米国ではM&Aの動きが活発です。
2016年はマイクロソフトがリンクトインを262億ドルで買収するという大きなM&Aがありました。独バイエルが米モンサントを660億ドルで買収するというビッグ案件もありました。
最近はベライゾンが米ヤフー買収を実現する方向で決着するようです。個人情報流出事件がありましたがベライゾンはヤフーが必要だと判断したようです。
(ただし、買収金額は3.5億ドルほど引き下げる模様)
同じ通信業界としては、AT&Tがタイムワーナーを854億ドルで買収すると発表しています。現在は米当局審査中です。
またバフェットが大株主の米クラフト・ハインツが英欄ユニリーバを買収するという報道がありました。
これはユニリーバ側が買収金額に納得がいかず、不成立となりました。
米国企業は株主利益に適うのであれば、大型M&Aにも積極的です。
企業が積極的というか、大株主である機関投資家やPEファンドの圧力もあって経営統合を積極的に行いコスト削減を迫られがちです。
このようなM&Aは米国株投資家であるあなたの利益にも大きく影響します。
日経新聞やWSJで報道されるM&A関連のニュースを読んで、あなたはどう考え、何を思いますか?
株式交換、合併、買収、こういう言葉って人によっては「うわあ、なんか難しそう」って思ってニュースも敬遠しがちかもしれません。
それは仕方ないと思います。
実際にM&A実務はとても複雑です。
買収スキームによってとれる税務メリットも大きく変わります。
一般的に言って、事業買収より株式買収のほうが好まれます。
単純にスキームがシンプルだからです。
まあ小難しい話はさて置き。
M&Aの難解な知識なんて普通の株式投資家には必要ないと思います。
というか、私もそれほど詳しい知識は持ち合わせていません。
M&Aが成功するかどうかは将来にならないとわかりません。
巷では、M&Aの成功確率は3割程度だと言われます。
ちなみに、日本で行われたM&Aで成功だと称賛されるのがJTによる米レイノルズ・アメリカンの米国外事業の買収です。約6千億円規模でした。
逆に、失敗例で最もホットな案件は東芝のウエスチングハウス(WH)買収でしょうか。
約7千億円の減損を発表しています。
M&Aの成否は買収起業、被買収企業それぞれの株主の利益に多大な影響を与えます。その利益は短期的には測ることは難しいです。統合シナジーは短期間では測定できませんから。
ただ、一つ確実に言えることがあると考えています。
それは米国企業同士のM&Aであれば、S&P500などの米国株インデックス投資家は手放しで喜んでいいということです。
M&A失敗の原因は端的に言えば高値掴みです。
売り手はなるべく高く売ろうとします。当たり前です。
会社の価値ってとても曖昧です。
買収金額はその会社が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出します。
その際に、統合シナジーやタックスメリットなどを織り込むことになります。
要するに株価の理論値を算出するのと一緒です。
そりゃそうです、株価とは企業価値(株主価値)そのものですから。
割引率をいくらにするか、成長率をいくらにするか、シナジーをどれほど期待するか、そういった変動要素が多いため誰が計算するか、計算の前提をどう見積もるかによって理論的な買収金額なんていかようにも変動します。
売り手は高く見積もります。
買い手はなるべく安く見積もります。
お互いが妥協できる金額で最終妥結となるのですが、よほど売り手が売り急いでない限りは買い手はどこかで妥協する必要があります。
企業買収とは汎用品の購入ではありませんから。唯一無二のその企業のビジネスが欲しい!と思って買うのですから強気な値引き交渉は難しいです。
例外として、売り手が焦っているケース、例えば独禁法に抵触するから一部事業を売却しろ!とSECから言われている場合などは、買い手はやや有利な立場で交渉できると思います。
閉店間際で半額シールが貼ってあるお惣菜を買う私のように、安値で会社を買収できることは稀です。
だからこそ、普通は買収に伴って「のれん」が発生するわけです。
のれんとは、買収価額が被買収企業の純資産金額を上回っているときのその差額です。
買い手は将来の統合ストーリーをバラ色に見る傾向にもあります。
でないと、買い手企業の株主だって納得しませんから。
多少高くても買う場合があります。
途中で「やっぱり高過ぎかな~」と思っても、今まで散々コストをかけて進めてきたM&Aプロジェクトを中断したくないという思惑も出てきます。
そういったことが、M&Aの失敗原因となります。
会計的にはのれんの減損が必要になってしまいます。
だから、あなたが投資している企業が他企業の買収を発表しても、あなたは素直に喜ぶべきではありません。
むしろ、買収決定当初は買い手企業の株価が下落することの方が多いです。
AT&Tの株主のあなたは、タイムワーナー買収で利益を得ることができるのかは不透明です。
ベライゾンの株主のあなたは、米ヤフー買収で利益を得ることができるか不透明です。
でも、S&P500ETFに投資しているあなたは、これらのM&Aで利益を得ることができるはずです。
なぜか?
