1月の雇用統計で賃金が上昇し、インフレ期待が高まったことをきっかけに2018年の米株式相場はやや荒れ模様です。「荒れ模様」と言いましたが、2017年の穏やか過ぎる環境からいつもの相場に戻ったと言う方が正確かもしれません。
S&P500指数は1月の高値(2,872)から下落はしたものの、依然としてPERは17倍です。割高でもなく割安でもない感じです。
S&P500指数のPERに割安感はありませんが、個別銘柄を見渡せばS&P100を構成するような大手企業の中にも割安感かもと思わされる銘柄があります。その中の一つがIBMです。IBMの2018年予想EPSは13.8ドルで現在の株価は144ドルです。PERは10.4倍(144÷13.8)とS&P500に比べてかなり低い数字です。最近のIBMのPERは11倍付近です。
私はマイ・スタンダードとして、以下を割安銘柄の条件としています。
・PER11倍以下
・グローバル企業
・高収益な優良企業
これはかなり厳しい条件だと自覚しています。将来の成長余地がまだまだあるグローバル(優良)企業のPERが11倍まで下がるのは、そうあるもんじゃありません。
IBMのPERは現在11倍を割っています。ではIBMは割安なのでしょうか?
私はIBMは割安かもしれないし、割高かもしれないと思っています。
「なんじゃその曖昧な回答は?」って思われるかもしれませんが、これが私の本音です。IBMは今は割安でここから時間をかけてグングン株価を伸ばす(=増配していく)のか、もしくはPER11倍の今ですら割高で今後株価がさらに落ちるのか、どちらかだろうと考えています。もちろん株主として前者の未来を期待していますが、不安なのでポートフォリオに占める割合はMax5%としています。
PER11倍ということは、普通に考えれば成長横ばい
PERは必ず逆数で考えるクセを付けた方が考えやすくなりますよ。PER11倍って聞いてもピンと来ないと思いませんか?逆数にしましょ。益回りで考えましょ。
PER11倍ってことは株価が利益の11倍ということです。逆数で考えるということは主語を入れ替えるということです。主語を株価ではなく利益にしましょう。つまり、利益が株価の1/11ということです。1/11=約9%ですね。PER11倍ってことは益回り9%ってことです。
株式益回りが9%、、僕はこれを一つの目安の数字にしています。なぜなら、米国の期待インフレ率2%を差し引くと、歴史的な株式の実質リターンである7%になるからです。PER11倍ってことは、今後インフレ率と同じ利益成長しかできなくとも(つまり実質利益ゼロ)、7%のリターンを確保できることを意味します。
マーケットは合理的です。PER11倍ということは、その銘柄は今後はそれほど利益成長できずに、概ね現状の利益水準が継続するだろうとマーケットが評価していることを意味します。PER11倍なら、利益も配当も株価も横ばいが続くだろうと考えるのが自然です。
リーマンショックのように相場が恐怖感に覆われて、あらゆる銘柄が叩き売られている環境で優良株がPER11倍まで売られている時は別ですが、最近のように相場に大きな不安感がない中でPER11倍当辺りで推移している銘柄は、利益横ばいが続くとマーケットに評価されていると言えます。一般論としては。
IBMのPERは11倍だけど、マーケットはIBMの利益成長が横ばいと評価しているとは思えない。
IBMのPERは11倍です。ってことは、マーケットはIBMの利益が今の水準から横ばいで推移すると評価しているのでしょうか?
僕の勝手な意見ですが、それは違うと思います。IBMの利益がこれから10年、20年横ばい(せいぜいインフレ率程度の成長)が続くと考えている投資家はほとんどいないと思います。
じゃあ何でIBMのPERは11倍で放置されているのでしょうか?
さっきも言いましたが、PER11倍ってことは利益横ばいで平均リターン得られるバリュエーションです。
IBMに期待している投資家と、IBMに悲観している投資家の平均として今のPER11倍という株価が値付けされているのかな~という印象を私は持っています。
「IBMはこれから復活して利益・配当は大きく伸びるはずだ!IBMのPERはせいぜい市場平均の17倍くらいが妥当だ」と楽観的に考えている投資家と、「いやいやIBMはもう落ち目だよ。アマゾンやマイクロソフトがいる中で、IBMが活躍できる場はもうない。PER11倍でも割高だね。」と悲観的に考えている投資家の平均値として、今のPER11倍の株価に落ち着いてる印象を持っています。
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こんなイメージです。PER11倍ですが、このまま横ばいで推移することはないかな~と。今は投資家がIBMの将来を見極めているところで、楽観派と悲観派の意見が相まってPER11倍の株価に落ち着いてる感じです。
10年、20年後振り返った時、今2018年のIBMの株価が妥当だと言える可能性はほぼゼロだと思うわけです。割安か割高かどちらかだろうと。もちろん割安であって欲しいですが、IBMの将来がどうなるか私には分かりません。
IBMの「戦略的必須事業」のマージンはかなり高い。
IBM経営陣が「戦略的必須事業(strategic imperatives)」と呼んでいる領域があります。具体的には、ソーシャルネットワーク、モバイル、アナリティクス、クラウド、セキュリティ技術です。この領域の利益率は圧倒的に高いです。
