四半期利益の見通しなんて公表するな! by バフェット
バフェットさんがお怒りのようです。
バフェット氏はJPモルガンCEOのジェイミー・ダイモン氏と共同で、「上場企業は四半期利益見通しの公表を止めるべき」という主旨の文章をウォールストリートジャーナルに寄稿したそうです。
四半期の1株利益見通しの廃止を検討するようお勧めする。われわれの経験では、四半期の利益見通しは長期的な戦略、成長、持続可能性を犠牲にし、短期的な利益に不健全に注力させることになる。
バフェットの寄稿文書(WSJより)
バフェットはこのように言っています。翌四半期の利益見通しなんて、そんな短期の情報出したところで意味はない、いや、むしろ有害だと言っています。
どう思います?
四半期利益の見通し公表はOKだと思う。
でも、経営の短期志向には反対。現在は過去の積み重ね。先人に対する感謝の気持ちは大切。
私の個人的意見としては、四半期利益の見通しを開示すること自体は別に反対じゃありません。投資家がそういう情報を求めているのであれば、利益見通しを公表するのは良いことだと思います。その情報をどう活用するかは投資家次第です。この点、恐縮ながらバフェット先生とは意見不一致です。
ただし、企業の経営が短期志向になるのは良くないと思います。
四半期の利益見通しを公表することと、経営の短期志向(要するに目前の株価さえ上がればいいという風潮)とはあまり関係ないです。むしろ、ストックオプションなど株価によって経営者の給料が大きく左右される報酬制度の方が根深い問題です。
機関投資家やファンドマネージャーが短期での成果を求められているのは事実です。もっと言えば、彼ら彼女らに資金を預けている投資家が、短期でのリターンを求めているということです。良いか悪いかは置いておくとして、世の中の投資家は短期間での投資リターン(というか投機リターン)を欲しています。それが社会のニーズです。
多くの株主が短期での成果を求めている以上、経営者が短期志向になるのは仕方ない面もあります。経営者は株主から経営を委託されている存在です。経営を受託することで高額な報酬をもらっているのがCEOです。S&P500構成企業のCEO報酬の中央値は1160万ドルです(約12億円!)。それだけのお金を株主からもらって仕事をしているのですから、株主の要求に応えようとするのは当然です。
多くの投資家が四半期利益のガイダンスを求めているのであれば、その情報を開示すること自体は別に構わんだろと思います。その情報をどう使いどう投資判断に活かすのか、それは各投資家の自己責任です。
ただ思うのは、いくら株主が短期的な株価上昇を求めているにしても、企業のCEOは倫理観を持って、長期的な社会の利益もきちんと考慮するべきだということです。
極論言えば、CEOは株主の求める成果だけを追求すればいいです。だって、株主の代わりに経営を担っているのがCEOなわけですから。ただ、やはり現代の株式会社、特に大企業は株主の私物ではなく、社会の公器という側面も強いです。現代を生きている私たちは、多かれ少なかれ過去の遺産の上で豊かな生活を享受しています。これは間違いない事実です。
「働き方改革」とか言って、少しでも労働時間を短くして、労働環境を改善しようとする動きが活発です。電通では週休3日を試験導入するそうです。そんな改革ができるのも、過去の遺産があるからです。過去の遺産があるから、現代を生きる我々は労働時間を短くすることができます。
昔は週休1日でした。今より過酷な労働環境でした。そんな厳しい環境で命を削って働いて下さった先人の方々の努力があるから、今の私たちの生活があります。こんな豊かな生活環境があります。
今ある環境が当たり前とは思ってません。ご先祖様、いやそこまで遠くを見なくとも、両親、祖父母でもいいです。自分よりも上の世代の人たちが必死に働いて社会に価値を生んでくれて、その価値が蓄積された結果が今の豊かな日本経済、世界経済です。蓄積とは別に不動産などの物理的なものに限りません。技術や情報、研究なども含めてです。
どの世代の米国人にも、自分たちの世代よりも強く繁栄した社会を後世に残す責任がある。国家の最も優れた功績は常に長期的な投資から生じている。
ウォーレン・バフェット
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このバフェットの言葉には強く共感します。
米国人を日本人に置き換えて噛み締めたい言葉です。
自分さえ良ければいい、じゃなくって後世を生きる私たちの子ども、孫、ひ孫、玄孫の利益まできちんと考えた経営が大切だと思います。投資家がたとえ短期的な利益を追求してプレッシャーを掛けようとも、上場企業のCEOは強い倫理観を持って、長期的な利益をきちんと守って欲しいです。私は短期利益は追求しない長期投資家として、そんなCEOを後押ししたいです。
とは言え、経営者も人間ですし欲望はありますから、報酬制度の見直しなどは必要だと感じています。米国のCEOは株式報酬の割合が高過ぎます。
未来の社会を見据えた長期戦略が重要という点は、バフェットの意見に賛成です。大賛成です。
ただ、だからと言って、四半期利益の見通しを非公表にすべきとは思いません。
バフェットが「四半期利益の見通しを公表するな!」と言っている本当の理由(Hiroの邪推)
そもそも、なぜバフェットはこのタイミングでこんな書簡をWSJに送ったのか?
