ヘルスケアセクター(製薬、医療機器)ってM&Aが活発ですよね。特に製薬。ブロックバスター開発のための巨額資金、開発期間の長期化、既存医薬品の特許切れなどが業界再編を促しています。
最近だと、武田薬品工業がシャイアーを買収しましたよね。買収額は7兆円にもなります。
後は、米ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMY)が米セルジーン(CELG)を買収するというビッグディールも最近報道されていました。買収額は約8兆円に上るとも言われます。買収発表後、BMYの株価は15%以上も暴落し、CELGの株価は一時30%以上も上昇しました。
買収発表後に買収会社の株価が下がるのはよくあることです。プレミアムを払って買収するケースが大半なわけですが、マーケットが「それは高値掴みだろ!」、「リスクが高い投資だな・・」とビビッてしまうからです。BMYは50%以上のプレミアムをCELG株主に提示しています。
買収会社であるBMYの株価が下がるということは、マーケットがBMYの買収対価が妥当なのか、また今後の統合が上手くいくのか不安視しているということ。でも、だからって買収金額が高過ぎると断定はできません。もしかしたら安いくらいかも。答えは今すぐにはわかりません。M&Aの成否は10年、20年経ってから明らかになります。
うちの会社もM&Aが多いのですが、昔CFOがこんなこと言ってたのを覚えています。「買収金額が高く見えるのは当然のこと。多額ののれんが出るのは仕方ない。相手のある話だから。売り手が納得する値段でしか我々は買えないのだから、買値は安くはならない。M&Aを実施した背景、今後の展望、買収金額の妥当性を経理として誠実にマーケットに説明しなくてはならない。」
そりゃそうだよなって聞いてて思いました。
企業買収はスーパーでお菓子を買うのとは訳が違います。森永ハイチュウはコンビニにも薬局にもスーパーにも同じ物がたくさん売っていますが、企業というのはこの世に二つとない唯一無二の存在です。企業はコモディティとは対極にあります。その上、優良企業だからこそ買収対象になるわけですから、それなりのプレミアムを払わないと買えないのは当然と言えます。相手株主がベンチャーキャピタルとかだと、余計に安値では売ってくれない印象です。
買収会社の株主が得するのか、被買収会社の株主が得をするのか、それはわかりません。M&Aの成果は短期で測れるもんじゃありません。日本会計基準では「のれん」の償却年数は最大20年です。
そういう事情を踏まえると、ヘルスケアセクターへの投資はETFを使った方が安心かな~と思う時があります。
ETFを使って主要なヘルスケア銘柄に丸っと投資していれば、ヘルスケア企業同士のM&Aならば、買収がもたらす株主間の富の移転を相殺することができます。もっと感覚的に言えば、買収企業の株価下落と被買収企業の株価上昇が相殺されるので、M&AはETFの価値には中立ということです。
ヘルスケアセクターETFであるXLVにはBMYが2.4%、CELGが1.8%含まれています。XLVに投資していれば、仮にBMYの買値が高過ぎても問題ありません。なぜなら、XLV保有者はBMY株主であると同時にCELG株主でもあるからです。自分から自分にお金を渡すイメージです。そして、BMYとCELGが統合することによるコスト削減効果や開発投資の効率化といった恩恵は、しっかり受けることができます。
そう言えば、この記事を書いている1月15日のバロンズにBMYのCELG買収に関する記事が載ってました。バロンズによればBMYは現在割安とのこと。記事を読んでてビビったのが、なんとファイザー(PFE)やアッヴィ(ABBV)、アムジェン(AMGN)などがブリストルを買収する可能性もあるらしいんです。私はPFEとABBVの株主です。
BMYを買収するとしたら、一体いくらの金が必要なんだろか・・。ほんまにそんなデッカイM&Aをファイザーやアッヴィが仕掛けるのか。全く予想はできませんが、可能性はあるみたいです。
巨額のM&Aって投資家として大きなリスクの一つだなって思います。割高を掴む可能性があるというリスクもあるし、金額が巨額でかつ投資回収に時間が掛かるというリスクもあります。仮に投資家人生の終盤で、投資先企業が大きな買収を試みて株価が暴落してしまったら、その投資を回収する時間を待つ余裕がないかもしれません。仮にマーケットの反応が過剰で実際は妥当な買収額だったとしても、それが株主リターンに反映されるのに10年以上かかる可能性もありますから。買収金額が不合理に割高で、どうしようもないケースもあるかもしれません。
