今日のNewsPicksのオリジナルコンテンツに無形資産経済についての話題があったので、それに便乗して無形資産の会計ネタについてちょっと話そうかなと思います。良かったらお付き合いください。
現代の大企業、とりわけ市場を牽引するハイテク企業のコア・コンピタンスは無形資産であることが多いです。NewsPicksに取り上げられていた例としては、アップルの「デザイン」、「ソフトウェア」やコカ・コーラの「ブランド」、グーグルの「アルゴリズム」などがあります。
これらはすべて貸借対照表(バランスシート)の資産の欄に載っていません。バランスシートを見ても企業の実態を掴めないと、しばしば現代会計が批判されるところです。投資家目線で言えば、PBR(株価純資産倍率)を見ても割安度はほとんど測れないことになります。バランスシートの純資産と収益力の相関関係が希薄だからです。
では、なぜ無形資産は資産計上されないのでしょうか?
目に見えないから?
確かに、アルゴリズムもブランドも物理的に存在はしません。でも、だからって資産計上されない理由にはなりません。たとえば、M&Aで生じる「のれん」は目に見えないけど、資産計上されています。ソフトバンクグループは4.5兆円の「のれん」をバランスシートに計上しています。
資産計上するかしないかの境目、それは会社外部から購入したか会社内部で構築したかです。
会社外部から購入:資産計上しやすい
会社内部で構築:資産計上しづらい
無形資産は会社内部の優秀な研究者やエンジニアが構築、創造することが多く、結果としてバランスシートに計上されないことが多いというわけです。アップルの「デザイン」、コカ・コーラの「ブランド」いずれも外部から調達できるものではありませんよね。
目に見える見えないは、会計処理の違いをもたらす本質ではありません。
例えば、社内の研究開発で特許を取得したとします。その特許が会社の収益に貢献したとしても、その特許権は資産計上されません。一方で、別の会社から10億円で特許を購入した場合、その特許権は10億円で資産計上されます。同じ特許権でも、会社内部で取得した場合と会社外部から購入した場合とで会計処理が異なります。
では、なぜ外から買ってくるケースと内で構築するケースとで会計処理が異なるのか?
それは資産価値の客観性の問題です。
上場企業の財務諸表は投資家、債権者等の利害関係者に開示されるものです。その財務データを見て自分のお金を投じるかあるいは引き上げるか検討します。財務諸表は一定のルールの下、比較可能性を担保し、できる限り客観的な証拠に基づいて作成される必要があります。
第3者から購入する際の対価というのは非常に客観性が高いです。別の会社から特許権を10億円で購入する場合、その10億円という対価には意味があります。10億円払うだけの経済的価値があると会社が判断したからこそ成立する取引です。その特許権を自社の技術と融合することで投資額以上の収益を上げられると見込めるから、10億円も払うわけです。社内の稟議決裁も通過しているはず。
合理的な経済主体が取引しているわけだから、外部購入価額というのは資産計上できるだけの客観性のある金額と言えます。精度の高い時価というわけです。監査法人にも証拠を示しやすいです。
一方で、会社内部で無形資産を構築した場合、その価値を第3者が納得するような客観的な金額で測定することが困難です。
とある社内のチームがアルゴリズムを開発し、それが会社に収益をもたらすなら、そのアルゴリズムには経済価値があると言えます。が、果たしていくらで資産計上すべきでしょうか。開発チームが30人で構成され、一人当たりの給料が年800万円としたら、30×800万円=2.4億円の人件費を資産計上するのでしょうか?
いや、それはあくまで従業員に支払った固定給であって、そのアルゴリズムの経済的価値を反映しているとは言い難いです。じゃあ、そのアルゴリズムが生み出す将来収益を見積もって資産計上する? でも、そんなのわかるでしょうか。第3者、特に監査法人は納得するでしょうか。
難しいのが現実です。会計には保守性の原則というのがあって、費用はなるべく早めに、収益は慎重に計上します。会計には借方と貸方の両面があります。(無形)資産を計上するということは(借方)、それと同時に収益を認識することになります(貸方)。会社の見積もりで安易に収益を計上すると投資家を誤解させる恐れがあります。なので、会社内部で構築した無形資産を会社独自の算出結果でバランスシートに計上することは原則としてできません。
全くできないわけではないですけどね。たとえば、IFRS(国際会計基準)は一定の要件を満たせば開発費を資産計上することを認めています。しかし、この要件はかなり厳しいし、資産計上できるのはあくまで発生した実費ベースであって、その開発が将来生み出す成果までを資産価値に反映させることはできません。
そんなわけで、内部で構築することが多い無形資産はバランスシートにほとんど計上されません。目に見えないからというわけじゃないです。ちなみに、「のれん」はM&Aによって外部から購入するから資産計上可能というわけです。
投資家と企業活動の間にある情報の非対称性とも言うべき無形資産をどのように見抜くか。それが投資家にとって株式投資における超過収益を得るための源泉なのかもしれませんね。
おっしゃる通りですね。
さらに言うとバランスシートの無形資産を見抜こうと意識するより、キャッシュフローとPLを見ればいいだけとも言えます。
バランスシートの無形資産の利益創出力がそこに表れているからです。
なるほど確かにPLとキャッシュフロー計算書においては無形資産から創出される利益が現れますね。あまり考えたことがない視点でした。ありがとうございます。無形資産が生み出す利益は将来実現されることも多いと思われるのでファンダメンタルズ分析による定量的な分析に加えてその他の手法による定性的な分析とのバランスを保つことも大事なのかもしれません。
現代の経済環境では、特に大企業となれば、バランスシートを見るのは目前の財務安全性を確認する時くらいです。
株価の価値とは将来収益の割引現在価値なわけですし、結局PL、キャッシュフローから株価の妥当性を判断するしかないかなと思います。
事業会社のPBRはもう何を示すでもない数字だなと思っています。