企業の持続的な収益性を判定する上で「ネットワーク効果」は注目に値します。ネットワーク効果とは、利用者が増えれば増えるほど事業の価値が高まる効果で、結果として後発者がほぼ参入不能になります。
ネットワーク効果はその性質上、一部の大企業のみが持ちうる要素です。ネットワーク効果という強みを持っている企業はそう多くはありません。レアスキルみたいなもんです。
株式投資のいいところは、投資資金とリスクを取る勇気さえあればどんな企業の株も自由に売買できることです。ジョンソン&ジョンソン(JNJ)に社員として入社しようと思えば、高い学歴と立派な職歴が必要でしょうが、投資家としてJNJ株を買うのは誰でも可能です。どんな企業の株でも自由に買えるなら、せっかくなら超が付く優良企業の株を買いたいところです。
ネットワーク効果を持つ事業を行っている企業に目を付けて投資銘柄を探すのも一案ですね。
ネットワーク効果を持つ企業ってどんな企業が思い付きますか?
自分のこれまでの仕事経験から言わせてもらえば、マイクロソフト(MSFT)のoffice事業には高いネットワーク効果があると思います。今成長しているクラウドサービスAzureの事業ではなく、これまでの成長を支えてきた伝統的なOffice事業です。マイクロソフトOfficeとは、表計算ソフトのエクセルや文書作成のワード、プレゼン資料作成に便利なパワーポイント、メールシステムのアウトルックなどがあります。
マイクロソフトのOfficeソフトって凄まじいネットワーク効果があると思いませんか?
エクセルやワード、パワポなんてもはや固有名詞ではなく一般名詞化しています。
エクセルを使えないと経理で転職するのは相当困難です。第二新卒くらいだと「一から覚えます!」って勢いで言っても大丈夫でしょうけど、中堅以上の役職でエクセルが使えない経理マンなんかに仕事を任せることはできません。
あらゆる職場でエクセルが使われているもんだから、自分もエクセルを使えるようにならないとビジネスマンとしての価値が落ちます。転職マーケットでの価値が下がります。だからみんなエクセルを使おうとします。そうやって、指数関数的にエクセルは普及してきました。今、表計算ソフトという分野でエクセルの牙城を崩すのは99.9%無理だと思います。それはエクセルが世界一素晴らしい表計算ソフトだからではありません。エクセルにネットワーク効果が生まれているからです。先行者利益とも言えます。
エクセルよりも使いやすい表計算ソフトはあるかもしれませんよ。でも自分だけそれを今から使おうと思いますか?
そんなソフト使いこなせても、職場で貸与されるPCにダウンロードされている表計算ソフトはどうせエクセルですよ。社内の資料も全部エクセルです。そんな環境で「俺は最近発見したこの新しい表計算ソフトを使うぜ!、これめっちゃ使い易いんだよ。みんなもこっち使おうぜ!」って言ったって総スカンでしょう。どこの会社でも表計算ソフトと言えばエクセルが常識です。
求人票に「エクセルの操作スキル」ってあるのを見たことありませんか?
必要とされているスキルは”表計算ソフト”の操作スキルではなく、”エクセル”の操作スキルなんです。エクセルじゃなきゃダメなんです。
エクセルではないですが、個人的な体験談をちょっと話したいです。
20代前半監査法人にいた頃、社内のメールシステムはIBMのNotes(ノーツ)と呼ばれるものでした。新入社員だった私は他のメールシステムなんて知らないので、このノーツを3年間当たり前のように利用してきました。使いやすく特に不満はありませんでしたね。
で、その後某上場企業の経理に転職したのですが、そこで入社直後にとある理由で上司に怒られことがありました。
「お前は何で会議依頼に全く返信しないんだ!」って怒られました。
僕としては「はっ??、会議依頼ってなんやねん??」って感じでした。僕は社畜なんでとりあえず「すみませんでした。」って上司には頭下げておきました。いちいち面倒な言い訳はしない従順な社畜です、僕は。言い訳とか時間の無駄なんでw。
転職した企業のメールシステムはマイクロソフトのアウトルックだったんです。アウトルックを利用さている方も多いかと思います。私は、最初に入社した企業ではアウトルックは使ってませんでした。恥ずかしながら、アウトルックというメールシステムの存在すら知りませんでした。
アウトルックを利用している方はご存知でしょうが、アウトルックには会議依頼という機能があります。会議日時、場所、テーマを記入して会議参加依頼者にメールします。すると、アウトルックの予定表に会議予定が自動的に反映されます。しかも、会議前になるとアラートまで出ます。スケジュール管理にとても便利です。それまでIBMのノーツを使っていたのですが、マイクロソフトのアウトルックの便利さに感動したものです。
そのアウトルックの会議依頼に対して「承諾」・「仮承諾」・「辞退」の3つの内、どれかを選んで返信するのですが、僕はそのことを知りませんでした。会議依頼メールが来たら「あ、会議があるんだ~」くらいに流していました。
でも、僕の上司は「転職組なんだから当然アウトルックは知っているはず」という前提で接してくるわけです。すでに社会人経験3年もあるんだからアウトルックくらい使ったことあるのは当然だろという前提で、僕に怒鳴ってきたわけです。