単なる気まぐれ?
いえいえ、そんなことないと思います。
2018年から施行された新しい会計基準によって、バークシャー・ハサウェイの四半期業績の予想が難しくなったことが強く影響していると推測してます。もともとバフェットはバークシャーの四半期利益見通しを公表していないので関係はないのですが、今回の文章を寄稿するきっかけには絶対になっていると思います。
バークシャーの2018年第1四半期決算は赤字でした。ビジネスは順調なのに最終赤字に転落しました。その理由は、新しい金融商品会計基準によって保有上場株の時価変動を損益処理したことです。
企業が長期投資目的で保有している株式について、今まではたとえ株価が変動して含み損になってもその損失はPL(損益計算書)には出てきませんでした。ちょっと専門的になりますが、包括利益計算書を通じて直接バランスシートの純資産からマイナスされていました。逆に含み益が出ても、その利益はPL計上されませんでした。
しかし。
2018年度決算より、バークシャーは(というか米国上場企業は)、保有株の時価変動を損益処理することが強制されるようになりました。これはバークシャーは超困りますよ。バークシャーは2000億ドルほどの上場株を保有していますが、その時価変動を損益処理しようものなら1%時価が動くだけで20億ドルも利益が変動することになります。
バークシャーのEPSを予想するのは、もはや不可能になりました。バークシャーのEPSを予想するには、コカ・コーラとかウェルズファーゴ、アップルなど保有株の3か月後の株価を予想する必要があるのですから。んなの無理ゲーですよね。それができるなら、ヘッジファンドに転職して運用マネージャーやった方がいいでしょう。
未来が見通せる水晶玉を持っている人やタイムマシンで未来からやってきた人でもない限り、バークシャーの四半期業績を予想することは不可能です。上場株の3ヵ月後の株価なんて誰もわかりません。
ってことで、バフェットはお怒りだと思うんです。
「こんな会計基準を作りやがってー!!」ヽ(`Д´)ノプンプン
ってなってるんだと思います。
バフェットは四半期業績予想を公開するCEO達に不満を持っているというより、FASB(米国会計基準の設定主体)に不満を持っているのはと私は邪推しております。んで、その不満をぶつけるために、こんな書簡をWSJに寄稿したのかな~と。まあ、バフェットさんのお気持ちはわかります。私もこの会計処理には反対です。
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バークシャー・ハサウェイが赤字転落!!でも、会計マジックだから気にしないで。
Hiroさん、毎回するどいですね。
いつも記事に大方納得させられますし、同じ考えを持っていても他の人の言葉でまとめてもらうと大変勉強になります。
私も四半期決算に賛成です。
バフェットは今さら何を言ってるのでしょうか。
会計基準の変更は、実務に鍛えられたUSGAAPがヨーロッパの学者が作ったくだらないIFRSの影響で侵食されてきたのだと思います。
だいたい米国の投資家は四半期決算そのものを見ているのではなく、トレイリング一年で傾向を把握しているのだから、四半期決算が無くては困ります。
まあ頻度を減らすなら3半期決算でもよいですが。頻繁にフォローするのも疲れるので。
四半期利益見通し、四半期決算開示、どちらも投資家のニーズによって始まったことです。
昔は、日本も決算は半年毎でしたが四半期決算に変わりましたね。
おかげさまで監査法人は儲かり、企業の経理部は疲弊しておりますw。
決算が終わって「ふ~」と思ったら、また次の決算が来る感じです。
US-GAAPにあまり詳しくないので適当なことは言えませんが、この有価証券の会計処理変更は疑問です。
日本基準も国際会計基準も、どちらも保有株の時価変動を損益処理するなんて規定ありませんし。
SECはIFRSの強制適用する気はないようですが、それは構わないのですがあまりIFRSとの乖離を発生させてほしくはないですね。
グローバルで統一の物差しで比較できるといいのですが、色んな利害が絡み合っていて難しい面もあります。