長期での株式投資では、数十年後の売却時の資産時価とそれまでの配当実績がすべてなので、日々の株価変動に一喜一憂しないことが重要です。しかし、やはり日々の株価変動を気にしてしまうのは感情ある人間として仕方ないと思います。私も正直一喜一憂します。長期投資は「マーケットとの戦い」ではなく「己の感情との戦い」です。

株式投資を始めてからというもの、日経平均やNYダウ、為替レートなどの経済指標をチェックしない日はありません。通勤電車でスマホで前日のNYダウ終値を確認、お昼休みにデスクでお弁当を食べながらYahooファイナンスで前場の日経平均とTOPIX、円・US💲・ユーロのレート確認。

もちろん経理という職業柄ということもあります。でもやはり気になるのは自分の資産に与える影響です。今日は1%株価が下がったな、ということは10万円位資産が減ったな、これって月給の3分の1もの資産がたった一日で減ったんだなと余計なことを考えてしまいます。1日で10万円以上もの資産が減少するのに、残業して数千〜1万円追加で稼いでも馬鹿らしいなと思ったこともあります。

 日々の株価変動が雑音に過ぎない理由

日々の株価を気にしてしまうのは庶民感覚としては当然と思います。ただ、はっきり言って日々の株価の変動は単なるノイズ、雑音に過ぎません。それは単純な算数でわかることです。株式投資は変動率が大きいので毎年の実際リターンは△40%〜50%とかなり幅広い範囲で起こり得ますが、30年単位で平均すると1年あたりの期待リターンは7%くらいとなります。

1年、365日で7%ということは1日当たりの期待リターンはわずか0.02%です。1日の株価変動が0.02%の日なんて最近はほとんどありません。特に中国不安や原油安で揺れている最近の日本の株式市場では2%〜3%の変動でも驚かなくなりました。3%ということは年間期待リターンの約半分です。これが1日で動くのです。平均すると0.02%の変動なのに、平気で1%以上動くのですから、日々の株価変動はただのノイズと理解できます。

毎日毎日株価は上下に大きくブレながらも、結果としての年始と年末の増減率だけを見て今年の株式リターンは○○%だっと結果論を言うわけです。例えば、2015年のNYダウの収益率は▲2%(17,823ドル→17,425ドル)とわずかな下落でした。ほぼ横ばいですですが、各月末値を見ると最高が2015年5月末で18,010ドルで、最安が2015年9月の16,284ドルです。年間で見ると横ばいでも期中では大きく上下しています。株価がこのような動きをするのは当たりまえといえば当たり前なのですが、長期投資家にとって日々の株価に大きな意味がないことは明確です。

チャールズ・エリスは『敗者のゲーム』でこれをうまく表現しています。「ミスター・マーケット」と「ミスター・バリュー」です。日々の株価という「ミスター・マーケット」の囁きに踊らされることなく、投資企業の実態という「ミスター・バリュー」を信じて冷静に市場に居続けることが重要です。

 投機家は大切な存在

このように株価が大きく上下するのは、株式市場には毎日多額のマネーが取引され短期で利ざやを稼ごうとする個人投資家やヘッジファンドなどが存在するからです。投機行動が株価の変動を大きくします。長期投資家にとって、彼ら投機家のせいで毎日資産時価が大きく変動して一喜一憂させられていると思うかもしれませんが、長期投資家にとって投機家の存在は非常に重要です。

たくさんのマーケット参加者が市場予測をしたり、企業のバリュエーションを算定したりしてそれぞれが儲かると考える株価で売買しています。このような集合知が結果として長期的に株価を理論価値に近づけることになります。

また、流動性を市場に供給するという重要な役割も担っています。あなたが30年投資を継続して株式時価が1億円になっていても、これを市場で売却できなければ意味がありません。市場で確実に売却できると思っているからこそ投資家は株を買うのであり、売却できない可能性が高いのであれば、誰も株を買わなくなり市場は麻痺し、企業のリスクの担い手が不在になります。流動性があるということは株式市場の信頼を保つ上でとても重要です。

投機家あっての長期投資です。バイ&ホールドをしている私のような長期投資家は、日々マーケトで戦っている方々に感謝すべきだと思うほどです。

長期投資家にとって日々の株価の変動は心を惑わすノイズですが、ノイズがあるからこそ長期投資できるのです。ノイズを嫌がらず、「ミスター・バリュー」を意識して己の感情に打ち克つことで長期投資成功に一歩近づくことができると思います。