完全競争を避けて独占企業に投資すべき

ペイパル・マフィアのドン、フェイスブックの初期投資家で、IPO申請中のビッグデータ解析会社パランティアの創業者でもあるピーター・ティール氏は、資本主義で儲けるには徹底的に競争を避けるべきと言っています。

競合他社を打ち負かして競争に勝つという体育会系の発想はよろしくないと。なぜなら、競争は超過利潤を消失されるから。航空業界がその典型。競合他社がほとんど存在せず、業界を独占できる突き抜けたビジネスでないと起業する意味はないと言います。

なるほど、その通りですね。

これは何もピーター・ティールの独自理論ではなく、むしろ古くから言われていることです。古典的な経営理論です。マイケル・ポーターの「競争戦略」です。ファイブ・フォース分析なるフレームワークを見たことがあるかと思います。あれもその派生ですね。

完全競争にある企業の利益率は低下し儲からない。完全独占にある企業は利益率が安定して高く構造的に儲かる。

以下の条件を満たすと完全競争に近づきます。逆に言えば、以下を避ければ完全独占に近づきます。

・競合企業が多数存在する
・参入障壁が低い
・商品、サービスがコモディティ化している

石油メジャーの業績が悪化しています。石油という製品自体はコモディティですが、競合が少なく(石油メジャーは数社しかない)、大規模設備投資が必要で参入障壁が高いという点で完全競争とは言えません。シェール革命によってその条件が崩れた面はありますが。

決算書を見れば独占企業を見抜くことができる

私たちは長期投資家です。ピーター・ティールやマイケル・ポーターが言う完全競争を避けて、超過利潤を得ている独占企業を選別し、その株を長期保有しないといけません。

そのために経営理論を学ぶ?

確かにそれは重要なことかもしれませんが、もっと簡単に独占企業を見抜く方法があります。過去10年以上の業績データを見ることです。粗利率、営業利益率、ROE、ROIC、これらの指標を見れば、企業が完全競争側にいるのか完全独占側にいるのかわかります。

グーグル親会社のアルファベットと当局(特に欧州)は争いを続けています。当局はグーグルはネット検索事業を独占しており消費者利益を損ねていると主張します。一方で、グーグル側は「いやいや、全世界の広告収入を考えればうちのビジネスはごく僅か。独占なんてしてませんよ。」と言います。

どちらが正しいのでしょうか?

私見ですが、恐らく当局の見解が正しいです。アルファベットは独占ビジネスを営んでいます。なぜなら、利益率がべらぼうに高いからです。過去10年の平均純利益率は22%、営業CFマージンは35%、ROEは16%です。儲けた利益を株主に還元していれば、ROEはもっと高くなっていたでしょう。最近はだいぶ自社株買いが増えてきたけどね。

これらの数値は独占企業のそれです。アルファベットは広告業界で競争していると主張していますが、経営指標を見ればそれが「嘘」だとわかります。明らかに独占ビジネスを行っています。つまり、投資対象として有望だということです(規制リスクは置いておくとして)。

アップル、マイクロソフト、ビザ、マスターカードも同じく独占側にいます。決算書を見れば一目瞭然。完全競争とは程遠い状態です。

競争が激しいと言われる航空業界にいるアメリカン航空(AAL)はどうでしょうか。過去10年の平均純利率は2%、営業CFマージンは8%しかありません。ファイブ・フォースのフレームワークに当てはめて分析するまでもなく、同社が完全競争状態にあることがわかります。

長期投資家は構造的に儲かるビジネスを持つ独占企業の株を買った方がいいです。歴史的にヘルスケアセクターや生活必需品セクターが高い株主リターンを残したのは偶然ではありません。これらの業界は大手数社がビジネスを独占しており、参入障壁も高いからです。21世紀はそこにハイテクセクターも加わりました。

マーケットは独占企業の評価が甘い

さらに投資家として重要なことは、マーケットは独占企業をさほど高く評価していない点です。独占企業であってもPER20倍~30倍程度であることが多いです。平均より高いとは言え、そのプレミアムは小さいと感じます。

いくらビジネスを独占していても、還元ステージにある企業のPERが50倍60倍になれば要警戒ですが、そこまで突き抜けることは少ないです。というか、一部の独占企業は本来それくらいのバリュエーションが付与されても不思議ではないとさえ思います。独占企業は常に割安に放置されていると思います。

決算データ、つまり過去の数字を見て独占企業を見抜き、ほどほどの価格で投資する。これを地道に続けることが長期的に株で富を築く最善の方法かなと思います。