それはこの続き。
ここまで、資本家 vs 資本家という視点で話をしてきました。
AT&T株主 vs タイムワーナー株主。
ベライゾン株主 vs 米ヤフー株主。
M&Aとは資本家間の富の移転だと考えています。
高値掴みをしてしまえば、買い手企業の株主の富が売り手企業の株主に移転します。
もし激安で買えれば、売り手企業の株主の富が買い手企業の株主に移転します。
M&Aとは買収金額を巡った攻防戦、交渉戦です。
ここでちょっと視点を変えてみます。
もう1段上から俯瞰的にM&Aを捉えてみます。
資本家 vs 消費者 という視点でM&Aを見てみます。
すると一つの事実が浮かび上がります。
それは企業の統合とは、消費者から資本家への所得移転でもあるということです。
M&Aによって資本家間の富の移転が行われると同時に、消費者から資本家へも富の移転が生じます。
なぜなら、M&Aを行うことでコスト競争力と市場独占力が高まり、強気な販売戦略を立てることができるからです。
コスト削減できたメリットは販売価格下落を通して消費者にも一部及ぶ可能性はありますが、そう簡単に値下げはしないでしょう。
市場の占有率が高まることで、消費者への販売価額を強気に設定することが可能となり企業の利益が上がります。
その企業利益の増加は、消費者から資本家への富の移転です。
もっと平たく言うと、M&Aによって資本家同士で結託してグルを組めるということです。
確かに、M&Aには多額のコストがかかります。
M&A戦略の策定、想定シナジーの分析、財務DD、法務DD、税務DD、システム統合などなど。
これらの費用はもちろん株主、資本家の持ち出しです。
統合による企業利益増加額が、M&Aに伴って発生する上記のコスト(主に投資銀行やコンサルへのフィー)を上回る限り、資本家全体で見ればM&Aは経済合理的となります。M&A費用は一時的なコストですが、M&Aによる統合メリットは将来に渡って続きます。つまり、M&A付随費用くらいは普通回収できるということです。
このように、一般的にM&Aは消費者から資本家への所得移転を引き起こします。
だから、M&Aが活発になって企業の統合があまりに進んでしまうことは消費者にとって不利益となります。
だからこそ、独占禁止法という法律がどこの国にもあるのです。
アメリカのそれは反トラスト法と呼ばれています。
反トラスト法は、米国民から米国企業株主への過度な所得移転を防ぐために存在する法律と言えます。
反トラスト法は被買収企業を守っているのではなく、消費者である米国民の利益を守っています。
反トラスト法の網を通り抜けることができてM&Aが成立すれば、資本家全体としての市場でのプレゼンス、パワーは高まることになります。
米国企業同士のM&Aが活発になればなるほど、米国企業の統合が進めば進むほど、S&P500ETFを保有している投資家は利益を得るということです。
S&P500に投資しているあなたは、日経やWSJ、ネットニュースなどで米国企業同士のM&A報道を見たら「やったあ!」って思っていいでしょう。
クラフト・ハインツのユニリーバ買収提案のように、米国企業と米国外企業の統合は別ですけど。
ところで、私は数年前妹の結婚祝いに30万円渡しました。
母親に「兄はそれくらい渡すのが普通でしょ!!」と唆されて「あ、そんなもんか、まあ大切な妹だし別にいいか」と思い渡しました。
ですが、、その後会社の同僚に「え、Hiro君、それは渡し過ぎだよ!、いくら妹でも30万円も普通渡さないよ!、馬鹿じゃないのw」
「・・・(馬鹿とかひどいな)」
ネットで検索すると、親族の結婚でのご祝儀の相場は5万円ほど。。
