嵐、2020年に活動休止するのか・・、寂しいな。

リーダーの大野智(以下、大野くん)が口火を切ったそうです。SMAPに続いて大物ジャニーズグループの引退ニュースに驚きました。

プリンシパル・エージェント問題とは

突然ですが、コーポレートガバナンスの分野にプリンシパル・エージェント問題なるものがあります。

プリンシパル=依頼人(株主)
エージェント=代理人(経営者)

プリンシパル(株主)とエージェント(経営者)の利害が対立するという問題です。

株主は出資するお金はあるけど、会社を経営する能力も時間もありません。そもそも数百万円しか出資してない少数株主は、自ら経営を担うインセンティブもありません。そこで、CEOやその他経営幹部を雇います。優秀な専門家に経営を任せます。その代わり多額の報酬を支払います。アップルのティムクックCEOの経営者報酬は10億円を超えます(ストックオプション加味すると100億円超)。

経営者は株主利益を最大化するために意思決定する義務があります。莫大な報酬をもらって(委任)契約を結んでいるわけだから当然です。

しかし実際は、経営者が常に株主のために行動するとは限りません。株主利益よりも、自己利益や名声を優先させるリスクがあります。なぜなら、株主は経営者を十分に監視できないからです。CEOの体内にICタグと盗聴器でも付ければ四六時中監視できるかもしれませんが、そんなことしたら誰もCEO職を引き受けてくれないでしょう。日本人株主が米国企業の経営者を監視するのは、物理的にも不可能です。私はアップルの株主ですが、ティムクックCEOの普段の行動、経営判断なんて全く知りません。ニュースで知れる範囲までです。

ゼネラルエレクトリック(GE)のCEOを15年以上務めたジェフ・イメルト氏は、出張の時はいつもプライベートジェットを使っていたそうです。しかも驚いたことに、常に代替機を一緒に飛ばしていたらしいです。つまりプライベートジェット2台です。万が一故障した時に代替機に乗って移動するためとのこと。

GEは世界有数のグローバルカンパニーです。そのCEOとなればプライベートジェットの使用は合理的かもしれません。移動時間は極力削減して、重要な経営意思決定に専念することは株主利益に適うという論理はまあ通用するかな。しかし、2台目の飛行機まで必要でしょうか。そのコスト(燃料代など)を払う価値はあるのでしょうか。何とも言えません。あると言えばあるし、ないと言えばない。

こういうのも広い意味でプリンシパル・エージェント問題です。もしGEの株主総会でCEOの出張にプライベートジェット機を2台使うことの是非を問うたら、相当数の株主が反対しそうです。でも、こういう業務上の意思決定は株主総会決議事項じゃないので、実際に株主がそれを阻止することはできません。

経営者も感情ある人間です。普通に欲望があります。快適な生活が好きだし、自分が偉大なCEOだと誇示したい気持ちだってあるでしょう。最近の日産カルロス・ゴーン事件も同じです。典型的なプリンシパル・エージェント問題です。

プリンシパルは期待を寄せる側で自分は働かない(その代わり金を払う)。エージェントは期待を受ける側で、その期待に応えるために一生懸命がんばる(その代わり金を貰う)。報酬に基づく契約関係はあれど、プリンシパルとエージェントの利害はしばしば対立します。

エージェントとして生きるか、それともプリンシパルとして生きるか。

さて、なぜ突然プリンシパル・エージェント問題の話をしたのか。

それは、この問題は会社経営のみならず、人生にも大きくかかわる問題だからです。『ハーバードのファイナンスの授業 ハーバード・ビジネス・スクール伝説の最終講義』という書籍の文章を紹介します。

社会が自分に望むことを選ぶのか、それとも自分が本当に欲しいものを選ぶのか。自分がそれを選ぶのはなぜか、いつも自分ではっきりとわかっているわけではない。

自分がそれを求めるからか、社会がそれを期待するからか。私たちは社会の期待を背負うエージェントなのか、それとも自分に正直なプリンシパルなのか?

『ハーバードのファイナンス授業』より

自分はエージェントなのか、それともプリンシパルなのか?

