「資本」は有形固定資産から無形資産に変わった
現代は資本主義社会です。資本を持つ者がより豊かになれるます。が、ここでいう「資本」とは具体的に何を指しているのでしょうか。
株式のこと?
確かに株式というエクイティを保有していれば、企業が稼ぐ利益の一部を配当として吸い上げることができるし、株価が上がればキャピタルゲインを享受できます。株を持っていれば勝手に金が入ってきます。
しかし、株式とは企業の構成員(社員)としての地位を示すだけであって、それ自体が富をもたらすわけではありません。富を生み出すのは企業です。稼ぐ企業はどんなビジネスモデルを持っているのか?
これまでは広大な土地と大規模な工場、最新鋭の生産設備を持つ企業が圧倒的な規模のメリットを活かして粗利率を高め、 高収益を上げてきました。そういった目に見える有形固定資産が富の源泉でした。
ところが、21世紀になって段々と稼げるビジネスモデルが変わってきました。富の源泉は土地・工場・機械設備から頭脳に変わっています。世界トップのSNSであるフェイスブックは、ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏が、学生間の交流を深めるために大学の寮で自らプログラムを書いたことがきっかけでした。今やフェイスブックは時価総額を4,500億ドルを超えNY市場で5位です。
一人の大学生が書いたプログラミングが、20年足らずで50兆円もの価値で評価される。これは20世紀では絶対にあり得なかったことです。資本主義のゲームのルールが変わりつつあります。大規模な有形固定資産を持っていることは今でも競争優位の源泉になりますが、それよりも頭脳、知能といった無形資産へ投資する方が高いリターンを望めます。
経済面での有形固定資産と無形資産の一番の違い。それはコストです。無形資産は限界費用が限りなくゼロに近いです。追加の生産に必要なコストはほぼゼロ。登録アカウント数が増える度にフェイスブックには追加の広告収入が舞い込むわけですが、そこに追加コストは発生しません。むしろネットワーク効果が高まってフェイスブックの利用価値がますます高まります。
優秀な頭脳には億単位の高額な報酬を支払わなくてはいけませんが、それでも複製のコストがゼロに近いことを考えたら、高額なフィーは簡単に回収できます。結果として高い利益率が実現します。NY市場の時価総額上位10社のうち7社がテクノロジー企業です(アップル、マイクロソフト、アマゾン、アリババ、フェイスブック、アルファベット、ビザ)。
資本を持つ者が強いという資本主義経済の根本的なルールは変わっていませんが、「資本」の定義はかなり様変わりしてきました。広大な土地、大規模な生産設備よりも、優秀な頭脳・知能が莫大な富を創出します。
無形資産(頭脳)の調達に大量の資本は不要
2008年の金融危機以降、世界経済は息の長い景気回復期がまだ続いています。貿易問題やブレグジットによって景気の腰が折られる心配も段々と無くなってきたように感じます。
経済は比較的順調なのに、金利は低いままです。米10年債利回りは2016年に一時1.3%台まで低下。現在も2%を割っています。長期金利が上がらない、物価も上がらない。FRBはやむを得ず今年になってFF金利を引き下げました。それも3度も。
なぜ金利は上がらないのでしょうか?
