売上利益率ではなく資本利益率を追求する必要がある

ある企業が投資に値する優良企業か否かを判断する時、損益計算書から売上利益率を計算することはよくあるかと思います。

売上総利益率
営業利益率
純利益率
色々ありますね。

これらの数値を確認することは重要です。営業利益率が30%を超えていれば、それだけで高収益なビジネスを持っている会社と判断できます。

ただし、売上高に対する利益率はあくまで手段であって目的ではないという点を認識しておくことも大切です。

というのも、私たちが株を買う目的は金儲けです。投資額に対して少しでも多くのリターン(キャピタルゲイン、配当)を得ることが目的です。

つまり、追及すべきは資本に対する利益率であって、売上高に対する利益率ではないということです。売上利益率は資本利益率を構成する一要素に過ぎません。

資本に対する利益率を表現しているのがROE(Return on Equity)です。バランスシートの純資産額に対する、税引き後利益の割合です。

売上利益率が高くてもROEが低くなることがあり得ます。資産回転率が低い場合です。高いマージンが取れる装置を作っているのはいいけど年間で1台しか売れません、みたいな。まあ、実際は営業利益率が30%も40%もあってROEが低いケースは見たことないですけどね。

逆に、売上利益率が低くてもROEは高くなることがあり得ます。一つ一つの商品の利益率は低いけど、回転が著しく早い場合です。薄利多売ということ。

小売り業はこのケースに該当することが多いです。ウォルマート(WMT)やコストコ(COST)、ターゲット(TGT)などは粗利率、営業利益率ともに他業種より低いですが、だからって投資を見送るべきではありません。各社のROEはウォルマート20%、コストコ24%、ターゲット28%です。立派ですね。

「売上利益率が高い=優良企業」は成立することが多いですが、「売上利益率が低い=ダメ企業」というわけではないので注意が必要です。

売上に対する利益率が低くても、株主資本に対する利益率は高くなることがあります。

なので、ROEをチェックしましょう。一時要因で利益が上振れることもあるので、できれば過去10年くらいの推移を見た方がいいです。

(簿価)資本利益率ではなく、(時価)資本利益率を追求しなくてはならない

さて、ROEをチェックしましょうと言っておきながら、これからROEをディスりますw

ROEを過信するのは危険です。

ROE=税引き後利益 / 純資産(株主資本)です。

分母の株主資本は創業時、また増資した際に実際に企業に出資されたお金(資本金)と、過去の累積利益のうち配当や自社株買いで株主に還元されていないお金(利益剰余金)で構成されます。

利益の大半を株主還元に回しているような成熟企業だと、純資産は「資本金+いくらかの利益剰余金」ということになります。

還元ステージにある優良企業は滅多に増資しません。そのような企業のバランスシートの資本金は、もう何十年も昔の出資金がそのまま載っていることも多いです。インフレも考慮されません。

そのような簿価純資産と税引き後利益の比率がROEと計算されるわけです。そうなるとROEの数値自体に特段の意味を見出すことは困難になります。

ROEが30%もあればそれなりに利益が出ているとは判断できますが、この30%という数値自体に意味はないです。ROE30%の企業に投資したら、年30%のリターンが期待できるなんて、んなわけは当然ありません。

ROEが一定のハードルを越えていれば、あとはそれが20%であれ30%であれ、あまり関係ない。ROE20%の会社より30%の会社の方が有望とは一概には言えない。

それもこれもすべては純資産(株主資本)が簿価であることが原因です。

私たちは簿価で投資できません。時価、つまり今マーケットで提示されている株価で投資するわけです。その投資額に対する利益を私たちは求めています。投資額(株価=一株当たり時価純資産)は一株当たり簿価純資産とは無関係に決まっています。

ROEが高いことは簿価純資産に対する利益率が高いことを意味しています。

しかし、より重要なのは時価純資産に対する利益です。

それはどうやって確認すればいいのかと言えば、過去の株主リターンを見ればわかります。投資額(株価)に対して、期待以上のEPSを出し続けていればこそ株価は上がり続け、配当も増配されていくわけなので。

IBMの過去10年の平均営業利益率は17%となかなか。同期間の平均ROEは64%もあります。しかし、過去10年の株主リターン(配当込み)はわずか年+1.7%です。

IBMは簿価純資産に対しては十分な利益を稼いできたけど、時価純資産に対しての利益は期待以下で不十分だったということです。

マイクロソフトの過去10年の平均営業利益率は33%ですが、同期間の平均ROEは28%とIBMに劣ります。しかし、過去10年の株主リターン(配当込み)は年+25.9%もあります。

マイクロソフトは簿価純資産に対してだけでなく、時価純資産に対しても十分な利益を上げてきたということです。

これまで株主を金持ちにし続けてきた企業こそが真の優良企業です。過去のROE推移よりも過去の株主リターンを重視して銘柄スクリーニングをした方がいいです。無論、過去の優良企業が未来もそうあり続ける保証はありませんが。