つまり、私は普通なら5万円程度払えばよいところ30万円も妹に払ったので25万円も高値掴みしたということです(笑)。こういうところ本当に世間知らずのアホなんです。。
HiroからHiro妹への富の移転です。
しかし、Hiro一家という大きな視点で見れば富の移転は起こっていませんね。家族内ですから。
M&Aでは買い手が失敗して高値掴みしても、資本家全体で見れば富の移転は起こっていません。
資本家全体、つまりインデックス投資家にとってM&Aでの買収価額の妥当性自体はあまり関係ありません。
インデックス投資家はM&Aの統合効果の恩恵を受けるだけです。
消費者からインデックス投資家に富の移転が生じます。
S&P500に投資しているあなたは、米国企業同士のM&Aニュースを見たら手放しで大いに喜んでいいということです。
Hiroさん家族内の富の移転の例で納得できました。
インデックス(S&P500)の企業同士のM&Aは個別企業の視点で見れば、どちらかの企業が利益or損が発生するが、インデックス(S&P500)の枠内の企業だから富は外には出ていないわけですね。 しかも消費者からM&Aをした企業に富が移転する。
ということはS&P500のインデックスを保有している者は、保有していない消費者よりも富を得ているということにもつながりますね。
「持てる者は益々豊かになる」ということですね。
>インデックス(S&P500)の枠内の企業だから富は外には出ていないわけですね。 しかも消費者からM&Aをした企業に富が移転する。
はい、おっしゃるとおりです!
私が記事で伝えたかったことを完璧に理解して頂けて、嬉しいです!(感動)
やっぱり素人のブログの記事なんて、適当に読み飛ばすのが普通でしょうからね。。
実際、私も投資に限らずですけど他のブログの記事なんて、よほど興味ない限りはパーっと読み流しますから。
そこまで理解できるほど、私の文章を読み込んでくださって恐縮です。
Hiro家族内の例示を入れておいてよかったです。
少しは緩い文章もないと、疲れるかなという思いもあって。もちろん実話ですw。
M&Aによって企業の統合が進むほど、資本家側の利益は増えると思っています。
反トラスト法がもちろんありますが、米国はイノベーティブな企業活動が富の源泉だと理解していますので、過度な規制はしないと思います。
トランプ大統領はAT&Tのタイムワーナー買収を嫌がっているみたいですけどね~。
こちらの記事を読んだ後、S&P500(1557)がまた欲しくなり、1株だけですが、追加購入しました。
たったの1株でも手数料がかからないのはいいですね。
直近では高値圏のような気もしますが、購入するタイミングに神経質にならずにコツコツと買い足していきます。
おお、いいですね!!
それこそが1557最大のメリットですよね。
IVVなどの米国ETFだとできない買い方ですな。
昔1557をポチっよ買っていた頃を思い出します。
私は最近個別株を買いだして、1取引最低50万円は見ているので結構購入決定に疲れますよ。。
最近チェルシーさんに限らず、私の記事を見て株を買ったとか投資方針を変えたと、というコメントを頂き大変驚きます。
と同時に嬉しくもあります!
そうやって同じ価値観を共有できる「仲間」を集めて、みんなで楽しく豊かになりたいですね。
いつが天井かは誰にもわかりません。
歴史を振り返れば、どこで株を買っても長期で保有すれば確実に債券リターンを超えます。
コツコツ買い増せば無問題。
アメリカ株投資を始めて2年目の40台です。私は最初に読んだ本がシーゲルなので日本株はやったことがないままアメリカ株です。笑
さて、今迄色々調べてきましたがVTIとVOOなどのS&P500と選ぶとしたらHiroさんは超長期でみてどちらがいいと思われますか?
