会計士試験の勉強をやっていて腑に落ちなかったのが減価償却のタックス・シールドというものです。あまり耳慣れない言葉だと思います。減価償却には節税効果があるという意味です。

1億円の機械を買った場合、それは一時の費用とはなりません。その機械の経済的耐用年数に応じて費用処理していきます(実務的には税法に合わせることが大半)。たとえば、10年で償却するなら1年当たりの費用は1000万円です。

この1000万円は税務上も費用(損金)になります。損金になれば利益(所得)が圧縮されるから税金が減ります。だから、減価償却には節税効果(タックス・シールド)があると言われます。

いや、そんなの減価償却に限らずどんな費用も利益(所得)を圧縮するじゃん?って思いますよね。

そうなんです。その通りです。ごもっとも。減価償却も他の費用と同じです。なんで減価償却だけ特別扱いされるのか大学生の時理解できなかったし、今でも理解できません。なんか減価償却って「打ち出の小槌」みたいに言われることあるんですよね。税金を減らしてキャッシュを生む効果がある的な。ロバート・キヨサキ氏も書籍の中で「減価償却は幽霊所得を生む」なんて言ってます。

減価償却が特別視されるのは、それが非現金支出費用だからという意見をよく見かけます。1億円の機械装置を買って5年経ったとします。その会計期間も1000万円の減価償却費を計上しますが、現金の流出はありません。機械を買ったのは5年前だからです。

でも、減価償却は本当に非現金支出費用でしょうか?

そんなことありませんよね。1億円の機械を買ったときに確かに1億円の支出があるわけですから。でないと機械は買えません。あくまでも支出が最初にあるだけで、決して非現金支出費用なんかではありません。しっかりキャッシュは流出しています。

減価償却とは最初の一時多額のキャッシュアウトを、会計上将来に繰り延べているだけです。その方が期間損益計算が合理的にできるからそうしているだけ。減価償却を特別視する理由はありません。原材料費、人件費、研究開発費などと同じ費用の一つです。ただキャッシュフローと会計の費用処理とでタイミングが異なるだけ。

ちなみに、原材料費だってキャッシュと費用処理のタイミングは違います。原材料を買ったときは一旦バランスシートに資産計上して、それが加工されて製品になりその製品が売れた時に売上原価として費用処理されます。会計の世界ではキャッシュアウトと費用処理とで期ズレが発生すること自体は普通のことで、何も減価償却が特別というわけではありません。てか、その期ズレこそが会計が必要とされる理由とも言えます。

EBITDAという指標がありますね。”earnings before interest, tax, depreciation, and amortization”の略です。その名の通り、最終利益から税金、支払利息、減価償却を足し戻した利益です。実務的には営業利益から減価償却を差し引いて計算することも多いです。

なぜ減価償却を戻すのか?

それは各企業が適用する会計基準やその国の慣行によって減価償却の年数や方法が異なるため、減価償却を除いて考えた方が利益の比較可能性が向上するからです。決して減価償却が虚構の費用だからとか、そういう理由ではありません。EBITDAはあくまでも他社比較用の利益です。減価償却は紛れもなく費用です。企業の実力を測る上で、減価償却を除外して利益を計算する根拠はありません。

EBITDAとか個人的にはあまり使いませんね。減価償却とは投資コストですから、それを回収した上で十分な利益を上げる必要があります。減価償却は普通の費用です。減価償却を除く利益なんて見ちゃうと判断を誤ります。