マールボロなどのブランドを持つ米たばこ大手のアルトリア・グループ(MO)が2019年9月期決算を発表しました。売上高と調整後EPSはともに市場予想を上回りましたが、GAAPベースのEPSは大幅未達。7月~9月の純利益はマイナスでした。
赤字に転落した主な原因は電子タバコ大手JUUL株式の減損処理です。アルトリアは今年128億ドルを投じてJUUL株の35%を取得しました。取得金額はPSR(株価売上高倍率)で29倍と高額でしたが、残念ながら1年と経たない内に減損となりました。128億ドル全額ではなく45億ドルの簿価切り下げです。
減損はノンキャッシュ・チャージ(非現金支出費用)で資金繰りに影響しないから問題ないという意見をたまに見かけますが、とんでもないです。しっかりキャッシュアウトは発生しています。JUUL株取得に128億ドルというキャッシュを使ったのは事実なわけですから。減価償却も減損も「非」現金支出費用なんかじゃありません。現金支出費用です。現金支出と会計上の費用処理のタイミング差が大きいだけ。
あらゆる費用は現金支出を伴います。唯一の例外は経営者や従業員にストックオプションを付与した時の「株式報酬費用」くらいです。これも一株当たりの株式価値を希薄化するわけだから費用で間違いなしです。
ストックオプションは余談でした。減損の話。非上場株の減損方法は複数のやり方がありますが、アルトリアの10-Qレポートを読むとちゃんとDCF法で測定していました。つまり、電子タバコ事業が将来もたらすであろうフリーCFを見積もってその現在価値を算定し、投資額を下回る金額を減損しているということです。128億ドル投資したけど83億ドル相当しか資金を回収できないから、差額の45億ドルは減損ってことです。簡単に言うと。回収不能の理由として、FDAの規制を挙げています。
WeWork問題からもわかる通り、非上場株の評価というのは非常に難しいです。米国の紙巻きたばこ消費量は減少の一途をたどっており、アルトリア経営陣が大枚をはたいてでもJUUL株を取得しようとした気持ちはわかります。しかし、結果としては投資判断ミスだったと言えます。電子タバコ事業の将来性は置いておくとして、取得金額は高過ぎました。減損とはそういうことです。
JUUL減損処理の陰に隠れて目立たないですが、大麻の栽培・販売を営むクロノス・グループへの出資による持分法投資損失も13億ドル計上しています。JUUL株減損と合わせて58億ドルの投資損失です。アルトリアの時価総額は840億ドルほどですから、決して小さな損失ではありません。
M&Aというのは株主価値を棄損する典型例です。45億ドルのJUUL株減損は確実に株主リターンを悪化させます。
タバコ業界について詳しいことは知らないので、投資判断について偉そうに講釈を垂れるつもりはありません。経営陣に任せるしかありません。会社の投資ミスによる損失は株主として責任を負います。それが株主の役割だからしゃーない。ただ、これほど簡単に減損処理されると「おいおい、しっかり頼むで」って思います。
タバコは儲かります。アルトリアやフィリップモリスのPLを見れば一目瞭然。ただこういった多額の投資ミスは確実に株主利益を蝕みます。売るつもりはありませんが、ポートフォリオの5%を上限の目安にするという自主ルールは守ります。
PERは低いし現在のアルトリアが市場平均を超えるチャンスはあると思っています。PER20倍の時に買ってしまった私は厳しいかな。米国株投資歴4年になりますが、これまでで一番の判断ミスはアルトリアのバリュエーションを見誤ったことです。「以前のような大型訴訟はもう起こらず、タバコ業界は黄金期に突入した。PERはコカ・コーラなどと同じ20倍前後が続くだろう」という思惑は誤りでした。
(関連記事)
アルトリアグループ(MO)高値掴みから得た3つの教訓
薔薇の艦隊
https://rosefleet.net/
のドルチェです。
M&A(企業買収)に係る投資キャッシュフローが$100Mあったと仮定します。
その一年後、子会社化した保有株式が、時価$120Mとなったとします。
すると、連結決算における含み益は$120M-$100M=$20Mですね?
しかし、それはあくまでも時価の含み益であり、
実際に株式を売却しない限り、現金化できない性質のものですね?