こんばんは、コメントありがとうございます。
最初に読まれた本がシーゲル教授の書籍でいきなり米国株を選べばれるとは、大変お目が高いと存じます。
どのようなきっかけがあれば最初に手に取る本がシーゲル本になるのか、、すごく気になります(笑)。
ご質問の件ですが、VTIとVOOはどちらも低コストの優良ETFです。
VTIは大型株だけではなく、中小型株まで含んだ米国市場全体に投資できるETFです。
VTIの方が投資銘柄数は多いです。
とはいえ、過去5年のリターンはほとんど変わりません。
なので、どちらでも好きな方でいいと思います、という大変曖昧な回答になってしまいます。
申し訳ありません。
ちなみに、私なら大型株中心のVOOを選びます。
小型株が相対的に高いリターンをもたらす時期もありますが、シーゲル教授の書籍によれば長期で高いリターンを生むのは誰もが知る優良大型株ですから。
これは一見理論的な理由にも聞こえるかもしれませんが、正直言って感情論です。
気分の問題かもしれません。
うっくん様のお好きな方に投資されて問題ないと思います。
以上、ご参考になれば幸甚です。
みなさんの書評を読んで最初に購入しました。年の功で本質を見極める目が養われているからだと思われます。笑 Hiroさんのブログ内容はすーっと心に入ってきます。これも本質と感じます。笑笑 すごいと思います。自分は同年代の時は、というより最近まで経済のけの字もありませんでしたから。正直言って…のコメントにHiroさんの聡明さを感じました。深いです。なんだかとっても嬉しいです。ありがとうございます。
そうなのですか!
書評と言ってもネット上には数多くありますからね、その中でシーゲル教授の書籍に行き着くのはおっしゃる通り人生経験があるからなのだと思います。
「シーゲル教授の書籍を読まない奴はアホ」とまで思っているわけでは決してありませんが、やはり私にとってインパクトのある本でした。
投資マインドを変えてくれた本でした。
非常に説得力のある内容で目から鱗でした。
>Hiroさんのブログ内容はすーっと心に入ってきます。
そのようにおっしゃって頂き、大変うれしく思います。
これは謙遜ではなく本当に私の文章力はかなり低いと自覚してますので、これから勉強していこうと思います。
文章を打つスピードだけはちょっと自信ありますけど、内容はもうダメダメですよ。
学校のお勉強はできてお利口さんかもしれないけど実社会ではてんで使えねなコイツ、みたいな奴です私は。
自分を客観視すればするほどテンションが下がっていきます~。
>なんだかとっても嬉しいです。
そのように思って頂けてよかったです!
コメントありがとうございました。
良い土日をお過ごし下さいませ。
こんばんは!
ひろさんの視点は
広くて深い
とても勉強になります。
なにより例えが分かり易いです。
こちらのブログ記事も
勉強になりました。
ありがとうございました。
ちこちゃんさん、こんにちは。
昔の記事まで読んで頂き、ありがとうございます。
私は経済学とか法律の専門知識は全然ないので、小難しい感じのニュースとかを読むときは「で、結局誰が得するのか?」ということだけ考えています。
その時に考える視点の高さを意識的に低くしたり、高くしたりします。
誰が得するのかを国家レベルで考えるのか、それとも具体的な個人レベルで考えるのか。
インデックス投資のいいところは、政策変更の影響が各個別企業の株主レベルでどう影響するのかを考えなくていいところです。
インデックス投資家は、結局その政策が資本家全体にとってどう影響するのかだけを考えればOKです。
そういうマクロの視点だけで損得影響を判断できるのはインデックス投資のメリットです。
最近のアメリカの税制改正なども同じことが言えます。
コメントありがとうございました。
せっかくなので、税制改正をキーワードにこの点を記事にしてみたいなあと今ふと思いました。