大手の製薬会社、医療機器メーカーなどヘルスケア企業のPLは見づらいことがあります。営業利益、純利益が急に低くなったり、時にはマイナスになったりします。最近のアラガンのPLのように。

その理由は以下の2つの要因が大きいと思います。
・研究開発費をすべて費用処理する(資産化しない)
・M&Aなどの再編が活発

米国会計基準は研究開発にかかったコストを資産化することを認めています。しかし、私の知る限りジョンソンエンドジョンソン、ファイザー、メドトロニックなど大手ヘルスケア企業は開発費を資産化していません。

なぜなら、医薬品の開発は失敗のリスクが高いからです。臨床試験までたどり着くのも一苦労。FDAの審査は世界一厳しいです。米国会計基準は将来の収益化の確度が高い開発案件のみ資産化してよいとしています。何でもかんでも好き放題、資産化していいわけではありません。資産化するってことは費用の先送りですから、 投資家に誤解を与えないよう慎重にやらねばなりません。

医薬品の開発成功は万に一つと言われます。多くは失敗して日の目を見ません。そんな業界の特殊性から、ヘルスケア企業は開発費を資産化することはほとんどありません。

開発費を資産化することが多いのはたとえば自動車業界ですね。マイナーチェンジに伴う開発費は資産化されることが多いようです。大抵はうまく市場に出て販売されますから。失敗のリスクは低い。

開発費を資産化しない、つまり費用処理するということは、それだけ利益が押し下げられるということ。利益が下がると純資産が減る。そこにM&Aが起こる。買収時のバリュエーションでは純資産を遥かに超える時価が付きます。それは別に普通のことだけど、ヘルスケア企業ではそれが顕著に表れます。

なぜなら、開発費を費用処理して純資産を削っているにもかかわらず、買収時のバリュエーションでは開発資産を認識するからです。つまり、保守的に開発費をすべて費用処理するけど、実際は失敗したプロジェクトも含めて莫大な資産価値があるということです。その無形資産がM&Aを通じて可視化される。そして可視化された無形資産が償却されPLの利益を押し下げる。

それは、一度PLで費用化した開発費用をBSに戻して、再度費用計上するようなものです。科目は開発費から無形資産償却費に変わるけども。

そうやってM&Aが多いヘルスケア企業の利益は、実力の割に小さく見えることがあります。もちろん、マーケットもそれを理解した上で株価を値付けしています。が、表面的にPERを算定したりすると判断を誤るので注意が必要です。