将来のマクロ経済を予想するというのは無理筋なので諦めた方がよいのですが、敢えてそれを試みるならネットニュースや書籍を漁るよりも、マーケットを見た方がいいです。特に債券市場は注目に値します。

ここ1年の米国のイールドカーブの動きが面白いです。以下、黒線が現在の、青線が1年前のイールドカーブです。

ウォールストリートジャーナルのマーケットデータより)

1年前と比べると明らかに短期側の金利しか上がっていませんよね。

2年債:0.2%→1.9%
10年債:1.7%→2.1%
30年債:2.4%→2.4%

短期側の金利が上がっているのは当然です。FRBが実際に利上げをしたので。上げ幅は0.25%でしたが。

FF金利は22年内に1.875%まで、23年には2.75%まで上昇するというのがFOMCメンバーの主な予想です。1年前に0.2%だった2年債利回りが2%弱まで上がるのは違和感ないです。

一方で長期債の利回りはさほど上がってません。10年債利回りは1年前の1.7%に対して現在2.1%です。30年債利回りに至ってはフラットです。

今の過熱している物価上昇を抑えるために目前の利上げは仕方ないとして、それでも金利をインフレ率と同じ6%とか7%まで上げ続けるのは無理ということでしょう。

金利=お金の値段=労働力の値段、というのが私の発想です。

いま特に米国で人手不足が深刻で労働者の給料が上がっています。この20年労働者より資本家の力の方が強い時代が続きいてましたが、ついに潮目が変わったようにも見えます。

が、しかし。これは一時的な現象の可能性の方が高い。それが債券市場の発するメッセージだと解釈しています。

自動化、AIなどの進化によって、一般的な労働力が経済に生み出す価値は薄れていくばかりでしょう。最近の賃金高騰を受けて、資本家は人の労働に頼らない仕組みへの投資をさらに加速させるはずです。

コロナ禍前、失業率は低くとも賃金が一向に上がらなかったですよね。数年かけてあの状態に舞い戻るのではないでしょうか。

債券市場はそんな未来を予想しているように思います。

先日、墨田区にある江戸東京博物館に行ってきたんですが、すっごく面白くて3時間くらい入り浸っていました。

江戸の花形職業の一つに火消しがあります。今でいう消防士です。

木造家屋が集まっていた江戸は火災が日常茶飯事でした。当時は消防車は当然ないから、人が水をかけて火を消すしかありません。一つの組に数十人から100人もいたそうです。

しかも、驚いたのが、火を消すのも仕事ですが、それよりは延焼を防ぐために周辺の家屋を壊すことの方が重要な任務だったそうです。大変な重労働です。壊される方もたまったもんじゃないなあと思いました。

有名な火消しはアイドルみたいな存在だったそうです。肉体屈強でイケメン?で女の子から人気だったのでしょうか。きっと高給だったのでしょう。誰でもやれる仕事ではないですからね。

ほかにも現代では想像もできない職業が江戸時代にはたくさんありました。

江戸は時代を遡り過ぎではありますが、こういう時代なら経済状況によっては金利はグングン上がっていくこともあると思います。社会を回すには大勢に人間の労働が必要不可欠だったので。

今は世界的に人手不足状態ですが、長期的に見れば社会が人間労働に依存する度合いは下がる一方です。

労働の価値が下がるということは、金利には恒常的に下方圧力がかかるということです。要は起業家、資本家が借金しないということです。それ故に政府に借金する余地が生まれ、それがベーシックインカムの議論に発展していくわけです。

長期債利回りを低く抑えたままの今の債券マーケットは妥当に見えます。

次の20年はこれまでの20年よりもさらに、資本家が利潤を得る時代になる可能性も十分あり得ると思います。

インフレに注目が集まって、金などのコモディティが久々に投資対象として脚光を浴びています。それらをポートフォリオの一部に組み込むのは有効と思うものの、長期目線の投資家ほど株式、特にテクノロジー株を握っておいた方が報われるのではないでしょうか。