ジェレミー・シーゲル氏の『株式投資の未来』によれば、1957年~2003年にもっとも投資リターンが高かった銘柄がフィリップモリスでした。フィリップモリスのリターンは年率19.8%で、同期間のS&P500平均の10.9%を9%も上回っています。

年率で9%も市場平均を超えるって凄いことです。1957年~2003年って50年弱の測定期間ですが、50年間もの長期で測定して年率リターンが9%も違えば最終結果は桁違いに変わってきます。1年だけであれば、100万円が119万円になるのか109万円になるのかの僅かな違いでしかありませんが、この差が50年も続ければ複利の力で両者のリターンには雲泥の差が出ます。提灯に釣鐘です。

長期投資のリターンは終盤にググっと伸びる傾向にあります。複利の力で利益にラストスパートが掛かります。ウォーレン・バフェット氏の資産の99%は50歳以降に築かれたものです。

しかし、ことフィリップモリスに限って言えば、上記リターン測定期間1957年~2003年の終盤、1990年代の株価は軟調でした。1990年代、フィリップモリスの株価は20ドル~60ドルのレンジで上げ下げを繰り返してほぼ横ばいで推移しました。とても右肩上がりの美しい株価チャートとは言えませんでした。

イメージで言えばこんなチャートです。

(実際のフィリップモリスのチャートとは一切関係ない、ただのイメージです)

こんなジェットコースターのような横ばいの株価チャートだったにもかかわらず、投資リターンは大きく損なわれることはありませんでした。1990年代のフィリップモリスの投資リターンはさすがに高くはなかったです。しかし、配当利回りが高かったので株価チャートから想像するほど酷いリターンでもなかったです。

マルボロの値下げ、健康被害による訴訟問題、実際の損害賠償の支払いなど逆風が猛烈に吹いていましたが、フィリップモリスは一度も減配することなくむしろ増配を続けました。投資額に対する配当額は、株価が下がったおかげでグングン上昇していきました。

株価はあんな感じでグネグネでしたが、配当はグネグネせずに右肩上がりだったのです。株価が落ちているのに配当は維持、むしろ増えているなら配当利回りは高まるばかりです。そうやって、フィリップモリスの株主の投資額に対する配当金額はドンドン増えていきました。

減配せずに配当が増えている限り、株価下落は投資リターンにむしろポジティブな影響を与えます。投資額に対する配当額が増えるからです。

ただし、株価が下がる中フィリップモリスが減配しなかったという事実は、今だからわかる話です。株価の継続的な下落は将来の増配率の低下、最悪減配してしまうことを示唆しています。株価は将来の配当の割引現在価値の合計であって、将来の配当予想が小さくなるから株価は下がります。

株価が下がっているという事実とは謙虚に向き合った方がいいです。最近ゼネラル・エレクトリック(GE)が減配しましたが、それを見越して株価は大きく下落していました。GEについて言えば、マーケットの見通しはほぼほぼ正しかったわけです。

GEの減配直前のあの雰囲気の中、GE株を10年保有し続けることができますか?
減配するかもしれない、最悪無配になるかもしれないという雰囲気が続く中、一度も減配しなかったのがかつてのフィリップモリスでした。要は、1990年代のフィリップモリスの株価について、マーケットは判断を誤っていたということです。しかも、長期間に亘って間違い続けました。そんな中、マーケットから逃げ出さずにリスクを取り続けた投資家だけが報われました。

これは難しいことです。減配を臭わせるような企業の株を、減配しないことを信じて持ち続けるのは心理的にはかなり難しいことだと思います。投資家である私たちは感情ある人間ですし、株式投資はあくまで副業的位置づけに過ぎません。株式投資ごときに心を乱されて、本業やプライベートの生活に支障が出ては本末転倒です。減配懸念があるような高利回りの「優良企業」に投資するのはいいですが、集中投資はやめた方がいいと思います。