ウォールストリートジャーナルに面白い記事があったのですが、最近財務部門で「エクセル離れ」が進んでいるそうです。WSJ曰く、エクセルはSAPやオラクルなどの基幹システムと連動していないので、一部の業務はエクセルには不向きだと。

基幹システムに組み込みにくいというデメリットがあるのは確かにわかりますが、財務部門からエクセルが消えることなんて考えられません。監査法人で3年上場企業経理で6年働いてきましたが、エクセルなしで経理財務業務を進めるなんて絶対に無理です。エクセル様様です。

1980年代にマイクロソフトが会計業務に革命を起こしました。昔オフィス移転の時に社内の倉庫を整理していると、50年前の手書きの帳簿を見つけたことがありました。定規を使った綺麗な線、美しい数字が書かれていて、デスクに向かって丁寧に仕事をしている当時の経理マンの姿が目に浮かびました。

そんな時代もありましたが、今ではすべてパソコンで資料を作成します。僕は字がめっちゃ汚いので、PC時代に社会人になれてホントに良かったと思っています。経理業務で使用する資料の9割以上はエクセルです。残高の明細データ、前月との比較分析資料、セグメント別収支資料、これらすべてエクセルで作成しています。

これから50年も、マイクロソフトのエクセルは財務経理部門で活躍し続けると確信しています。

エクセルは個人が自分のPCで作業することになるので、自動で情報は共有されません。そのデメリットは確かにあります。部門内やチーム間でエクセル資料を共有するには、メールで送信したり、共有フォルダにアップロードせねばなりません。アップロードしたフォルダにアクセスしてエクセルを開いてもらわないと、第3者に情報は共有できません。でも情報をシステムに組み込んだって、システムにログインして操作する必要があるし、それは結構な面倒なもんです。エクセルを共有フォルダにアップロードした方が楽です。まあ、データの長期保管という意味ではシステム化した方がいいのはわかりますが。

エクセルは柔軟に加工できる点がいいところです。誰かが作ったアウトプットを、自分なりに再集計したり計算式を追加したりできます。

一部の大規模な集計作業がエクセルに向いていないことはあると思います。エクセルはアップグレードの度に、最大行数が増えて収容可能データ量が増えていますが限界はあります。今のエクセルは表計算に留まらず、データベースとしての機能も一部担っています。しかし、AIによる機械学習で効率的に分析できる時代になれば、エクセルの役割の一部は不要になるでしょう。AIによる機械学習プロセスに組み込むためには、エクセルでデータを集計するのではなくシステムにデータを投入する必要があります。まあ、その投入元は結局エクセルになるかもしれませんが。

しかし、表計算ソフトとしてのエクセルはとても使い勝手がよくて優秀です。てか、エクセル以外の表計算ソフトを使ったことがないのでわかりませんが。

 

僕にとって、エクセルと電卓は仕事のパートナーみたいなもんです。会計監査では「監査調書」というアウトプットを作成します。たとえば有形固定資産の監査調書には、クライアント企業のバランスシート上の建物や機械装置などの有形固定資産残高が適切かどうかの検証結果を記録します。その記録はエクセルで行います。減価償却費が間違いなく計上されているか、資産売却取引が正しくbookされているかなどを検証してそれをエクセルにまとめて調書化します。

エクセルで作成した監査調書は最終的には統合監査システムにアップロードするのですが、監査調書そのものはエクセルです。それは今も変わっていないと思います。数字の増減分析をする時などは、エクセルがホントに便利です。昔手作業で監査やっていた時代は、どうやって期限内に監査を終わらせたのか疑問に感じるくらいです。


会計監査の結果は最終的にはすべてシステムに投入しますが、監査調書自体はエクセルです。

上場企業の経理に転職してからも相変わらず、エクセルのお世話になっています。東証に提出する短信、金融庁に提出する四半期報告書や有価証券報告書、これらはすべてシステムで作成します。この業界では有名なのですが、宝印刷とプロネクサスという2社が財務開示書類の作成をサポートしてくれます。ちなみに、私が勤務している会社はプロネクサス社と契約しています。

開示書類はプロネクサス社のシステムで作成するのですが、その元資料はすべてエクセルです。たとえば、地域別の有形固定資産の注記情報を作成するにあたって、その作業をシステム内で完結させるのは不可能です。やはり各子会社の残高の集計作業はエクセルでやらないと無理です。集計した結果は最後はシステムに投入しますが、集計作業自体はエクセルじゃないと無理です。

 

今後マイクロソフトのOffice事業の売上高は下がっていくかもしれません。そこに危機感を持っているからこそ、マイクロソフトはクラウドサービスのAzureに力を入れているし、それは今のところ好調です。

しかし、私はこれからもエクセルを始めとしたマイクロソフトのOfficeソフトは社会から必要とされ続けると思います。ましてや、財務部門なんて最もエクセル離れが進まないところですよ。エクセルなしで財務経理の仕事を進めるなんて想像できないです。

 

マイクロソフトの売上構成を見ると、すでにクラウド事業の売上高は全体の20%強を占めるまで成長しており、Office事業の売上高は3割弱です。今後もクラウド事業は拡大を続けていくでしょうが、Office事業の重要性も引き続き高いと思います。

マイクロソフトは、クラウド事業最大の競合であるアマゾンAWSに対抗するために差別化を図っています。クラウド事業と言うと、データベースを提供するだけで品質差はないように思われるかもしれませんがそんなことありません。マイクロソフトのAzureはエクセルなどOfficeソフトとの連携を密にすることで、すでにOfficeソフト利用が浸透している企業への導入を促進しているようです。

マイクロソフトはハイテク企業の中でも、特にPLやキャッシュフローが美しい企業です。2017年株価はグングン伸びていますが、それでも配当利回りはギリギリ2%以上あってS&P500平均より高いです。マイクロソフトはITセクターの中で長期投資対象の候補としたい企業の一つです。

個人的な話ですが、ITセクターではIBMにのみ投資しています。もう1銘柄くらい追加したいとずっと思っており、マイクロソフトに想いを寄せていましたが株価が上がり続けて結局買えず仕舞いです・・。