群衆と正反対の行動をとるだけでは不十分である。コンセンサスとは異なる見解を持つよう意識することは利益を生み出す可能性を秘めているが、逆張りに関するこれらの諸問題を考えると、しかるべき根拠と分析に基づくものでなければならない

群衆とは正反対の動きだから、という理由だけで逆張りを行うのではなく、なぜ群衆が間違っているのか理解したうえで行わなければならない。そうすることで初めて、自分のやり方がまちがっているように見えている時や、利益よりも損失が生じているようなときにも、信念を貫く(そして、買い増す)ことができるのだ。

ハワード・マークス著『投資で一番大切な20の教え』

ドキッとする文章。まるで僕に直接語りかけてくるかのようです。焼き鳥屋でビール片手に読んでいたのが失礼だと思い、すぐに店を出てドトールで読み直しました。昔読んだ本ですが、最近再読してます。とても勉強になる良書。

来月IBM株を30万円ほど買い増そうか悩んでいました。業績が不安定でかつ3兆円以上の巨額M&Aまで実施したIBM。マーケットが不安になるのも当然で、株価は下落しています。予想PERは9倍で配当利回り5%ほど。

確かにIBMは歴史ある優良企業です。
優良企業IBMの株価下落を狙うのは価値ある逆張り投資なのか?

それは人それぞれです。

同じ銘柄ならリターンは投資家共通で客観的に測定できるものですが、リスクは投資家次第で主観的なものです。リスクは人によって違います

投資家AにとってのIBM株のリスクが100だとしても、投資家Bにとってのそれは80かもしれません。IBMに勤務して同社の内情に精通している投資家CにとってはIBM株のリスクは20しかないかもしれません。

同じリターンでも、なるべく低いリスクで得たリターンの方が価値があります。リターンの質が高いとも言います。リスク対リターン(リスク調整後リターン)は外から客観的に見えるわけではありません。なぜなら、リスクは主観的で画一的に決まるものではないからです。

リターンはわかります。私のようにポートフォリオをブログなどで晒していれば、私の投資リターンは誰でも推測できます。丸わかりです。でも、私のリスク調整後リターンは誰にもわかりません。なぜなら、私が保有株に対してどれくらいリスクを感じているかは、私自身にしかわからないことだからです(ブログで「IBMのビジネスわからんな~」とか「石油の未来は分からなくて怖いです」とかぼやいてはいますが)。あと、そもそもリスク認識は定量的に測定できるものではありませんから。

私が今後もIBM株に投資を続けて、結果として高いリターンを手にしたとしても、それは質の高いリターンとは言えません。なぜなら、私のIBM株に対するリスク認識は超高いからです。だってわかんないもん。IBMが何して稼いでいるのかすら、IT業界に疎い私にはわからないのです。また、本気出してIBMについて調べる努力もしてません。ざっくり決算書を見ているくらいです。

これから10年、20年とIBMに投資を続けて、結果としてハイリターンをゲットできたとしても、それは高いリスクを取った結果の高いリターンに過ぎません。それでは意味がありません。意味がないわけじゃないけど、もっとうまいリスクの取り方があるはずです。

リスク管理に教科書的な答えはありません。リスクが人によって異なる以上、誰にでも通用するリスク管理手法というのはないです。万人に共通して言えるリスク管理は、ETFや投資信託での分散投資くらいでしょうか。

バフェットは投資で大きな成功を成し遂げた人ですが、その凄さは年率20%という数字以上のものがあります。バフェットはほぼノーリスクでこのリターンを実現してきました。

「私にとって将来収益の割引率はゼロである。」とバフェットは語っています。割引率とはリスク認識のファイナンス的な表現です。バフェットはコカ・コーラ株が莫大なリターンを生むと99.99%確信していたのです。そして案の定、コカ・コーラ株は莫大な富を生みました。

高いリスクを取って年率20%を50年続けるのも凄いことですが、全くリスクを取らずに年率20%を達成するというのは常人には不可能な離れ業です。バフェットと同じリターンはまぐれで実現できる人がいるかもしれませんが、バフェットと同じリスク調整後リターンを実現できる人はこの世に1人もいないと思います。バフェットと同じ程度に、銘柄に対するリスク認識を引き下げることは誰もできないからです。

 

IBM株の買い増しはストップすることにした。

今後IBMに投資を続けても、それは質の高いリターンにならないと『投資で一番大切な20の教え』を読んで思いました。IBM株の買い増しはやっぱりやめようかな。

自分の能力の輪の中にめぼしいものがないからといって、むやみに輪を広げることはしません。

ウォーレン・バフェット

 

私が成功した理由は、飛び越えられるであろう30センチのハードルを探すことに精を傾けたから。

ウォーレン・バフェット


こういったバフェットの言葉の重要性を改めて感じました。

私は投資に結構時間を割いていますが、だからと言って個別銘柄へのリスク認識が極端に下がるほどの見識があるわけではありません。財務データをきちんと見ることで、リスクをやや下げることはできていると思っています。しかし、そこまで。

リスク調整後リターンを追求するならS&P500インデックスに投資するのは一番いいです。よほど個別の銘柄について深く研究しない限り、個別企業に対するリスク認識を下げることは困難で、結果として多くの個人にとってリスク調整後リターンという点でインデックス投資に勝るものはないと思います。

でも、個別銘柄投資は続けたいです。それは理屈じゃなくって、単に投資が好きだし楽しいから。もちろんちゃんと利益も追求します。

インデックス投資には戻らず個別株投資は続けるんだけど、自分がいかに高いリスクを感じているかをちゃんと自覚した上で投資すべきだと反省しました。

・配当利回りが市場平均以上(これは譲れないこだわり)
・自分でもある程度理解できるビジネス内容で、リスク認識が相対的に低い銘柄

この2つを今後の投資判断の基準にしようと思います。

今の自分にIBMへの投資を続ける資格はないなと思いました。資格がないというか、無駄に高いリスクを背負っているだけかなと。無論、これは私にとってという意味であって、あなたにとって高いリスクと言っているわけではありません。繰り返しですが、リスク認識は人それぞれです。

というわけで、IBM株の買い増しは止めることにしました。「お前は根拠ある分析に基づいてIBM株を逆張りできるわけじゃないだろ。じゃあ買い増しは止めておけ。」とマークス氏に言われた気がしました。本から声が聞こえてきそうでした。

IBM株を買い増す信念が持てないのは、「なぜ群衆が間違っているのか」理解できてないからです。何となく優良企業IBMの株価が下がって配当利回りも上がっているから買おうかな~、くらいの甘っちょろい気持ちでいるからです。「投資の世界はそんな甘いもんちゃうぞ!」ってマークス氏に言われた気がしました。

もうIBM株は手放していいかも、という心境です。今の僕には超えられないハードルのようです。でも売らないです。含み損だからです。含み損を確定するのが嫌というより、自分が売ったあと株価が爆上げしたら悔しいから売れないです。投資はファイナンス論なんかよりも人間心理が重要です・・。

日々勉強。