メールシステムは表計算ソフトほどネットワーク効果は高くないかもしれせん。でも、少なくとも私の上司はメールシステム=アウトルックという認識でいたようです。
マイクロソフトのOfficeソフトには間違いなく高いネットワーク効果があります。それを仕事で実感しています。特にエクセルですね。ワードやアウトルックは、マイクロソフト以外の製品を使ってもすぐに慣れるかもしれませんが、表計算ソフトではエクセル以外を使うのはかなり難しいと思います。
エクセルって色んな操作が可能ですし、様々な便利な数式があります。あとショートカットキーというものもあります。これらは体で覚えるところもありますから、今さら別の表計算ソフトに乗り換えるなんてみんな拒絶反応を示します。エクセル使用禁止令なんて仮に出たら、全国いや全世界の経理財務マンが暴動を起こしますよ。
エクセルなどのソフトウェアを高い単価で販売して、莫大な利益を上げてきたのがマイクロソフト(MSFT)です。情報は複製するのにコストが掛からない点が特徴です。売上数量が増えてもそれに伴って原価が増えるわけじゃありません。テレビや冷蔵庫は、生産量が増えれば原価も当然増えますよね。でも、ソフトウェアなどの情報産業では複製にコストが掛かりません。その荒稼ぎできるビジネス構造が、マイクロソフトの美しいPLとキャッシュフロー計算書に表れています。数多くの米国大企業の財務諸表を見てきましたが、マイクロソフトの収益力はその中でもトップクラスです。
最近WSJで財務部門で「エクセル離れ」が進んでいると報道がありました。ですが、財務部門でエクセル離れが進むことは120%あり得ないですよ。マイクロソフトはクラウド事業からの収益の割合を増やそうとしていますが、昔からあるOfficeソフトの売上収入が今後もマイクロソフトの収益を下支えすることは不変だろうと思います。
マイクロソフトはハイテクセクターでもっとも長期投資に適した銘柄だと思います。
Hiroさん
こんにちは イトカネです
いつも面白い記事を書いていただきありがとうございます。
MicrosoftのExcelについては、ちょっと思うところがあるので意見交換をさせてください(もしお気にさわったら、このコメントは無視してください)
Excelはいろんな会社で重宝されているツールなのは間違いないです。
私の会社でもいろんな資料がexcel製です。
でも、この先もずっとExcelが利益を上げ続けるかはちょっと疑問があります。
私が気にかかっているのはgoogleの存在です。
Google は無料で使える表計算ソフトのgoogleスプレッドシート(以下、GS)を公開しています。
GSはexcelと若干の互換性を持っていますが、機能性はExcelに比べてチープなものです。
ただ、chromeの例があります。
chromeがでた当初、機能はいまいちで、IEのシェアが圧倒的でしたが、いまIEのシェアはchromeに追い越されています。
この先GSはExcelと完全な互換性を持ち、機能はよりリッチになり、そのシェアがExcelを追い越す可能性は実は高いと思っています。
もちろんこれは、他のoffice製品についても同じです。
そうなったときを考えて、Microsoftが古い事業に依存するのはちょっと危険かなと思っています。
イトカネさん、こんばんは。
なるほど、グーグルの表計算ソフトにエクセルの牙城を崩す潜在力があるのですね。
相手がグーグルとなれば、確かにそれだけの力はありそうです。
OSのchromeの件、よくわかります。
私も1年半ほど前までOSはマイクロソフトのIEを使っておりました。
特にこだわりはなかったですが、パソコン買うと初期設定が大体IEなので何も考えずにIEを使っておりました。
ところが、グーグルchromeの方が性能がいいらしいという噂を聞き付けてIEからchromeに変更しました。
今のところchromeに不満はありませんし、変更して良かったと思っています。
表計算ソフトはOSよりはスイッチングコストが高いように思いますが、エクセルと互換性があって操作感が似ていればGSは確かに普及するかもしれません。
マイクロソフト経営陣もそのような危機感があるからこそ、きっとクラウド事業に力を入れているのでしょうね。
今後GSがエクセルのシェアを奪って表計算ソフトの主流を勝ち取るには、エクセル+αの価値をどれだけ遡及できるかに掛かっていそうですね。
その価値は操作感とかの機能面では弱い気がします。操作感をだけをアピールしても、使い慣れたエクセルからGSに移行する人は少ない気がします。
他のシステムとの連携などでしょうか。
うちの会社の連結会計システムはオラクルHFMなのですが、HFMとエクセルは互換性があって非常に便利です。
HFMのデータを好きな形式でエクセルに吐き出して分析することができるアドホックという機能があります。
ただし、多少操作を覚える手間が必要ですが。
グーグルは情報世界を支配している企業ですから、GSを普及させるために色んな手段がありそうですね。
ネットワーク効果がありますから、一度エクセルのシェアを奪い始めたら一気にGSが広まるかもしれません。
IT業界にお勤めのイトカネさん独特の視点のご意見で、大変勉強になりました。
GSという存在を覚えておきますね。
コメントありがとうございました。