サウジアラムコの配当利回りはエクソンなど欧米石油メジャーより低い

サウジアラムコがサウジ国内リヤド証券取引所で上場しました。取引初日に10%近く値を上げ、時価総額はサルマン皇太子が目標にしていた2兆ドルに達しました。が、アラムコは事業で得た資金をサウジの内政に回すリスクがあるので、仮にニューヨークや東京で上場したとして、同じくらいの評価額が付くかどうかは疑わしいところです。

IPOを控えていた頃、アラムコの適性な評価額はいくらなのかが当然論点になりました。それによってIPOでいくら資金を調達できるかが決まります。サウジ政府としては当然高い値段で株を売りたいけど、投資家の需要がなければ意味がありません。1兆ドル~2兆ドルというかなり広いレンジで議論がなされました。

アラムコのIPO価格を検討するにあたって、競合の配当利回りとの比較も重視されていました。というのも、サウジ政府をバックに持つアラムコ株は、デフォルトリスクがほぼゼロの国債のような性質を持つ金融商品と認識されており、インカムを求める投資家が多かったからです。

評価額に応じてアラムコの配当利回りは以下のようになります(ソースはWSJ)。
2.0兆ドル:3.8%
1.5兆ドル:5.0%
1.0兆ドル:7.5%

もちろん、時価総額が小さいほど(株価が下がるほど)配当利回りは高くなります。エクソンやシェルの利回りは5%~6%台となかなか高利回りです。利回りで欧米石油メジャーに匹敵するためには、アラムコの時価総額は1.5兆ドルを下回る必要がありました。2兆ドルとなると利回りは4%を割ってしまい、投資資金が集まらないのではと懸念されていました。

結果として国内上場とは言えアラムコは2兆ドルの評価を得ることができました。投資家はエクソンなど他の石油メジャーより低い配当でも構わないと判断したようです。

配当利回りでバリュエーションの議論はしない方がいい。PERを見よう。

と、このような利回り比較の議論は一見合理的に聞こえるかもしれませんが、配当利回りで株式のバリュエーションを判断するのはあまり褒められたことではありません。なぜなら、配当は企業の実力とは関係なく経営者の意図で増減させることができるからです。

100の利益のうち70を配当に回すのか、30だけにするのか、それとも無配にするのか、それは経営者の裁量次第です。いや、利益処分は株主総会決議事項だから正確には株主自身が決めていると言えます。しかし、総会は形式的で実質的には企業の経営陣が配当総額を決めています。

当たり前ですが、配当を30にするより70にした方が配当利回りは高くなります。では、そうやってたくさん配当を出して利回りが高くなっている企業は割安と言えるのでしょうか。

まさか、、んなわけはありません。配当利回りは株式の割安割高を判断する上で有益な指標ではありません。見るべきは配当ではなく利益。株価に対する利益(EPS)の比率。つまり益回り、PERです。

現在、エクソンモービルの配当利回り5.0%で同じく米石油メジャーのシェブロンの配当利回りは4.0%です。利回りが高いエクソンの方が割安とは言えません。PERを見るべきです。2020年予想EPSに基づくエクソンのPERは19.5倍(益回り5.1%)、シェブロンのPERは17.1倍(益回り5.8%)です。PERが低いシェブロンの方が割安と見るのが一般的です。

  配当利回り 益回り(PER)
エクソン 5.0% 5.1%(19.5)
シェブロン 4.0% 5.8%(17.1)


配当利回りではなく、益回りの高さ(PERの低さ)からシェブロンの方が割安と見るべき。

益回り(PER)を見ましょう。益回りが高い方が(PERが低い方が)お買い得と言えます。もちろん、表面的な益回りの高低で株価の妥当性を判断できるほど投資は単純ではありません。しかし、バリュエーションの基本は益回り(PER)で判断すべきです。理論株価とは将来利益の割引現在価値の合計です。株価と利益の関係である益回り(PER)を見るのが基本。経営者の恣意性が介入する配当利回りを気にしてもしゃーないです。

ダウの犬投資戦略というものがあります。NYダウ構成銘柄の中から年初時点で配当利回りが高い10銘柄に投資するというものです。ちなみに、2019年の「犬」はIBM、エクソンモービル、ベライゾン、シェブロン、ファイザー、コカ・コーラ、JPモルガンチェース、シスコシステムズ、メルクでした。

アップルはダウの犬に選出されませんでしたが今年絶好調です。IBMやエクソンはまだ低迷していますね。だから言うわけじゃありませんが、配当利回りが高い銘柄に飛びついて上手くいくわけではありません。

ダウの犬戦略は実はこれまで良い成績を残しているのですが、それは理論的には説明しづらい現象です。

配当利回りを見る価値は全くないかと言えば、そんなわけでもないです。米国企業の経営者は配当は持続的に増やさねばならないという株主の圧力を受けています。たくさんの配当を払っている企業は、増配を続けるために過剰な資本投資を控える傾向にあり、それが結果として株主利益を守ることになります。

が、ことバリュエーション判断という点においては、やはり配当利回りは見る価値なしと断じたいです。益回り、PERを見ましょう。

まあ、配当というのは好き嫌いで決めて良いところかなと思います。インカムが欲しいなら高利回りの銘柄を買えばいいし、インカムなしでも問題ないなら低利回りや無配株でも気にせず買えばいいです。無配でも構わないならアルファベット(GOOGL)なんて投資妙味あると思います。あれだけ売上成長を続けていながらPERは25倍(益回り4%)です。超優良グロース株です。