精神的報酬と経済的報酬は逆相関

昨日「カンブリア宮殿」がやってて、その中で少しですが島津製作所の田中耕一さんが出演されていました。田中さんと言えば2002年にノーベル化学賞を受賞された方ですね。もう20年近くも前ですね。優しそうなほっそりした田中さんの様子をテレビで観ていたのを今でも覚えています。

いま何歳なんでしょうか。昨日の「カンブリア宮殿」での映像では髪が真っ白になられてて、時の流れを感じました。そう言う私も少年からおっさんになったわけですが。

田中さんは受賞当時、分析機器事業部の主任でした(今は研究所所長)。つまり今も昔もサラリーマンということです。ノーベル賞の賞金は1億円と高額ですが、共同受賞だと貢献度に応じて折半するので、世界的に名誉ある賞にしては実はさほど経済的利益は多くありません。そもそも、お金は直接個人に行くのだろうか、それとも会社に渡るんでしょうかね。知りませんが。

田中さんが島津製作所からどれくらいの給料をもらっているのは知りませんが、労働者として雇用されているのは他の社員と変わらないわけだし、特別に多く貰っているわけではないと思います。勤め人ってそういうもんですね。成果を出さなくても固定給がもらえるけど、大きな成果を出してもそんなに給料は増えない。

じゃあ、どこが利益を享受するかと言えば島津製作所(の株主)です。この10年で見ても島津製作所の株価は6倍にはなってるでしょうか。日本株の中でも優秀な銘柄という認識です。優秀な従業員、経営者が生み出した富は株主がかっさらいます。それが資本主義のルールです。

かつて青色発光ダイオードの特許に関する訴訟がありました。法律的なことはわかりませんが、会社に属している人が生み出した発明、特許の権利は会社に帰属すると考えるのが自然です。この訴訟では確か開発者の中村氏に対して数億円の支払を命令じる判決が下りましたが、開発資産の経済価値を考えたら安いもんでしょう。

「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」で特集されるような人は、やりがいのある、社会に貢献できる仕事を懸命にこなしてキラキラ輝いて見えます。でも、そういう人は意外にお金持ちじゃなかったりします。もちろん平均よりはお金持ちだろうけど。

大企業の役員とかもそんな金持ちじゃない。がっつり税金取られるし。それよりも、誰も知らないような無名の中小企業の経営者の方がたくさんお金を持ってるもんです。ちょっとした遊興費も経費にできたりしますし。その辺の税金面の差も大きいです。夜の店を経営しているとか、あまり表立って周りに言えない仕事をしている人の方が羽振りが良いです。

実際に知り合いにいるわけじゃないですが、そういう話をよく聞きます。確かにその通りだろうなって思います。資本主義のルールを考えると納得できます。競争が少ない、やりたいと思う人が少ない、そういうビジネスをやる方が金銭的に報われやすいはずですから。

「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」で特集されれば世間から称賛されます。大企業の役員に出世したら親族や同級生から尊敬の眼差しで見られるでしょう。そういう精神的報酬を求めるのは普通の感情だと思います。しかし、往々にして精神的報酬と経済的報酬は逆相関の関係にあると思います。

精神的報酬をたくさん得られる道にみんな進みたがる。結果、そっち方面は過当競争になり努力の割に稼げない。サラリーマンの出世なんてその典型だと思います。

この7月から石原さとみ主演の「アンサング・シンデレラ」というドラマが始まります。石原さとみが演じるのは病院勤務の薬剤師です。

薬剤師が勤務するのは主に薬局ですが、病院という選択肢もあります。実は給料は薬局の方がいいんです。しかも、仕事内容も薬局の方が病院より楽(あくまでも相対的な意味で)。病院勤務の薬剤師は夜勤もあって激務な上に、給料はそれほど高くないです。

なぜそんな事象が起こるのか?

それは病院勤務の方がやりがいがある、患者さんと直接関わることで学べることが多いと考える薬剤師の方が多いからです。だから、激務な割に応募者がたくさんいて、需要と供給のバランスで給料が低くなる。たくさん有資格の応募者がいるなら、病院側として安い給料で使いたいと思います。

こんなところにも精神的報酬と経済的報酬の逆相関が見られます。別に精神的報酬を求めることを否定しているわけではないです。でも、自分がどちらの報酬を求めているのか客観視が必要だとは思います。

株式投資の精神的報酬はゼロ。だから儲かる。

株主は100%経済的報酬を求める存在です。株式投資を通じて精神的報酬を得ることは難しいです。島津製作所の株を30年持ち続けて大金持ちになっても、田中さんのように多くの人から拍手で迎えられることはありません。

でも、それでいいじゃないですか。株主はお金を稼げるんですから。誰かに褒められたいという承認欲求は別のところで満たせばいい。お金を稼いでいる人って、人知れず目立つことなくひっそり稼いでるもんです。そっちの方がいいです、税務署に目を付けられる可能性も低くなるし(別にやましいことをするつもりはないが)。

精神的報酬はすべて優秀な経営者、従業員に捧げればいいんです。彼ら彼女らの優秀な頭脳、勤勉な仕事が社会に富を生んでいるのは事実なわけですから。私たち株主は誰からの称賛も得られません。テレビに呼ばれることもない。それどころか、株主は金儲け主義でけしからん!と罵られるくらいです。

でもいいやん、それで、金がもらえるなら。精神的報酬なんてくれてやれ。さすれば経済的報酬を得られます。長期株式投資ほど精神的報酬が少ない「仕事」は他にないと思います。でも、だからこそ経済的には報われます。ただ株を買ってホールドするだけ、そんなつまらないこと誰もやろうとしないからです。