来年のリスクは、長期金利が自らの意志を持つことだ。

ウォールストリートジャーナルより

WSJに同意です。来年2018年一番の投資リスクは、長期金利が自らの意志を持って動き出すことだと思います。

 

 

WSJは「長期金利が自らの意志を持つ」なんていう曖昧な表現を使っていますが、これは何を意味しているのでしょうか?

それは(期待)インフレ率の上昇です。

現在米国の失業率は4%程度です。これが2018年には3.5%、2019年には3.3%まで下がると予想されています。失業率が下がるってことは企業は人を採用しずらくなるということで、それは賃金交渉で労働者が優位になることを意味します。その結果、普通は賃金が上昇します。賃金が上昇すると企業は利益率を維持するために、商品の売値を上げる必要があります。そうやって、失業率の低下はインフレを誘発します。

マイルドなインフレは経済にとって大切なことです。インフレとは貨幣価値の減価を意味しますが、お金をほどよいペースで腐らせることで人々のカネ離れがよくなります。貯金は経済全体にとって悪影響でしかありません。

でも、米国では物価がそれほど上がっていません。失業率は下がっているのに、賃金があまり上がらず物価上昇も鈍い状態です。経営者としては、人に追加で給料を払う位ならテクノロジーに投資するといったところなのかもしれません。テクノロジーへの投資の方が効果が長く続くでしょうし。従業員はいつ急に退職するかわかりませんが、機械やシステムは陳腐化するまで従順に働き続けてくれますから。

今の低インフレは構造的な要因によるもので2018年以降も続くかもしれません。どうなるか予想はできません。ただ、今のマーケットが織り込んでいる期待インフレ率はもう下限にあると僕は考えています。米国株は割高でバリュエーション一杯まで買われているとしばしば言われますが、バリュエーションって企業収益だけじゃなくって期待インフレ率もあります。

将来、企業の収益がどれくらい上がるか予想合戦が繰り広げられて、日々マーケットで株価が値付けされています。その予測合戦には期待インフレ率も影響を及ぼします。インフレ率が今後も低いと予想されているならば、株式(名目)リターンが低くても問題ないとマーケットは判断します。「実質リターン=名目リターン-インフレ率」です。インフレ率が低ければ、ほどほどの名目リターンでも実質リターンは確保されます。

今の米国株の予想PERは18倍を超えており、これは歴史的に見ても高水準です。このバリュエーションをサポートしているのが、低い期待インフレ率です。別にマーケットが間違っていると思っているわけじゃないですが、もうこれ以上のバッファはないと思います。それくらいマーケットが織り込む期待インフレ率は低いと感じています。

今後、マーケットが織り込む期待インフレ率が上がることはあっても、下がることはないと思います。

米国FRBは、デフレがどれくらい経済に悪影響なのか痛いほど理解しています。バーナンキ前FRB議長は「日本の失敗に学んだ。あの過ちは繰り返さない」と以前語っていました。日本のバブル崩壊後の資産価格暴落と景気悪化を目の当たりにして、マイルドなインフレがどれだけ大切でデフレがいかに経済に悪影響なのかFRBは痛感しています。

だからこそ、サブプライムローン問題に端を発する金融危機に際して、FRBは膨大な米ドル資金を市中経済に投入しました。おかげで米国経済はデフレに陥ることなく成長軌道に戻りました。

イエレン議長からパウエル新議長に交代になりますが、「デフレは悪で程よいインフレが大切」という基本姿勢は変わりません。FRBの使命の一つは「物価の安定」であり、具体的に年率2%のインフレターゲットを設定しています。

FRBはこれ以上の低インフレを許容しないと思います。マーケットはそれを承知しているはずです。

マーケットが織り込む期待インフレ率は現状維持で推移する可能性はありますが、今より下がることはないでしょう。そして、2018年の投資リスクは冒頭に記載した通り、下限に達している期待インフレ率が反発することだと思います。

長期金利はFRBの分析を無視して「自らの意志を持って」動き出す可能性があります。期待インフレ率が上がって長期金利が(自らの意志で)上がり始めるかもしれません。それは株式相場を押し下げることでしょう。

長期投資家は、2018年「長期金利が自らの意志を持つ」リスクを頭に入れておきましょう。事前に身構えておけば、いざ長期金利が意志を持って動き出しても慌てずに対処することができます。

どう対処すべきか?

それは売らずにホールドです。優良株に投資している限り、長期金利の上昇に狼狽して投げ売りしないことです。株式は長期ではインフレに追い付きますから心配不要です。仮に期待インフレ率が上がったところで、将来の実際のインフレ率がどうなるかはわかりません。ただ、実際のインフレ率が上昇しようと横ばいだろうと、株式リターンは長期ではインフレに中立です。

株式相場って将来を予測してドンドン勝手にあらゆる情報を織り込んでいきますよね。景気循環は概ね半年前に株式相場に織り込まれると言われます。株価チャートを眺めていると、たまに未来の為替相場まで予想しているのはないかと思される時もあります。同じように、インフレ率の上昇も先に株価に織り込まれます。実際に物価が上昇するより以前に、先ずは債券相場が将来のインフレをビビっと感知して利回りを上昇させ、債券利回り上昇を嫌気して株価も下がります(株式益回りは上昇する)。

底値で投げ売りしないように、今のうちにしっかり身構えておきましょう。何事も準備が大切ですよね。備えあれば患いなし。2017年はほとんどの投資家にとって良い1年となりました。来年2018年、株式・債券・為替マーケットがどう動くかは我々投資家がコントロールできるものではありません。しかし、それらのマーケットの変化に対してどう対処するかは、ひとえに私たち投資家の心構え次第です。2018年も良い1年になることを願います!