※ちょっと会計テクニカルな話を失礼します。

 

最近、主要米国企業の2017年12月期決算をチェックしています。その中で感じていることですが、どの企業もGAAP利益(普通のEPS)とNon-GAAP利益(調整後EPS)にかなり大きな差があります。会計上の純利益に一時的な損益がかなり含まれています。これがヤフーファイナンス等で表示される2017年度実績利益ベースのPERを歪めています。

2017年度実績PERをそのまま信用しない方がいいです。

ほぼすべての企業の2017年度決算に影響を与えているのが税制改革です。米国は連邦法人税率を35%から21%に引き下げました。減税対象年度は2018年からですが、会計上は2017年決算から影響してきます。

ここでちょっと注意が必要なことがあって、今回の法人減税が2017年決算にプラスの影響を与えている場合もあれば、マイナスの影響を与えている場合もあります。プラスの影響を与えている場合にはEPSが過大になり実績PERは不当に低くくなります。マイナスの影響を与えている場合はEPSが過少になり実績PERが不当に高くなります。

法人税なら、普通に考えれば費用が減って利益が増えると思いますよね。でも僕は多くの企業にとって減税が2017年の純利益にマイナスの影響を与えるはずだと想定していました。なぜなら法人税率が下がることで繰延税金資産の評価額が下がると思っていたからです。実際に過去日本で法人税率が下がった時、多くの企業が減益決算となりました。

でも実際に蓋を開けてみると利益を押し上げているケースがかなりありました。また、利益を押し下げているケースもありましたが、それは繰延税金資産の評価額減少ではなくレパトリ減税によるものでした。ちょっと想定外でした。会計専門っぽくなって申し訳ないですが、少し説明したいです。

 

米国企業は繰延税金”資産”ではなく、繰延税金”負債”を計上していることが多い←知らなかった!

繰延税金資産って難しい言葉ですよね。。こんな難しい言葉を持ち出して申し訳ないです。この内容はちょっと会計テクニカル過ぎると思いましたが、個人的にかなり意外だったので記事化させて頂きました。

日本企業は大抵どこも繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産とは会計上は費用になるけど税務上は損金にならない場合に、将来税務上損金になって税金を減らしてくれる効果を資産計上したものです。繰延税金資産の金額分、将来の法人税が減るというわけです。将来の税金を減らすものだから資産として扱われます。

日本の法人税制は保守的なところがあって(税金だから当然ですが)、会計上は費用であってもそれを税務上損金に認めてくれないケースが多いです。たとえば、棚卸資産の評価損を会計上でbookしても税務上は認めてくれません。あとは減損も税務上は損金になりませんね。こんな感じで税務上の損金計上のハードルが高いと、どうしても繰延税金資産が多くなります。

で、アメリカも同じだと思ってたんです。アメリカの法人税制も日本と大きく変わることはなく、やっぱり主要米国企業は多額の繰延税金資産を保有しているはずだと思っていました。

でも実際は違いました。

米国企業は金融機関だけは日本と同じく繰延税金資産を持っていることが多いです。恐らく、貸出金や運用資産に対する引当金が税務上の損金にならないからでしょう(推測です)。

ただ、米国の金融機関以外の事業会社は繰延税金資産を計上していないことが多いです。むしろ、繰延税金”負債”を計上していることの方が多いです。繰延税金負債とは会計上は利益になるけど税務上は益金にならない時に計上されます。まあ、繰延税金資産の逆です。将来の法人税を増額させる効果があるものです。なので負債となります。

米国企業は日本企業と違って、繰延税金”負債”を計上していることが多いようです。これは知りませんでした。かなり意外です。

 

繰延税金負債があると減税によって利益が出る

繰延税金負債は以下の数式で算出されます。
繰延税金負債=将来加算一時差異×税率

「将来加算一時差異」って言葉は忘れて下さいw。要は言いたいことは、税率が下がると繰延税金負債の評価額も下がるということです。負債が減るってことは利益が出るってことです。

税率が35%から21%になると繰延税金負債はこんな感じで再評価されます。
減税前:100×35%=35

減税後:100×21%=21

繰延税金負債が35から21に14減りますね。その減少を仕訳で書くとこうなります。
繰延税金負債 14 / 法人税等 14

負債が減ると利益が出ます。法人減税によって2017年度EPSが急伸している企業が多いですが、大抵はこのロジックです。多くの企業が「繰延税金負債の再評価によって・・」という注記を開示しています。これが利益を押し上げて実績PERを低く見せています。

 

米国外留保利益に繰延税金負債を計上していない企業は、レパトリ減税によって追加費用処理が必要になっている

法人減税で2017年度決算に一時的な利益が出ていると申し上げました。

ですが、企業によっては逆に今回の税制改革でむしろ費用処理が必要になって、EPSが過少になっているケースも散見されます。

これは、レパトリ減税が影響しています。レパトリ減税とは、米国外留保利益に対して15.5%(8%の場合もある)の低減税率で一括課税するものです。この一括課税分を納付すれば(8年間の分納)、それ以降は一切税金が掛かりません。あとは企業が自由に資金を使えます。これによって、米国内への資金還流が促されることが期待されています。

この米国外留保利益に対して強制的に課税が決まったので、留保利益を持つすべての企業が税金費用の計上を迫られています。8年間の分納とは言え、その費用処理は2017年ですべて実施する必要があります。会計とキャッシュはズレます。

ただですね、この米国外留保利益に対してはレパトリ減税が決まる前から税金費用を計上している企業もあります。てか、それが普通です。いつか遅かれ早かれ米国に利益を戻してそこで課税されるんだから、予め税金コストをbookしておくのは珍しいことではありません。

ところが、大手米国企業の決算書の注記を見ていると意外に米国外留保利益に対して税金費用を認識していません。なので、今回のレパトリ減税によって(低減税率とは言え)追加の税金費用の計上を求められているケースが散見されます。たとえば、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)は、米国外留保利益に対する税金費用を2017年決算で計上したことでEPSはかなり減少しています。JNJの実績PERは200倍超とアマゾンばりになっています。もちろん、このPERは実態を表してはいません。

 

税制改革によって米国企業の2017年度決算は荒れている。

税制改革によって米国企業の2017年度決算の利益が改善するケースも悪化するケースも両方あり得ます。

改善:繰延税金負債の評価額引き下げ
悪化:レパトリ減税に伴う米国外留保利益に対する税金費用認識

この2つが要因のケースが多いです。ちょっと会計テクニカルですね。。とにかく、税制改革によって米国企業の2017年度利益が実態を表していないケースが多いということです。それは、利益プラスの場合もあれば、利益マイナスの場合もあります。ブルームバーグによれば3分の2が改善、3分の1が悪化のようです。

米国企業の2017年度の純利益・EPS・PERなどを見る時は注意しましょう。