは3,000万円を持って姿をくらませました。

生存バイアスという言葉があります。
運よく生存したもののみを基準に物事を判断してしまい、誤った判断を下してしまうこと。

3人の個人投資家は自分たちが生存バイアスに陥った3/100だとは夢にも思わないでしょう。

「FXで3億円儲けた私の成功術」的な本もよく見かけますが、これも典型的な生存バイアス。
成功者の裏には多くの死体がうず高く積まれています。

証券会社が投資信託のパフォーマンスの良さを顧客へアピールするときも、パフォーマンスが悪く清算されてしまったファンドの成績は除外されています。
偶然生き残ったパフォーマンスの良いファンドだけで過去の実績を算定しています。

ちょっと金融リテラシーがあれば騙されそうにないですが、世の中には思った以上に世間知らずの不勉強情弱な方がいらっしゃるようで、毎年一定数詐欺被害者が出ます。
安愚楽牧場詐欺みたいなねずみ講も5年に1回くらいの割合で発生している気がします。
円天とかもありましたね。

  10%~15%のリターンで上出来

「1年で100万円を1億円にした私の成長株投資術」的な話題も生存バイアスです、言うまでもなく。
偶然ガンホー株を買ったら大当たりした、という話を身近で聞いたことがあります。
そういう人の投資法に再現性はなく、継続して投資で成功できるノウハウもスキルもありません。

恐らくそれは本人も出版社も内心わかっています。
でも出版したら売れるから出版するだけです。
そんな駄本に金を払う消費者が悪いとも言えます。

S&P500は1957年から2003年までの約50年間で、年率10.8%のリターンでした。
個人投資家はこの年率10%程というリターンに十分満足すべきです。
より厳選した優良バリュー銘柄に投資し続ければ、年率13%~15%程度まで狙える可能性がありますが、普通のインデックス投資家は年率10%は十分ハイリターンです。

ハワード・マークスという方をご存知でしょうか?
ペンシルベニア大学ウォートン・スクールご出身でオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長兼共同創業者。オークツリー・キャピタル・マネジメントは800億ドル以上の資産を運用している投資会社です。

彼の『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』はあのウォーレン・バフェットがバークシャー・ハサウェイの株主総会で株主全員に配布した書籍として有名です。

投資で一番大切な20の教え

 

先週土曜日の日経新聞にハワード・マークス氏のコラムが掲載されていまいた。
個人投資家にとって非常に為になる文章だったので紹介したいと思います。
要点を抜粋します。

株式投資はパチンコのようなギャンブルではない。
趣味ではなく、真剣な利益の追求だ。明日や来週の株価を当てようとしていては、株式市場では成功できない。

成功する唯一の方法は、価値ある企業に長期にわたって投資することだ。

相場で人間の心理や感情が短期的に及ぼす作用を理解し、短期の動きを無視することが求められる。

アマチュアにとってベストな投資方法は、価値のある企業を見つけて、その株を買うことだ。その会社の事業についてある程度のことは知っておかなくてはならないし、業績の見通しが良好であることも確認する必要がある。PERなどのバリュエーションやリスク特性が極端でなものでないかどうかを判断することも欠かせない。そして、その株を長期にわたって保有することだ。

もうひとつ大事なことがある。適度なリターンを期待することだ。株式投資で年率10%~15%のリターンを得られれば上出来だ。80%や200%といったリターンを得た人を紹介する記事を目にするが、それは幸運を得たギャンブラーにすぎない。アマチュアは適度なリターンを期待する長期投資家でなければならない。

(日本経済新聞 2016年6月25日 22面より)

バフェットと同じことを言っています。

優良企業の株を良好なバリュエーション(ほどほどの価格)で買い、長期で保有する。
これが個人投資家の王道であり、地味ではあるが最強の投資法です。

地味でつまらない、根気のいる投資法です。
途中でぐんぐん株価を伸ばしているアマゾンやフェイスブックに乗り換えたくなる気持ちをぐっと抑えて、とにかく長期保有と配当再投資です。

この我慢代は将来大きな果実に成長して、あなたに豊かな未来をもたらします。