コロナが流行り始めた頃、不要不急というワードがよく出ました。不要不急の外出は控えましょう、といった感じで。今週はこの冬一番の寒気が到来してるそうですが、ここでも不要不急の外出は控えてというニュースを見かけました。

何をもって不要不急と言えるのでしょうか?

スーパーに買い物に行くのは必要。病院へ行くのも必要か。ふむふむ。

ではユニクロへ洋服を買いに行くのはどうなのでしょうか。衣食住の一角を占める買い物ですが。

カフェにコーヒーを飲みに行くのはさすがに不要不急でしょうか。しかし、毎週末のカフェ読書を楽しみにしている人にとって、それを不要不急と言われるのは納得いかないかもしれません。

生活の中で何が不要不急なのか明確には定義できません。法律で決まっているわけでもないです。

ビジネスの世界では資本コストが「不要不急」を決める

さて、ビジネスの世界では不要不急を判断する基準が存在します。はっきり白黒付けれるわけではありませんが、ある程度の目安があります。

その基準とは資本コストです。資本コストは負債コストと株主資本コストに分かれます。

資本コストが低い時とは金利が低く、株価が高い時(益回りが低い、つまりPERが高い時)です。こういう経済環境にあっては、投資家が要求する利回りが低いので、すぐに利益回収できない未来への大きな投資も容認されやすく「不要不急」とは見なされません。

一方で資本コストが高い時とは金利が高く、株価が安い時(益回りが高い、PERが低い時)です。投資家の要求利回りが相対的に高くなっており、利益回収に時間がかかるプロジェクトへの投資は「不要不急」と判断されます。

ご存知の通り、昨今米国では高インフレを受けてFRBが金利をガンガン上げています。グロース株の株価は大きく下がりました。つまり、資本コストは上がっています。

投資家目線で見ると、無リスクの米国債で4%の利回りを確保できるのに、リターンが不確実な案件に投資する必要はない。そんな状況になっています。

GAFAMをはじめとしたテック企業がリストラを行っています(アップルは例外)。マイクロソフトは1万人、アルファベットが1万2千人、メタが1万1千人、アマゾンが1万8千人の人員削減を公表しています。不採算事業、利益回収の目途が付いてない事業はストップとなっています。

テック企業の経営者は一様にこれまでの過剰投資を謝罪しています。誰に対しての謝罪かと言えば、まあ株主に対してでしょうか。

しかし、株主も同罪と言えます。過剰流動性で調子に乗ってテクノロジー企業のバリュエーションをグイグイ引き上げて、それらの企業の資本コストを引き下げた張本人は投資家、マーケットです。

マーケットが投資のGOサインを出したから、テクノロジー企業の経営者たちはどんどん人を採用したとも言えます。マーケットの楽観性が資本コストを押し下げて過剰投資をもたらした面もあります。

いやいや、マーケットがそう動いていたとしても、CEO、CFOは将来の物価上昇、金利上昇くらい想定して予め投資を絞っておくべきだろ。そのための数十億円規模の役員報酬じゃないのか。ちゃんと仕事しろよ。

そう言われれば確かにそうなのかもしれません。うん十億円も貰っているCFOはそれくらいCEOに助言して欲しいものです。

でも、難しかったかもしれません。

2020年、21年の段階で高インフレの到来に対して警鐘を鳴らしていたのは、元財務長官のサマーズ氏など一部の識者のみです。FRBはインフレを一時的なものだと言ってました。

経済は長期停滞と言われたくらいです。少し多めに紙幣をばら撒いたところで、そんなインフレは起きんだろう。多くの人がそう思っていました。

マーケットが手のひらを返して資本コストが上がってしまった今は、「不要不急」のビジネスに投資すべき時ではありません。エネルギー、公益、生活必需品など確実にキャッシュを生むビジネスに投資した方が安全です。一般論としては。

でも、投資は長期的には逆張りが奏功するものです。マーケットが「不要不急」のビジネスから手を引き始めた今こそ、あえてそれらに資金を投じるのもありかもしれません。

繰り返しですが「不要不急」の線引きはマーケットが決めるものです。今は一旦「不要不急」と判断されてしまった多くのビジネスも、いずれまた必要になる時が来るはずです。何でも循環がありますから。

ただ、その時がいつなのかわからないのが問題です。わかったら苦労しませんね。