公認会計士、監査人と言えばとにかく数字に細かい人って印象をお持ちかもしれません。実際その通りで、経理部や監査法人には細かい(几帳面な)性格の人が多い印象です。

ただ、僕はあまり細かい数字にこだわるのは好きじゃないです。なぜかと言うと、投資家に会社の業績をストーリーとしてざっくり会計数字で伝えることが重要だと思っているからです。あ、ちなみに僕はO型です。

売上高1000億円の企業と聞いてあなたは何をイメージしますか?

まあまあ大きな企業だな~くらいに思うだけですよね。それ以上何も考えれないはず。そりゃそうです。数字とはあらゆる具体的内容を切り捨てた抽象化の極みですから。売上高1000億という数字だけを見ても、その企業がどんなビジネスをやってるかなんて、わかるはずがありません。

売上高1001億円の企業って言われても、1000億円とそんなにイメージは変わりませんよね。1000億円と1001億円、1億円が占める割合は0.1%しかないから無視できるレベルですよね。

仮に正しくは売上高1000億円なのに、誤って1001億円でPLを開示してしまっても、投資家の判断に大きな影響は及ぼさないはずです。この1億円の違いでガイダンス達成するしないとかになれば、話は別かもしれませんが。

企業規模によりますが、たとえば売上高1兆円の企業なら1億円の数字のミスは別に気にしません。別に会計ミスをしても良いってわけじゃないですよ。粉飾決算なんて言語道断です、言うまでもなく。

要は重要性ってことです。投資家に誤解を与えない程度の金額なら、誤りがあってもパスします。ちなみに会計監査の世界にも「重要性の基準値」という概念があります。何でもかんでも細かいところまで追求してチェックしません。

会計は英語でAccountingですが、これはAccount for(説明する)が語源です。経理部は投資家に業績の内容と背景を説明する義務があります。それが仕事です。決算書を作って終わりじゃありません。

1円単位で正確に作った財務諸表を投資家に見せて、「はい、どうぞ。ご自由に見て下さい。あとは自己責任で投資判断してね!」っていうわけにはいきません。どれだけ正確に決算書を作っても、それをただポイってマーケットに投げ込むのは無責任。きちんと資料やプレゼン、質疑応答を通して投資家とコミュニケーションを取らなくちゃいけません。IRとはInvestor Relationsの略です。大事なのはRelation(関係性)を築くこと。

「1円レベルで正確に決算書を作りたい!」っていう気持ちはわかる。そういう意欲ある若手の正義感を、むやみに否定したくはない。むしろ応援したい。

でも、時間は有限。月末過ぎてからよーいドンで締め作業をやって、短信など諸々の決算書を作りつつ、分析もしなくちゃいけません。完璧を目指したい気持ちはわかるけど、重箱の隅をつつくような論点にまでこだわっていたらタイムオーバーになります。

正確に決算書を作ることは大切だけど、1円単位の正確性はいらない。投資家にメッセージ、ストーリーが伝わればOK。

自分の家計簿なら好きなようにどこまでも正確性を追求すればいいです。でも、企業の決算書は自己満じゃダメですね。投資家というお客さんに届けるものですから。その辺の意識を若手の後輩達になかなか持ってもらえないなって、最近よく悩みます。仕事熱心で細かい事にこだわるのは別にいいんだけどさ・・。

経理って几帳面な人が向いてる面もあるんだけど、いい意味で大雑把さが必要な時もあるんですよね。

経理って誰のための仕事なのかわかりづらい。主に証券市場(株主、投資家)のために仕事やってるんだけど、実際に株主、投資家というお客さんの顔は見えないから。「決算書作ってくれてありがとう」と投資家に感謝の言葉をもらえることは、たぶん一生ない。新しく経理に配属になる若い子たちのモチベーションがいまいち低いのは、そこに原因があるんだろうなって推測してます。