ブルームバーグにブリッジウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ氏のコメントが掲載されていました。リンクトインに「世界は狂いシステムは壊れた」というエッセーを投稿したそうです。

資金と信用力がある人にはマネーは基本的にフリー(無利息)だが、金と信用力のない人には本質的に利用できない。

レイ・ダリオ(ブルームバーグより)

ほとんどの人にとって資本主義をうまく機能させるシステムは壊れている

レイ・ダリオ(ブルームバーグより)

債券市場は壊れている

現在マネーはフリー(無料)です。マイナス利回りの債券が世界に17兆ドル以上あります。利息をもらってお金を借りる、利息を払ってお金を貸すという摩訶不思議な世界が生まれています。

米国債の利回りはプラスでまだまともですが、それでも10年債利回りは1.8%台と低迷しています。インフレを差し引けば実質リターンはゼロです。それに伴って米社債利回りも低下しています。起債増加に伴ってジャンク債寸前のトリプルB格付けの債券が急増していることが問題視されています。

(ウォールストリートジャーナルより)

社債の発行残高はグングン伸びていますね。なぜかって、言うまでもなく低金利だからです。M&Aや設備投資などの明確な資金使途がある企業はもちろんのこと、特に資金需要がない企業も借金を重ねてきました。借りた資金をプールしている企業もあれば、自社株買いや配当に使っている企業もあります。必要ない時に安く金を借りれるのは強さの証ですね。

レイ・ダリオ氏が指摘する通り、フリーマネーの恩恵に預かるのは信用のある企業のみです。普通の個人が無担保で安く金を借りるのは困難です。

そうやって旺盛な企業の借入需要を以ってしても金利は低いままです。それだけ、資金がジャブジャブということです。何が今の超低金利の原因かは判然としません。時間が経っても明確な原因はわからないままかもしれません。

今の債券市場は壊れています。株であれ債券であれ利回りを見るのが投資の基本。1.8%という利回りを10年固定されて儲かるとは思えません。

未公開株市場も怪しい

ジャブジャブに溢れたマネーは未公開株市場にも影響を及ぼしています。ソフトバンクはシェアオフィスのウィーワークに90億ドルを投じましたが、ウィーのIPOは頓挫。ソフトバンクは投資資産の減損を余儀なくされた上、救済資金90億ドルを追加で投入することになりました。

ソフトバンクは1000億ドルを運用するビジョンファンドを運営していますが、どこからこんな莫大な資金が湧いてくるのでしょうか。サウジアラビアのファンドなどが出資していますが、同国の経済基盤である石油世界最大手のサウジアラムコは今年120億ドルを起債しました。アラムコの社債利回りはサウジの国債利回りより低いです。IPOで資金を調達するよりよっぽど賢いのではと思うほどです。

ウィーワーク以外にも赤字のIPO企業がたくさん生まれています。ウーバー、リフト、スポティファイ、ドロップボックス、スナップ、ピンタレストなど。2000年のドットコムバブルの頃の様な箱だけの名ばかり企業はさすがにありませんが、投資家は赤字を気にせず資本を投じているように見えます。

でも、それは仕方ないことかもしれません。マネーの調達コストが安いからです。資本コストが低いなら、運用利回りが多少悪くても利ザヤを抜けます。

債券市場は壊れていると思いますが、未公開株市場(IPO市場と言うほうが正確かな)が壊れているかどうかはわかりません。ウィーワークのバリュエーションが異常だったことは白日のもとにさらされましたが、他の赤字企業の株価の妥当性は未知数です。ウーバーはどうなんでしょう。スナップは評判いいですよね。あと赤字企業じゃないですが、来年IPO予定のエアビーアンドビーは本物かもしれません。2019年、2020年のIPO企業の中に未来のアマゾンがいる可能性はゼロじゃないです。

ですが、やはりちょっと過熱気味だなあと感じます。安い資本がジャブジャブ未公開株市場に流れているように見えます。

公開株市場は健全だ

債券市場、未公開株市場と違って公開株市場はそれほど荒れていません。なぜだか知らないけど、世界中に溢れるマネーは公開株市場にはあまり漏れてきません。米国株のPERは決して低くはないけど、債券や未公開株の熱狂っぷりとはほど遠いです。

これは不思議に感じます。低金利が株高をもたらしていると言われますが、それほどでもないです。米国債の利回りが1%台であることを考えたら、S&P500指数の予想PERは20倍を超えて、25倍くらいになってもおかしくないと思います(現在16倍)。なぜ公開株市場は比較的穏やかなのでしょうか。

これは根拠のない私の推測です。公開株(普通の上場株)は債券よりリスクが高くて怖いものなので、将来の生活が不安で貯蓄をしたい個人の余剰資金の置き場には選ばれない。また、絶対リターンを稼ぐ圧力に晒されるヘッジファンドにとって公開株市場はつまらない場所なので選ばれない。よって、公開株市場には世界に溢れるジャブジャブマネーがそれほど流入していないのかもしれません。

なんだか公開株市場は聖域に見えます。これほど世界中が低利回りに喘いでいるのに、S&P500指数の益回りはちゃっかり6%もあるんです。目先の相場は全く読めないけど、10年以上の期間を想定できる長期投資家は普通にS&P500指数を買っておけばいいと思います。利回りは健全だと私は思います。大きな利益は期待できませんけどね。