どっちが良い悪いという話ではありません。

意識高い系の自己啓発本には、「エージェントではなく自分に正直なプリンシパルになれ!」という主旨のことが書かれてあることが多いと感じます。
換言すると、
・敷かれたレールに乗るつまらない人生を送るな!
・自分のやりたいことだけをやろう
・好きなことで、生きていく
・他人を気にせず、自分に正直になろう

などなど。

確かに自分自身が人生のプリンシパルになるという発想は、ありのままの素の自分で自由に楽しく生きるって感じがして素敵です。

ただ、エージェントの人生だって素敵です。誰かの期待を背負い、その期待のエージェントとなる。上司の期待に応えようと遅くまで資料を作成する。お客さんの期待に沿えるよう必死でプレゼンする。彼女を喜ばすためにディズニーランドデート作戦を考える。子どもを楽しませるために、土曜のお昼に一緒にサッカーする。これらはエージェントとしての生き方かなって思います。

エージェントとして生きるとは、他者の期待に応えることに時間を捧げるということです。それは一見すると「自分」を捨てた生き方に見えるかもしれませんが、全くもってそんなことはないと思います。

人は誰かに必要とされた時に、生きがいを感じるのではないでしょうか。誰かに承認されると嬉しくなります。承認欲求ってカッコ悪いものじゃないです。誰しもある普通の欲求です。インスタ映えを求めて写真を撮る人が多いのも、そういう欲求を満たすためですよね。

プリンシパルの人生って、一見自由で楽しそうに見えるけど、意外としんどいかもなって思います。誰かの期待を背負って、その期待に応えるために頑張るエージェントの人生の方が楽しいかもしれません。いや楽しいというか、楽チンなんだよ、そっちの方が。「人の期待に応える」という人生の目的が勝手に与えられるから。プリンシパルは生きる目的を主体的に見つける必要があって、そこがしんどいところであると同時に、人によっては道楽になるところでもあります。

そもそも、社会で生きるためには大なり小なりエージェントとしての役割を担う必要があります。生きるためには仕事をしてお金を稼ぐ必要がありますが、働くとは他者の期待に応えることに他なりませんから。

人生はある意味で、自分たちに期待されていることや与えられたことに抵抗し、自分自身を見つける旅なのだ。

『ハーバードのファイナンス授業』より


この文章にはあまり共感しない。

プリンシパルとして自分が好きなことを見つける旅に出るのも良いけど、エージェントとして社会から期待されていることに全力で応え続ける人生も素敵だと思います。

まあ、結局どう生きるかなんて本人の自由ってことですね。

大人になったとき、どうやってプリンシパルになったらいいかがわからない。自分の目的を持ったことがなく、他者の希望や夢を満たすことしか知らないので・・・

『ハーバードのファイナンス授業』より


わかる。朝決まった時間に起きて学校に行って授業を受け、午後は部活でサッカーして、夕方家に帰ってご飯食べて宿題やってゲームして寝る。こういう型にはまった生活を幼少期から送っていたら、プリンシパルになるという発想すらなくなります。

プリンシパルになるのは勇気がいることです。株式投資で成功して億万長者になってもサラリーマンを引退する願望はありません。それはきっとエージェントという立場が気楽で、プリンシパルになるのが怖いからかな。そう感じます。

でも何だかんだ言って、プリンシパルの人生の方が楽しいのかな。人生で一度くらい、エージェントとしての役割を捨ててプリンシパルになってみたい。

きっと大野君もそう思ったに違いない。嵐と言えば国民的人気アイドルグループ。ファンクラブ会員数はジャニーズトップの241万人。彼らが背負ってる期待は、一介のサラリーマンHiroの100万倍はあるでしょう。これまでエージェントとして全力で頑張ってきた大野君。エージェントからプリンシパルになるのは勇気が必要だったでしょうが、一度きりの人生だからこその決断だろうと思います。

人生にはエージェントでいたい時もあれば、プリンシパルになりたい時もあるもんです。どっちか一つを選んだからって、もう片方を捨てなきゃいけないわけではありません。プリンシパルの人生に飽きてきたら、またエージェントに戻るのだってありです。

これまでエージェントとしてファンの期待に応え続けてきた大野くん。これからはプリンシパルとして、自分の人生を大いに楽しんで下さい。

あ~、僕もいつかはプリンシパルになろうかな~。やっぱ今のままエージェントでいた方が楽かな。どうだろうか、悩む。こういうのは一度体験しないとわからないかな。まあどっちにしろ、今はエージェントとして頑張る以外ないけど。