現代の主要貨幣はすべて不換紙幣です。金の裏付けはありません。100ドル紙幣を銀行に持ち込んでも金はもらえません。
金本位制から管理通貨制度への移行がもたらした一番のメリットは、中央銀行の裁量で自由に紙幣を刷れることです。通貨量を自由にコントロールできる。つまり、物価は金の採掘量によって変化せず、中央銀行の政策次第ということです。
経済にとってデフレは諸悪の根源ですから、人為的に物価をマイルドなインフレにコントロールできる状態にすることは重要です。もちろん、そのコントロールは超むずいわけですが。戦闘機の操縦どころの難しさではありません。
中央銀行はいくらでも好きなだけ紙幣を刷れる、と言われることがあります。中央銀行が市中のお金の量(マネーサプライ)をコントロールできると説明されます。
異論はないのですが、ちょっと屁理屈かもしれませんが、厳密に言えばそれは誤りだと私は理解しています。
中央銀行はマネーの量を直接増減させることはできません。マネーの量を増減させるのは中央銀行ではなく民間銀行です。中央銀行はマネーの質を変化させます。
中央銀行:マネーの質を変化させる
民間銀行:マネーの量を変化させる(信用創造)
中央銀行はお金を刷ることができます。それは事実です。でもその時点ではまだ、刷った紙幣は民間経済に投入されていません。FRBのバランスシート内にあるだけで、それは経済圏外です。
FRBは民間銀行の国債や不動産ローン担保証券を買い取ることで、マネーを経済に注入します。
ベン・バーナンキ元FRB議長が「ヘリコプターから紙幣をばら撒けばいい」と発言したことがありますが、法的には無理です。中央銀行はあくまで、民間銀行が保有する何らかの金融商品と引き替えに流動性を供給します。
想像して下さい。
中央銀行が民間銀行の国債を買い取って、世の中のマネーの量って増えてますか?
NOですよね。
民間銀行が保有する国債等が現金に変わるだけです。
中央銀行は民間銀行の国債を現金に変えましたが、現金の量は増やしていません。つまり、中央銀行はマネーの質を変化させることしかできないということです。
でも、そのマネーの質の変化がマネーの量に間接的に影響を与えます。
中央銀行に国債やMBSを買い取ってもらって、現金が増えれば銀行はリスクテイクできます。その現金自体を何かに使わないと利息も何も生み出しませんし、現金(FRBへの預金)が増えれば貸出可能な金額も増えます。
銀行は100のFRBへの預金があれば、1000の貸出が可能です。手持ち現金100以上の貸出を行うことができます。これが信用創造です。この信用創造によって世の中のお金の量(俗に言うマネーサプライ)が増えます。
紙幣を刷って、直接的に社会に出回るお金の量を増やすのは民間銀行です。
中央銀行は「国債→現金」、「MBS→現金」といった感じでマネーの質を流動的にするだけです。あらゆる金融商品(日銀はETFを買い取っている)をもっとも流動性の高い金融商品つまり現金に換えます。
中央銀行はマネーの質を変化させるだけだからって、中央銀行の役割が小さいわけではありません。銀行はガチガチに資本のリスク管理をしていますから、マネーの質が変わらないと絶対にリスクテイクできません。
後は何よりも「FRBがバックにいる」という安心感ですね。その安心感が銀行から民間経済に伝播して、人々の財布の紐が緩んできます。経済は期待や不安といった心理で動いていますから、FRBがリスクテイクを補助してくれているという安心感はとてつもなく大きいです。
中央銀行が民間銀行のマネーの質を換えてあげることで、民間銀行がリスクテイクに積極的になり(それは金利低下として表れ)、民間企業の借り入れも増加して段々と経済に血液が循環し始めます。まるで血管に詰まった血栓を除去して、ドクドクっと血液が流れ出すように。
中央銀行の金融政策って超むずそう!って思いませんか?
