2003年、悲しい事件がありました。

当時りそな銀行の監査を担当していた担当会計士が自宅マンションから飛び降りて自殺しました。38歳でした。彼は若くしてシニアマネージャーになり、りそな銀行の監査チームの現場トップを務めていました。大手銀行の監査チームのトップを務める人は監査法人内でも飛びぬけて優秀な人だけです。

彼がなぜ自殺したのか真意はわかりませんし、勝手な憶測は不謹慎なので止めておきます。

当時、りそな銀行の決算はとある論点で揺れていました。

それは繰延税金資産の計上可否です。

自殺した担当会計士は、りそな銀行にも一定の繰延税金資産を計上できる余地があると判断していました。一方で、監査法人は担当会計士の意見とは異なり、繰延税金資産の計上は一切認めないと判断しました。

りそな銀行にとって繰延税金資産の計上可否は死活問題でした。監査法人が言う通り繰延税金資産の計上を認めないとなると、りそな銀行は資本不足に陥る状況でした。銀行は自己資本が不足すると営業停止となります。結局、りそな銀行は繰延税金資産を取り崩すことになりました。その結果自己資本不足となり、公的資金が注入されました。

繰延税金資産の計上可否の論点は、金額が多額になることも多くまた見積もりの要素も介入するため、大きな論点となることがあります。上記の通り、その判断次第で企業の生死を左右することすらあります。

ただ、会計は所詮記録に過ぎないというドライな視点も必要です。繰延税金資産と聞くと取っ付きずらく難しく感じますが、あくまでも法人税の記帳方法の問題に過ぎません。

会計はキャッシュフローを期間按分しているだけです。売上のキャッシュインは今期に200あったけど、会計上は今期に100、来期に100計上するといった感じです。

繰延税金資産の計上をどうやろうとも、法人税の支払額は変わりません。法人税自体は税法に則って淡々と支払うのみです。その法人税支払いというキャッシュアウトを適切に期間按分しようとするがために、繰延税金資産なる論点が出てきます。

あくまでも中心はキャッシュフローです。会計はキャッシュフローに従属します。長い目で見れば会計とキャッシュは一致します。それは税金も例外ではありません。