こういうことを考えるとETFってホント便利だな~と思うわけです。もちろん、セクターETFで対応できるのは同業種内のM&Aに限られますけどね。米国市場全体に投資できるVTIを買っていれば、事実上、あらゆる米国企業同士のM&Aに伴う株主間の不合理な富の移転リスクを回避できます。
僕は分配金利回りが低いのが嫌で、ヘルスケアセクターETF購入を回避した経緯があります。しかし、ここ数年のヘルスケアセクターの超巨額M&A報道を見てて、ETF投資家は安全で良いな~と思うことがよくあります。
去年の夏頃だっけ、米医療機器のストライカー(SYK)がボストンサイエンティフィック(BSX)を買収すると報道が出て、驚きました。結局、この買収は実現しないようですが、もし成立していれば規模は6兆円を超えていたでしょう。
XLVの中にはSYKが1.5%、BSXが1.5%とほぼ同比率含まれています。なので、XLV保有者からすれば、SYKの買収対価の妥当性はどうでもいいと言えます。気楽にニュースを見てられます。一方でSYK株主は超ビビりますよ。「6兆円も払ってホンマに大丈夫なんか!?」って不安になります。
M&Aに伴う株主間の富の移転を回避できる(良くも悪くも)、M&Aの投資回収期間の長さを気にしなくて良い、というのはETFの隠れた魅力だと思うんですよね。特にヘルスケアはM&Aの数も多いし、金額も馬鹿でかい。XLVなどのETFへの投資は、安心してヘルスケア銘柄にアプローチできる良い選択肢だなと思います。
今、私が個別株として投資してるヘルスケア銘柄は、ファイザー(PFE)、アッヴィ(ABBV)、メドトロニック(MDT)の3社です。製薬と医療機器で分散させました。数多くある製薬会社の中から、なぜPFEとABBVを選んだのか明確な理由はありません。過去の財務データや魅力的な配当利回りに魅かれて、直感で選んだ面は否めないです。
先日、製薬業界にお勤めの読者さんから「製薬業界にいる私でも、将来どの薬が伸びるか全く予想できません。」といった主旨のコメントを頂きました。んなら、素人の私がわかるわけがない。製薬は専門的過ぎて、年次報告書をしっかり読んでも理解できないことが多いです。ヘルスケアは有望だけど、専門的で難しい業界です。こういう時は、ETFで丸っと投資するのもありかもな。M&Aリスクも回避できるし。
ただ今のところは、ヘルスケアETFを買う予定はありません。やっぱ利回りが低いのが嫌で。個別銘柄への投資を続けます。業界でもっとも安定感があるジョンソン&ジョンソン(JNJ)をポートフォリオに加えようかな、せめて。ABBVとJNJを入れ替えるか・・。いや、でもABBVの高い収益性、高い増配率は魅力的なんだよな~。うーん、迷うなー。
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S&P500に投資している人は米国企業同士のM&Aを手放しで喜んでいい!
確か生活必需品はETFでヘルスケアは個別、と昔書いてらしたような・・・
懐かしいな。
その記事を書いたのは、まだブログを始めたばかりの頃、ほとんどアクセス数もなかった頃だったと思います。
「通りすがり」とのことですが、もしかして昔から読んで下さっている方でしょうか。
であれば、ありがとうございます。
私はヘルスケアセクターは今でもETFより個別株派です。
記事で書いた通り、利回りの問題です。あくまで自分の志向の問題で、一般論としてはヘルスケアETFは良い選択肢だと思っています。
M&Aのリスクを考えると、ヘルスケアETFはより魅力的に見えるなと最近思います。
そんな思いを記事にしてみました。
XLVは俺の米国株ポートフォリオの20%を占める主力ETFなので、すごくタメになる記事でした。企業同士のM&Aという観点から見てもETFでの投資は適しているんですね。
自分は単純に、ヘルスケア銘柄に投資したいけどどれがいいかわからないし、リスク分散もしたい。ならETFだー!っていうことで買っただけだったんですよね。最終的にはJNJも買いましたが。
10兆円クラスのM&Aがバンバン起こるのは、米国マーケットらしいです。
株主価値向上のためなら、巨大企業同士の統合も普通にあります。
製薬業界同士のM&Aなら失敗のリスクは低いかもしれませんが、それでも買収金額の評価というのは最後は「えいや!」という面があって難しいものです。
記事でも書いたのですが、どちらかと言えば買い手の立場が弱く高値を掴まざるを得ない面があります。
買い手優位なのは、独禁法に絡んでスピンオフせざるを得ない事業を買うなど、稀なケースに限ります。
セクター内でのM&Aがもっとも活発なのがヘルスケア。
そういう点でXLV等のヘルスケアセクターETFは安全です。