3時間残業するだけでゲームソフトが買える不思議
私の残業単価は2,500~3,000円です。正確に計算したことはありませんが、支給額から逆算するとそんなもんだと思います。若いころはもうちょっと単価が低かったですが、それでも2000円台はあって、学生時代のバイトより遥かに高単価だったのでたくさん残業したい気持ちが正直ありました。目的は言わずもがな投資の種銭稼ぎです。最近は残業はほどほどでいいわ~という心境ですが。
自分の労働が生み出す価値と、その労働によって得られる対価で買える商品とのバランスがおかしいなってよく残業中に思います。普段は固定給の身分ですが、残業は時間給制になるので急にそんな感覚に襲われることがしばしばあります。
たとえば、18時~21時まで3時間残業したら税金などの控除を無視すれば9000円弱の収入になります。9000円もあれば色んな物買えます。
ゲームソフトとか。最近感動したのは任天堂スイッチの「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」です。広大な世界を文字通り自由に行き来することができます。ほんとに冒険って感じです。小学生か中学生の時に大はまりした「ゼルダの伝説 時のオカリナ」も子どもながらに感動しましたが、それのはるか上を行くスケール感です。
そんなゼルダのゲームソフトを、たった3時間残業するだけで買うことができます。これは何かおかしいのではってすごく感じるんですよね。取引が対等じゃない気がしてならないです。なんで、あんなに面白いゲームをたかだか3時間の労働対価で買えるのか不思議です。少なくとも自分の仕事がそれだけの付加価値を生み出せている自信はありません。
単位当たりの労働投入量が原価を決める
商品の値段は需要と供給で決まります。生産者が売りたい価格と消費者が買っても良いと思う価格との攻防の結果、値付けがなされます。とはいえ、生産者としては最低でもこの値段で売らないと元が取れないというラインがあります。つまり、原価です。原価100円のものを90円で販売したら、売れば売るほど損失が拡大します。
じゃあ、原価とはどうやって決まるのか?
端的に言うと原価は労働力の投入量で決まります。その商品を生み出すために何時間分の労働が注がれているか。その時間に標準給与単価を乗じた金額が原価です。人件費はもちろんのこと、原材料も研究開発費もその他経費もあらゆるコストは突き詰めればすべて人件費です。仮に損益計算書のすべての費用科目を一つに集約しなくてはならないとしたら、それは「人件費(Labor Cost)」になります。それ以外は人件費が形を変えたものに過ぎません。世の中のありとあらゆる商品は人間が作ったものです。
では、「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」の制作にはどれだけの労働が投入されているでしょうか。 ゲームの企画から制作、販売までの詳しいフローは知りませんが、優秀なプロデューサー、プログラマー、デザイナー、サウンドクリエーター、その他サポート人員の膨大な時間が注がれていることは想像に難くありません。どれくらいなんですかね。数年がかりなのでしょうか。
一つ確実に言えることは、私の3時間の労働とは全く見合わない量の労働が投入されているということです。
なんでそれほど大量の労働が投入されているテレビゲームが原価割れを起こすことなく、リーズナブルな値段で世の中に出回っているのか。なんで1万円もしない庶民でも手の届く値段で採算が取れるのか。
その理由は主に以下の2点だと思います。
・ソフトウェアは複製にほとんどコストがかからないこと
・需要が膨大で規模の経済が働く
複製のためにでっかい工場は不要でデータをコピーするだけで良いというのは、ゲームなどソフトウェアビジネスの強みです。マスターデータを作るまでには大量の労働投入が求められますが、一旦それが完成してしまえば後はローコストで大量コピーして販売できます。0を100にするまでは大変だけど、100を1,000、10,000、100,000にするのは簡単ということです。
しかし、生産者都合でガンガン複製しても、それに見合う需要がないと意味がありません。複製して規模の経済を働かせる(単位当たりコストを下げる)ためには、需要の大きなマーケットを狙う必要があります。
幸いにしてゼルダの伝説の需要は大きいです。全世界での販売本数は1000万本を超えています。昔からのシリーズだし年代問わずファンが大勢います。私も大好きです。
1000万本というグローバルな需要があり、かつ1本→1000万本にするためのコストが低い(=労働力の投入が不要)。だから、たった3時間残業するだけで超大作のゲームソフトを購入して楽しむことができます。
これは別にゲーム産業だけに限った話ではなく、あらゆるビジネスで言えることですけどね。ゲームという分かりやすい事例で語ってみました。ネットフリックスやディズニー+に千円程度で加入できるのも同じ理屈ですね。
複製が容易でもマーケットが小さいと単位当たりの原価は高くなり、必然消費者の負担するコストも高くなります。たとえば、米国にバロンズという金融専門誌があり、その記事の一部を和訳したバロンズダイジェストというサイトがあります。このサイトのすべての記事を読むには毎月5千円弱も払う必要があります。ネットフリックスより圧倒的にコンテンツ量は少ないのに、コストは5倍もします。
バロンズというウェブコンテンツも複製が容易という点はゼルダと一緒です。異なるのは需要です。マーケットの大きさがまるで違います。バロンズの日本語版なんて、潜在顧客数はどれほどでしょうか。株式投資に興味がある人はそこそこいるとしても、その中で米国株投資をやっておりかつある程度専門的な情報をお金を払ってでも読みたいと思う人はそれほど多くはないはず。
バロンズは世界中の投資家が読んでいるコンテンツですから、書き手には相応の経歴、知識見識が求められます。調査も必要。和訳をする人も、相当な英語力が求められます。当然ながら、そのような人材を安く雇用することはできません。制作にはコストがかかります。の割にマーケットは小さい。となれば、バロンズダイジェストの会費が月5千円になるのはやむを得ないです。
私は有料会員登録するか否か迷った挙句、結局してません。週末の記事は楽天証券で無料で読めるし、やはり月5000円という固定費増はしんどいなあと思い・・。
もし国内だけで500万人がバロンズ日本語版読みたい!ってなってくれれば、会費は月1000円でもペイできるでしょう。そんなことあり得ませんけどね。周りを見渡しても、米国株投資に興味ある人すら誰一人としていませんもんw。私のこのブログは大変ありがたいことに毎日数千人の方にご覧頂けていますが、皆さん一体どこにいるのですか?w
ニッチな趣味はお金がかかります。まあ、株式投資はそれ自体が収益を生んでくれるので、割といやかなりコスパの良い趣味だとは思いますが。