2016年、2017年とIBM全社の営業利益率は15%を割っていますが、「戦略的必須事業」の一角を占める”Cognitive Solutions”のそれは30%を超えます。営業利益率30%超って驚異的なマージンです。この領域が伸びて継続的に利益を上げ続けことができるとマーケットが確信すれば、IBMのPERが11倍で評価されることはあり得ないでしょう。一方で、この新興ビジネスがうまく軌道に乗らなければ、IBMの成長は厳しく今のPER11倍でさえ割高かもしれません。
私はIBMのビジネス領域について全くもって専門外で詳しくなく、そういうビジネス視点での判断ができません。IBMの明るい未来を確信できている投資家にとって、今の株価は相当割安に見えていることでしょう。どっちにも判断付かない私にとって、IBM株は割安かもしれないし割高かもしれないとビビりながら投資する対象になっています。
こんな感じです。今のIBM株に対して持っている印象はこんな感じです。
こんばんは、私もいくらか保有していますが売り上げ減に歯止めが掛かりつつ戦略的必須事業の売り上げ割合が向上しているのでまだ期待をしてもと考えています。そろそろ、戦略的必須事業の売り上げがその他を逆転する兆しもあるようです。
配当率が4%を超えているので長期投資で我慢強くホールドしていきたいですね。
IBMの決算書を見て、「戦略的必須」事業のマージンの高さに驚きました。
まだ初期投資段階なのかな~と思いきや、かなり高い利益が取れています。事業がより軌道に乗ればさらなる利益率上昇が期待できるかもしれません。
仮に順調に戦略的必須事業の売上が伸びていくならば、今のPER11倍は格安だと思います。
しかし、マーケットはIBMの未来にそこまで楽観できないから今の株価を値付けしているわけです。
4%の配当を貰いながら辛抱強く待って、結果もし上手くいかなければその時は諦めます。リスクを取るってそういうことだと思いますから。
Hiro様
こんにちは。ご無沙汰しています。
PERで言うと、PEFも10倍を切っており、なんでこんなに低いんだろうと疑問です。
JNJもABBVもちゃんと、高いPERがあるので、ヘルスセクター特有の現象でもないようで、投資家はPEFの成長を見限ってしまっているのでしょうか?
あ、ファイザーはリーマンショックの時に減配している前科があるのが理由の1つかもしれませんね。
いかが思われますか?
てつ様
こんにちは。
ファイザーに限らず大手製薬会社のPERは全体的に低い傾向にありますよね。たとえばメルクのPERは14倍です。
製薬会社は特許の関係で、1医薬品がもたらす収益の持続可能期間に限界があります。
2011年に「リピトール」の特許が切れた時、ファイザーの売上は大きく落ち込みました。
その収益不確実性がPERに反映されていると考えています。
ファイザーが過去減配しているのは、リーマンショックによる景気落ち込みもありますがワイス買収による資金需要に対応する為でもありました。
今のPER評価と過去の減配とはあまり関係ないと思います。
まあ、PFEの売上は成長していないどころか、FY10をピークに落ちているくらいですからね。
対して医療機器は比較的、長期間安定して収益を上げることができます。
なので医療機器の分野にも強いJNJは、他の製薬会社と比べて収益安定度が高いと評価されているんだと思います。
ABBVはヒュミラに対する信頼ですかね。バイオシミラーが出てきても売れ続けています。
詳しい理由はわかりませんが、ヒュミラにしかない強みがあるのかもしれません。
バイオ医薬に対する投資家の期待は高いと感じてます。
hiroさん。こんばんわ。
ヒュミラをはじめバイオ薬の優位性については、最近2回にわけて記事を書きました。
バイオ薬が特許切れに強い理由 その1【特許切れでも2桁増のアッヴィ(ABBV)『ヒュミラ』】
バイオ薬が特許切れに強い理由 その2【バイオシミラーを使えない現在の医療】
の2記事です。
最初の記事について、Market Hackの広瀬隆雄氏がTwitterで紹介して下さったこともあり、かなり拡散しています。NewsPicksでも紹介され、ヘルスケアのアナリストの方や、製薬会社出身で特許専門の弁護士の方もそのサイトにコメントを下さっています。
興味があれば、参考にして頂ければと思います。
鎌倉見物さん、こんばんは。
え、広瀬さんに取り上げられて、NewsPicksでも紹介されたんですか!
凄いですね。さすがです。鎌倉見物さんが一番詳しい領域ですものね。
記事2つとも読ませて頂きました。とても勉強になります。
やはりヒュミラがバイオシミラーに負けないのは、それなりの理由があるからなのですね。
バイオ医薬は特許が切れても完全なコピーを作れないとは初めて知りました。
アッヴィの売上は今後もヒュミラによって安定しそうですね。
私は財務的な見地からしかわからないことが多いですが、アッヴィのキャッシュフロー計算書は美しいです。
すでに研究開発投資を回収し終わっている製品がガンガンキャッシュを稼いでくれると、メチャクチャ儲かります。
なるほど、アッヴィ経営陣が35%もの増配を決めたのはそういう背景があるのか。
ところで、リウマチの原因って恐ろしいですね。これも初めて知りました。自分の関節を攻撃するなんて。。
Hiro様
早速ありがとうございます!
確かに、JNJは、医薬品メーカーというイメージからは少し違いますよね。
でも、PFEは利回りがやっぱり魅力的なんですよね。
ヘルスセクターを買い増したいと思っているので、悩んでいます。。。
いずれにしてもありがとうございました。
てつ様
PFEの利回りは魅力的ですよね!
ヘルスケアセクターどれにするか迷いましたが、最大手と高利回りに魅かれてPFEにしました。
今後はバイオ医薬もポートフォリオに加えるかもしれません。医療機器はメドトロニックを持っています。
製薬は政府との関係もあって将来が読みづらい面もありますが、世界的な高齢化を考えれば有望なセクターには間違いないと思います。