トランプ大統領は昨日12月22日に米国税制改革案に署名しました。これで正式に法案成立です。2018年から米国の法人税率は35%から21%へ大幅に低下します。あれよあれよという間に法案が成立しちゃいましたね。ここまでスピード感ある意思決定ができたのは、大統領も上下両院ともに共和党だったことが大きいと思います。トランプ大統領と共和党にとって大きな成果となりました。

さて、今回の法人税改革の目玉が法人税率の引き下げなのは間違いないですが、それ以外にも米国企業の収益に影響を与える論点が複数あります。自分が勉強した範囲にはなりますが、税制改革の主な論点とそれが米国企業に与える影響について書きたいと思います。

 

法人税率 35%→21%

先ずは度々メディアでも取り上げられている連邦法人税率の引き下げです。

2018年1月1日から適用となります。12月決算の会社以外は、決算期が2017年と2018年をまたぐことになりますが、2017年は35%、2018年分は21%が適用されます。

たとえば、3月決算企業の場合、適用税率はこうなります。

2017年12月までの9か月間の利益には従前の35%の高い税率が適用されます。2018年1月~3月までの3か月間の利益については、きちんと引き下げ後の21%の法人税率が適用されます。

まあ米国企業は大半が12月決算なので関係ありませんがね。2017年度決算は35%、2018年度決算は21%とスパッと切れる企業が多いです。日本企業は3月決算が多いですが、米国での利益については上記のような適用税率となります。

法人税率引き下げの恩恵を受けやすい企業は、米国内での売上高が大きい企業です。米国の法人減税なので米国利益が対象となります。具体的な企業名を挙げれば、アルトリア・グループ(MO)、AT&T(T)、ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)、デューク・エナジー(DUK)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)などですね。

米国外での売上規模が大きい企業は、法人税率引き下げの恩恵は少ないです。たとえば、製薬大手ファイザー(PFE)の法人税負担率はすでに15%を切っています。

ところで2018年度から減税なら、普通に考えるとなるべく利益は2017年ではなく2018年に後ろ倒しで計上したいインセンティブが働くでしょう。費用は2017年度に前倒しで計上できるとお得です。まあ、TaxはAccounting以上にレギュレーションが厳しいので、そんな簡単に操作できるわけではありませんが。ただ、当局も全部が全部調査できるリソースはありません。2017年はなるべく利益を過小にしておきたいと思う経営者は多いでしょう。それがどう2017年度決算に表れるかは分かりませんが。

 

有形固定資産の一括償却

有形固定資産は、一定の年数で徐々に費用化していくことが原則です。7年間稼働する見込みの機械設備であれば、購入時に即費用化するのではなく、7年間にわたってゆっくり費用化していきます。この会計処理を減価償却と呼びます。

減価償却を行うことで、設備投資によるキャッシュアウトが即PLを悪化させることなく将来の期間でならすことができます。PL的には減価償却は優しい制度です。しかし、税務的には優しくないです。法人税計算上は本来は減価償却なんてしたくないです。なるべく早めに費用化(損金処理)して税金を減らしたいと思うのが普通です。ただ、建物や機械などの有形固定資産は一定の年数で減価償却することが決まり事です。ルールですから、それを即損金にすることはできません。

しかし、今回の税制改革で特定の有形固定資産について一括償却(購入時即損金処理)が可能となりました。期間に縛りがあって、2017年9月28日以降、2022年12月31日以前に取得された資産が対象です。2022年までが一括償却可能な期間なので、なるべく2022年までに多額の設備投資は済ませておきたいと考える経営者が多いでしょう。

ただし、償却期間が20年超の資産は対象外です。償却期間が20年を超える有形固定資産って具体的には工場建物や本社建物です。これらの100億円を超えるレベルの支出までは、さすがに一括償却させると税収減が大きいので除外したと思われます。

さて、この有形固定資産の一括償却制度が有利に働く企業は設備投資が盛んな産業です。具体的な企業としては、通信インフラ企業であるAT&T(T)やベライゾン(VZ)は、この税制の恩恵を受けると思われます。

一つ注意点があります。電力・ガス・水道等の公共ユーティリティ事業を営む会社は適用対象外です。なので、デューク・エナジー(DUK)やネクステラ・エナジー(NEE)、サザン(SO)などの公益企業は設備投資が多いビジネスですが、残念ながら当税制の恩恵を受けることはできません。

 

支払い利息の損金算入制限

銀行からの借入金や社債には利息が発生しますよね。それは企業にとって費用です。その利息費用は法人所得計算上今までは損金算入可能でしたが、今後は一定の制限が掛かります。

EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の30%を超える支払利息を損金不算入とします。
(2022年以降は厳しくなってEBIT(利払い前・税引前利益)の30%が基準値となる。)

これは安心しました。私はずっと支払利息はすべて損金不算入になるものだと思い込んでいました。そうではなく、上限を超える利息が損金不算入になるだけでした。これは朗報です!

具体的に計算はしていませんが、長期投資の対象になるような優良米国企業は、EBITDAが莫大なので、今後も支払利息は損金算入可能だと思われます。恐らくですが、利息が損金不算入になってしまうのは収益力が低く、資金繰りを高いレバレッジで乗り切っているような企業だけになると思います。

ベライゾンやAT&Tは積極的なM&Aを実施していることもあって多額の負債を抱えているので、これら負債に対する支払利息が損金不算入になるのでは、と私は心配しておりました。しかし杞憂だったようです。ベライゾンやAT&Tの支払利息は今後もきちんと損金算入されるでしょう。

WSJによると、米百貨店大手JCペニーは利息の一部が損金不算入になって悪影響があるそうです。最近、総合百貨店の業績は落ち込んでいますが、今回の税制改革がさらなる重しになるかもしれません。

 

既存の海外留保所得への低率課税(レパトリ減税)

今までは、米国企業が海外で稼いだ利益について、本国還流時に35%の税金が課されるルールでした。これを嫌って、海外利益が米国内になかなか戻ってこない事態となっていました。

今回の税制改革において既存の米国外留保利益について一時的に低い税率で課税して、課税関係を終了させることになりました。より具体的には、現金同等物として保有している部分には15.5%、事業資産に再投資している部分には8%の税率が課されます。

今まで海外に利益を溜め込んでいた企業はラッキーです。海外留保利益が多い会社としては、アップル、ファイザー、メルク、アムジェン、シスコシステムズ、クアルコム、マイクロソフト、アルファベット、フェイスブックなどがあります。

また、米国外利益に対して一括課税されますが、納付は8年間の分納です。企業の資金繰りを悪化させないよう配慮されています。

 

全体的に見て、AT&Tやベライゾンにはかなり有利な税制か・・

法人税率引き下げ以外の項目を加味すると、今回の税制改革でもっとも恩恵を受けそうなのはAT&Tやベライゾンなどの通信インフラ企業かなという印象です。

AT&Tは全従業員に1,000ドルの特別賞与を支給するそうです。羨ましい。。トランプ大統領は減税を国民へのクリスマスプレゼントにすると宣言していましたが、AT&T社員には、本当に素敵なクリスマスプレゼントが届いたようです。

ただし、AT&Tのように減税分を従業員に還元するってことは、減税の恩恵が株主から従業員に移転してしまうことを意味します。がめつい発想かもしれませんが、株主利益を追求するなら減税によって従業員の給料を上げなくていいような企業が投資家的には理想です。
(参考記事)
法人減税の恩恵を受ける真の勝者は、地味で高収益なビジネスを持つ優良企業