株主還元には配当と自社株買いの2つがあります。

配当とは、企業が稼いだ利益(お金)を株主に送金することです。
シンプルですよね。

自社株買いとは、企業が過去に発行した株式を市場から買い取ることです。なぜこれが株主還元になるのか、ちょっとイメージしづらいかもしれません。自社株を買い取ると、株式数が実質的に減少するので一株当たりの利益(配当)が増えて株価が上昇します。よって既存株主にベネフィットがあります。ただ後述しますが、私は自社株買いの本質は株価上昇ではなく、配当の後払いだと理解しています。

近年、自社株買いに積極的な米国企業としてはアップル(AAPL)が挙げられます。今年すでに250億ドル近い自社株買いを行っています。ちなみに2017年度は330億ドル実施しています。

 

配当がいいのか自社株買いがいいのか、議論になることがあります。

が、両者は対立するものではないと私は思っています。自社株買いは広い意味での配当に含まれると解釈しています。

こうやって対立するものでありません。

私のイメージは以下です。

自社株買いとは広い意味で配当と言えると思います。
あくまで私の解釈ですけどね。

 

自社株買いをすると何が起きるのでしょうか?

自社株買いすると株式数が減ります。一人一株保有しているとして、株式数が減った分株主数も減少するとします(考えやすくするための仮定です)。

株主が減ると、利益が一定でも一人当たりの取り分が増えます。今まで6等分に切っていたピザが4等分になると一切れのボリュームは増えます。一人が食べれるピザのサイズは大きくなります。

自社株買いをしたら、企業の株主構造はどう変わるのか簡単な図を作成しました。

こんな感じです。

最初は総額600の利益を6人の株主で取り合っていたので、一人当たりの利益は100でした。会社が自社株買いを行い、それに二人の株主が応じて株を売却しました。そうすると、株主数は6人から4人に減少します。利益は600で変わりませんから、一人当たりの取り分は100から150に増えます。

確かに自社株買いを通じて既存株主に利益が行きわたっていることがわかります。

でね、ここで自社株買いの説明として、教科書的には「自社株買いを行って一株当たりの利益が増えることで株価が上昇し、株主はキャピタルゲインを得ることができる」と説明されることが多いです。

この説明は自社株買いの本質ではないな~といつも思うんです。

いや、確かに自社株買いをしたら株価は上がることが多いし、キャピタルゲインも株主にとって利益であることは間違いありません。ただ、株主にとっての確定利益はあくまで配当です。企業が稼いだ利益が株主に送金されて、株主としては利益確定となります。もちろん、値上がりした株を売ればそれも(株を売却した人にとって)確定利益ですが、株主全体で見れば配当が確定利益です。

自社株買いの本質は配当の後払いだと解釈しています。

上の図で自社株買いをして株主が6人から4人に減ることで、株主一人当たりの取り分が100から150に増えました。これは利益にも言えることだし、配当でも言えることです。自社株買いをすると一株当たりの利益だけでなく、一株当たりの配当も増えます。

その増えた将来の配当こそが株主にとっての利益です。その将来の増配を織り込んで株価が上がるのは事実ではありますが、仮に将来の配当が実現しなかったら、自社株買いをしても究極的には既存株主に利益は還元されないことになります。極論ですが、自社株買いをした翌月に会社が倒産したら、既存株主にとっては株主還元もクソもありませんよね。株券は紙くずになって試合終了です。自社株買いに応じて売り抜けた株主は幸運です。

自社株買いには税務メリットがあります。その理由として、自社株買いで株価が上昇してもそのキャピタルゲインに対する課税は売却時まで繰り延べられるからと言われることが多いです。株価が上がっても税金は発生しませんよね。なので、文章として誤りはないです。

ただただ、これも本質的な説明じゃないと思うんです。

自社株買いをすると、配当を将来に繰り延べることになります。今すぐ株主に配当を渡さずに自社株を買い戻すことで、将来の一株当たりの配当が増えます。なぜなら株数が減少するからです。その将来の増えた配当を貰う時に、株主は課税されます。そうやって配当課税を遅らせることが、自社株買いの税務メリットの本質です。

まあ「課税の繰延べ」という点では、キャピタルで考えようとインカムで考えようと同じではありますが。インカム(課税対象)がキャピタルゲイン(課税繰り延べ)に変わるというよりは、インカムの課税タイミングを遅らせることが自社株買いの税務メリットです。

結局株主にとっての利益は、最終的にはすべて配当に集約されます。投資を始めるとわかりますが、配当なんてごく僅かです。100万円をS&P500に投資してもらえる配当なんて年間で2万円にも満たないです。でも、その小さな配当が株主にとっての利益です。

その配当をいかに長期的に増やすのか。
利益成長が王道ですが、株数を減らすという戦略もあります。それが自社株買いです。

自社株買いは株主還元と言われます。その通りです。しかし、狭義の意味での株主還元とは配当でしかないと言えるのかもしれません。

シンプルに考えて下さい。企業が自社株買いをして、あなたの手元にお金が入ってきますか?

あなたの手元にキャッシュが入ってきて初めてそれはあなたの確定利益と言えます。

そのためには、株を売却するか配当を貰うのかの2つしかありません。仮に株を売却せずに半永久ホールドするとしたら、やっぱり株主利益とは配当でしかありません。

あなたが投資する企業が自社株買いをしたら、あなたが将来もらえる配当は増えます。自社株買いの発表を聞いたら、将来の大きな増配を楽しみに待ちましょう。