マネーの量を増やしたいのに、ヘリコプターから紙幣をばら撒くことはできないのです。それができれば簡単ですけど、偶然紙幣を拾った人がラッキーで不平等ですから。銀行の資産を買い取ることで、間接的にマネーの量を操作するなんて難し過ぎです。
サッカーの監督がいくら一生懸命指示を出しても、思うように試合が進まないことはよくあります。間接的に影響力を行使するって難しいことです。FRBは名監督です。
リーマンショックから10年経過
リーマンショック発生からちょうど10年が経とうとしています。月日が経つのは早いです。個人的な話を言えば、大学を卒業して社会人になって10年目に突入しようとしています。
大学生の時、わからないなりに日経新聞に食らいついて、アメリカ発の金融危機の記事を読んでいたことを今でも覚えています。この金融危機の影響で、社会人2年目くらいから就職した監査法人の業績も悪くなり、ボーナスも減りました。監査法人は今では人手不足ですが、当時は退職勧奨がよくなされており社内の雰囲気は悪かったです。
アメリカ経済はいち早く立ち直り、緩やかな景気拡大が10年近く続いています。FRBは利上げを開始しています。アメリカ経済の回復が早いのは企業部門の成長はもちろんのこと、FRBの流動性供給(マネーの質の変化)が大胆かつ巧妙だったことが大きく貢献していると思います。
現代のマネー制度ってホントにかじ取りが難しいです。
わずか数十年で1兆ドル企業が誕生するほど、ダイナミックに経済規模が変化する現代のアメリカ経済において、金本位制に戻るなんて100%不可能です。管理通貨制度じゃないと、経済は持続不能です。
管理通貨制度も良いところばかりではなく、飛びぬけて優秀な「お金の管理者」を必要とするというデメリットもあります。ただアメリカに関して言えば、そのデメリットは特に心配不要なようです。FRBは天才集団です。
米国株投資家にとってドルの価値がどうなるかは関心事の一つですが、そんなに心配は要らないと思ってます。リーマンショックからの10年間のFRBの金融政策と、それほど減価しないドルの動きを見るにつけて、米国に資金を預けている投資家として安心感を覚えます。
私が大学の時は、新聞すらもったいないと思うくらい貧乏だったので、ネットでタダで読めるブルームバーグの記事と日銀のペーパーをひたすら読んでましたよ。おかげで、今も日銀オタクです。
日銀もFRBも今はあまり表にはまだ出してませんが、イエレンが2016年に紹介した高圧経済理論というものにかなり期待しているんですよ。
東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第7回共催コンファレンス
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2018/ron180330a.htm/
そう言えば、大学生の頃はなぜかネットでニュースを読む習慣がなかったですね~。
私が大学生の頃、日経電子版とかあったかな~、ちょっと覚えてないです。
ま、仮にあっても加入する資金力はなかったと思いますが。
日銀の資料はなかなか読む気がしませんね~w、私は。
専門的ですね。
何でもきちんと統計データで数字で把握することって大事だなって思います。
ニュース読んでても、数字で示してくれないとあまり納得できないです。
日銀のペーパーは日銀文学と言われるほどあって、慣れないと分かりにくいですね笑
高圧経済理論を簡単に言うと、政策金利を中立金利よりあえて低めに設定して、労働市場の逼迫を生み出すことにより、生産性が低い企業や産業を人手不足に陥れてシバキあげる理論です。笑
日銀やFRBの生文章なんて読む気になれません(笑)。
WSJなどが作成した要点で精一杯です。
政策金利を下げることで、ゾンビ企業を追いやるってあまりなかった発想です。
普通に考えると、金利を上げて金融環境を引き締めて生産性の低い企業を淘汰させるイメージがあります。
人手も限らるリソースですから、それが行きわたらない企業は消え去るということか。
融資という資源なのか、労働者という資源なのか。
前者を絞るのが利上げ、後者を絞るのが利下げ(高圧経済理論)。
そんな風に解釈しました。