インカムゲイン投資家にとって、
現金配当こそ、プラスサムの象徴であることから、含み益では不安です。
将来的にフリーキャッシュフローの増加に結実しないと、安心できませんね。
目下、ソフトバンクグループのWeWork問題が、投資家の間で議論になっていますが、
それは結局、孫正義社長のお手盛り(希望的観測)で投資先の企業価値を決めているだけで、
実際の価値は客観的に評価されていないことが問題になっていると考えます。
そういった不確実な状況をみるにつけ、
やはり、安定的にフリーキャッシュフローを増加させている企業に、安心感を感じます。
ドルチェさん、こんにちは、お世話になります。
ソフトバンクの決算書を理解するのは難しいですね。
非上場株の評価はマーケットという「答え」がなく、客観性が担保されにくく、監査法人も明確にNoと言いづらいです。
完全子会社化する場合は株式の含み益という概念はなくなります。
子会社の業績がそのまま親会社の連結PLに取り込まれます。
ちなみに、ソフトバンクはWeWorkを子会社ではなく関連会社と判定しているので、損益全部ではなく持分比率相当のみを取り込むことになります。
ソフトバンクの持分比率は最大で80%になるので子会社として連結しないのはやや疑問に思いますが、関連会社でも損益はある程度取り込むことになります。
つまり今後はWeWork株の評価どうこうにかかわらず、WeWorkが赤字を出せばそれがそのままソフトバンクグループの連結純利益を悪化させます。
投資というのは難しいですね。
孫さんのテクノロジーで未来を変えたいという熱い思いは伝わりますが、株主利益を考えているとは思えません。
孫さんは株主利益よりも消費者利益を考えている人だと思います。もちろんアマゾンのように顧客ファーストが最終的には株主利益になるのですが。
ビジョンファンドがバークシャーのようになることは考えられないです。
バークシャーは鉄道や電力など地味なビジネスでキャッシュを生み出していますから。
Hiroさん、こんにちは。
薔薇の艦隊
https://rosefleet.net/
のドルチェです。
寒くなってきました。
風邪などひかぬよう、体調管理にはお気を付けください。
親会社と子会社の関係について、さらに教えてください。
Hiroさんから、
「完全子会社する場合は、子会社の業績がそのまま親会社の連結PLに取り込まれます。」
と教えていただきました。
これを受け、
”そうなんだ。子会社の業績が取り込まれるとなると、
親会社の管理監督責任も重大になるのだな”
と素朴に感じました。
そういった認識でいたところ、
ある方のブログに下記の意味の主張が記載されていました。
「SBGの子会社は独立採算で、SBGは子会社の債務を負っていない。
子会社保有の借金を差し引けば、SBGの実質的な借金は5兆円。
子会社の借金は、親会社の借金として載せるべきではない。」
この主張について、公認会計士の立場から、どうご覧になりますか?
私の素人考えでは、子会社が独立採算であるかないかに関わらず、
親会社である以上、管理監督責任というのは厳然としてある。
そう考えますが、いかがでしょうか?
管理監督責任がないのであれば、
親会社として期待される役割とはそもそも何なのか?
疑問に感じます。
以上、Hiroさんの知見をお聞かせいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
ドルチェさん、おはようございます。
子会社の監督責任は親会社の重要な役割です。
うちの会社は最近子会社の不祥事が相次いでおり、ガバナンス体制の見直しを急ピッチで行っているところです。
ご質問の件ですが、子会社の債務は親会社の債務として認識すべきです。
自分の意見どうこうの前に、会計基準上、親会社であれ子会社であれ外部からお金を借りた場合は連結貸借対照表に載ってきます。
それはグループ全体の債務を投資家に報告すべきという考えに基づきます。
子会社が万が一借金を払えない事態になれば、親会社が資金援助するはずです。
なので、債務を認識しないわけにはいきません。
なお、子会社の借金が親会社からの借金なのであれば、それはグループ内取引として消去されるべき性質のものになります。
銀行借入や社債など外部からの借入であれば、子会社の借金も負債認識しなくてはなりません。
なお、引用頂いた文章の妥当性は前後の文脈なども考慮しないと何とも言えない面があるかなと思います。
ここでの私の回答は会計基準に基づいた一般論です。
買収にかかる費用ですが、アメリカの場合、買収したときのキャッシュフローに影響があるという認識であってますか?
それで今回のアルトリアのように減損したタイミングでP/Lに載ってくると。
この記事を読んでからM&Aの費用について調べたのですが、以下のように解説しているサイトがありました。キャッシュはすでに払ったあとなので、変わらないかと思うのですが違いますか?
“IFRSでは償却処理を実施しない分、減損が生じた際の計上費用が大きくなる傾向があります。
減損発生時のデメリットは大きいものの、のれん償却の処理が不要である為、その分手元に多くのキャッシュを残すことが可能です。”
こんばんは。
先ず会計とキャッシュを明確に区分するところからです。
キャッシュフローは会計基準に左右されません。現金の動きだからです。
JGAAP(日本会計基準)であろうとUSGAAP(米国会計基準)であろうとIFRS(国際会計基準)であろうと、買収時にキャッシュアウトは発生します。
>キャッシュはすでに払ったあとなので、変わらないかと思うのですが違いますか?
ご理解の通りです。
一方で、会計処理は異なります。
おっしゃる通り、IFRS(USGAAPも)ではのれんは償却しません。投資を回収できないと判断された時点で減損となります。
なので、減損発生時に多額に一時コストが発生するというのはその通りです。
JGAAPではのれんは20年以内に償却します。
JGAAPでも減損は発生しますが、ある程度償却しているので減損額は相対的に少額になります。
>のれん償却の処理が不要である為、その分手元に多くのキャッシュを残すことが可能です。
この文章は私も誤りだと思います。
会計とキャッシュとを混同しています。
のれん償却が不要だからといってキャッシュが多く残ることはありません。
むしろ、のれん償却費は法人税上損金算入可能で法人所得を圧縮できるので、のれんを償却した方が手元キャッシュには有利です。