中央銀行の債券買い、長寿化による貯蓄志向などがよく低金利の理由として挙げられますが、私はもっと構造的な要因が背景にあると感じています。それが知識経済への移行です。富の源泉たる「資本」が有形固定資産から無形資産に変化したことです。
お金を使うとは人の時間、労働力を買うことです。あらゆる商品には作り手の労働力が詰まっています。
かつては景気がよくなってビジネスを拡大しようとする時は、大きな工場を建てて高価な生産設備を購入して人を大勢雇っていました。それには大量の資本を必要とします。お金を払わないと生産能力を拡大することはできませんでした。資本の需要が高まると金利は上がります。金利とはお金の値段です。お金の需要が高まれば当然金利は上がりますね。需要と供給の関係です。
しかし、それが徐々に変わってきました。変化の早い時代。半導体ビジネスなど例外はありますが、大量生産する大きな工場を建てるのは流行りません。それよりも、AIなどビジネスを効率化するためのテクノロジーに資本を投下することが増えています。そういった知的財産は相対的に安価です。なぜなら、企業に知的財産をもたらすほどの優秀な頭脳を持つ人の数は多くないからです。あとは先にも言った通り、複製に追加コストが発生しないのも大きいです。
ビジネスを拡大する上で資本(=他人の労働力)が要らなくなってきていること。これが低金利の背景ではないかと思います。
投資家として現在の低金利環境とどう向き合うか
以上を前提に投資家としてどう対応すべきでしょうか。
先ず、今の環境では債券投資は儲からないと思った方がいいでしょう。社会の資金需要が相対的に小さいわけだから、そこに資金を投じても社会的な意義は小さいです。まあ、そんな抽象的な表現をしなくても、低金利だから債券は儲からないとシンプルに考えればいいか。
ただ、これは推測ですがいずれは金利は上がると思います。いつか、今の資本に対する低いニーズに金融環境が最適化されるはず。世の中に出回る貨幣量が少なくなって、資本の需要と供給のバランスが程よい環境がいずれは訪れると思います。資本の供給量が減れば金利は上がります。それがいつになるかは全く読めませんが、債券投資は金利がもうちょっと上がってから検討した方がいいと思います。
あと株式投資について言えば、低金利だから株価、PERが高くても問題ないという説を過信しない方がいいです。今は過渡期。製造自動化などで資本が不要になりつつあるにもかかわらず、社会に流通する資本量が多すぎて低金利になっているだけ。そう感じます。
「資本」の定義が変わろうとも、株主が負うビジネスリスクが大きく低下するわけではありません。企業間競争は激しくなる一方です。マーケットは株式に相応のリターンを求めるはず。高いPERを安易に正当化して、債券よりマシだと高値を無視してガンガン株を買うのは危険です。可能性は低いかもしれませんが、もしS&P500指数のPERが30倍を超えるようなことになれば少し静観しましょう。
いつもながらの慧眼に敬服いたします。
今回の記事に関しても、100%同意です。
銀行が苦しんでいる要因は、低金利やマイナス金利もありますし、成熟経済ということもあると思います。地方銀行においては、そもそも数が多すぎるということもあるでしょう。しかし、銀行が、金利が原因で破綻することは(よほど間抜けな経営でもしない限り)、あり得ません。おっしゃるように、明らかに資本の意味が変わってきている、お金が必要とされなくなっているというのが、本質的な問題だと思います。したがって、銀行にとっては、より深刻です。銀行をリタイアして数年経ちますが、もし現役の経営者だったら、どう舵を取っていけばいいのか途方に暮れているでしょう。しかし、昔から銀行が破綻するのは、信用リスクの取りすぎと相場が決まっています。このまま行くと、そうした事態が顕在化する可能性が高い。金利が上がるのは、それからではないでしょうか。
日本の銀行は不思議です。
なぜあれほどの高給を維持したまま、赤字で存続し続けていれるのか。
間接金融が経済を主導した時代はもう終わりました。
これも既得権益の一種なのかもしれません。
役割を終えた企業はいずれ消滅する運命ですが、金融ビジネスは情報の非対称性が大きく、営業力で無理やりにでも利益を上げ続けることができるのかもしれません。
杜撰な不動産融資の問題もありましたね。
とは言え、地銀は半分弱が赤字ですが。。
貨幣という信用が消えることはないので、その流通を担う銀行はこれからも社会に必要です。
しかし、いかんせん今は数が多すぎますね。
金利が低すぎるのも銀行の経営体力を奪います。
世の中の債務が返済され、貨幣量が減るに従って金利はいずれ上がるはずです。
それまでに業界再編が終わっていることを願います。
他はわかりますが、ビザはテクノロジー企業なのでしょうか?
他の6社はIT企業、ビザはその他金融というイメージなのですが…。
ビザはXLFではなくXLKに含まれているので、ハイテクセクターなのかなと認識しています。
ただビジネス内容的にはおっしゃる通り金融ですね。
ちなみに、この中では実はアマゾンは一般消費財セクターの銘柄です。
それを承知でハイテクにと言っちゃいました。アマゾンは営業利益の大半を稼ぐのはAWSですし。
「すべての企業がテクノロジー企業になる」と言われる時代ですから、何を以ってハイテク企業とするか難しいところです。