ペイパル大暴落、予測不可

金利が上がってきて今年はグロース株がやられています。ズームやドキュサインなど。大型株もメタ(フェイスブック)やネットフリックスが下げていますが、個人的に衝撃度1位はペイパル(PYPL)の暴落です。

以下は直近1年、5年のペイパルの株価チャートです。

(Seeking Alpha)

2021年の高値は310ドルで現在の株価は110ドル。高値から半値以下、67%の下落率です。

ズームやペロトンがこういうチャートになってもそこまで驚かないです、失礼ながら。規模もさほど大きくないし、PLを見てもワイドモート企業には見えないからです。

こういう銘柄は見通し悪化と金利上昇圧力のダブルパンチが来たら半値になるくらい投資家も想定済みでしょう。

しかし、高い利益率、成長率を誇り、時価総額が3千億ドルを超えていたペイパルでこれほどの暴落が起こるというのは想定外というか、心の準備ができてない投資家が多かったのではないでしょうか。

私は驚いています。ズームなどの新興グロース株、ハイパーグロース株に興味を持ったことはないですが、ペイパルのような優良グロース株は個別での投資もありだと真剣に考えていました。

売上高はこの10年で5倍に成長し21年度は250億ドルに達しました。配当こそ出していませんが、純利益額に匹敵する自社株買いを行っており、実質還元ステージに差し掛かっているようにも見えました。

マーケットからの評価も高かったです。あと2年、3年でビザの時価総額を追い抜くだろうと思っていました。しかし、今や時価総額はビザの半分にも及ばない水準です。

きちんとペイパルのアカウント数、業績をウォッチしている人ほど買いたくなる銘柄ではないでしょうか。未来は過去の延長ではないとは言え、個別株の難しさを痛感します。

ペイパルを高値掴みしてしまった人が投資スキルがないとか、そういうことは全くないでしょう。どちらかと言うと運が悪かっただけだと思います。

運と言うと売り抜けることができた投資家に失礼かもしれませんが、その売却判断にどれだけ合理的な根拠があったか聞きたいところです。

個別株投資、というか株式投資自体、特に短期的にはどうしても運の要素はあります。

ランダム性とは不知と同義である

わたし、ナシーム・ニコラス・タレブの著書には結構影響を受けました。彼の考え方、視点はユニークです。言いっぷりがインテリ過ぎて読むのが難しいところもありますが、7割理解できればいいやという気持ちで読んでました。

『まぐれ』か『ブラック・スワン』かどっちだったか忘れましたが、タレブはこんなことを言ってました。

「たとえば、電車で目の前に妊婦が座っているとする。その妊婦のお腹の中にいる赤ちゃんが男か女か私にはわからない。50:50の完全のランダムである。しかし、その妊婦自身および彼女の産婦人科の担当医にとってはランダムではない。診断を受けていれば、お腹の赤ちゃんの性別が男か女かすでに知っているのだから。」

タレブにとって見知らぬ女性から生まれてくる子供の性別は完全にランダムですが、その妊婦さんにとってはランダムではないです。

すっごく当たり前のことを言っているだけなのですが、これがランダムとはすなわち不知ということを示しています。

つまり、ランダムかどうかは客観的に決められるものではなく、人それぞれの主観、知識、情報に左右されるということです。

先日、私が勤務する会社の決算発表があったのですが、翌日株価は急落しました。今期および来年度の利益見通しが期待外れだったからです。特に欧米のインフレの影響です。

一般投資家にとって弊社株価の動きはランダムに見えるでしょう。決算発表翌日に上がるか下がるかは50:50とまで言いませんが、どっちに転ぶかわかりません。

でも、私は99%急落するとわかっていました。なぜなら、ガイダンスが悪いことを予め知っていたからです。私にとって決算発表後の自社株価の動きはランダムとは言い難いです。

同じくペイパルの経営陣、経理部門の人たちにとって昨今のペイパルの株価の動きはランダムには見えないはずです。22年度のガイダンスが悪いことを知っていたからです。

株価の動きはランダム、複雑系なんて言われることがあります。株価が上がるのか下がるのか、そこに法則性はなく完全にランダムであると。

その通りと思うのですが、それは株価自体の性質というよりも、私たちが不知だからという理由の方が大きいです。企業の株価に影響を与えるすべての情報を手に入れるのは機関投資家でも不可能ですから。

もしも未来も含めあらゆる情報を知っている全知全能の神様がいたら、その神様にとって株価はランダムではないかもしれません。

日本の個人投資家なんてどうあがいても、米国企業、米国経済に関して不知になってしまいます。特に日本でビジネスをやってない企業についてはわからないことが多いです。ベライゾン、AT&T、ホームデポみたいな。アメリカのスーパーの値上がりも肌身で感じることはできません。

無知の知くらい言われなくても理解しているよって話ではありますが、改めて無知の知を意識すべきだなと思いました。

私にとって個別株の値動きはランダムです。長期的にもランダム要素が高いです。よって分散が欠かせないし、場合によっては米国株以外の資産クラスも一部は持っておくべきかもしれません。

と、こんなことを考えさせられるくらいに今回のペイパル暴落はショッキングでした。

自分のポートフォリオの10%近くを占めるアップルで同じような暴落が起きないとも限りません。ブラックスワンは事前に予測できないからこそブラックスワンと言われるわけです。予測しようなんて思わず、マーケットに居続けるために分散を徹底するしかないです。